かたいなか

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7/11/2023, 11:12:05 AM

「ひとまず1件メッセージが来れば良いんだな」
これは汎用性高いお題じゃないか?某所在住物書きは喜々として、早速物語を組み始めた。
「初めて送った文章。仕事系通知。『電話番号登録してたけど君誰だっけ』の確認、『チケットご用意できました/できませんでした』の当落告知、怪しいグループからの招待あるいは指示通知。等々」
1件挟めばお題クリアだもんな。簡単よな。物書きはひとつ、実際に受け取ったことのある1件の詐欺メッセージの話を組み始める。
「……簡単なハズなのにムズい」
特に面白い展開にはならず、結局挫折した。

――――――

昨日申請したリモートワークが通った。
私の職場はグレーに限りなく近いブラック。
ノルマとか根性論とか、無能なジジババが勤続年数で上に行く年功序列とか、過去の負の遺物を詰め込んだ給料良いだけの職場だけど、
それゆえに、コロナの第二波三波で早々に酷い職場内クラスターを出してた。
おかげで早くからリモート体制が整って、申請も通りやすくなったわけだ。
アツモノ懲りてナマス吹く、とかいうやつだと思う。

総務課で事務方やってる有能なジジ、寺武方さんが言うには、リモートは、仕事効率上がるひととバチクソ下がるひとで二極化してるフシがあるらしい。

で、その仕事効率を更に上げるため、それから今週の電気代を節約するため、
5対5想定の電気代と、まかない代を茶封筒に入れて、エアコンシェアのため職場の先輩のアパートに向かってる途中。
『おはよう 昼メシのリクエストは何かあるか?』
スマホのグルチャに、1件メッセが届いた。
『肉→豚モモブロック
野菜→ネギ 生姜 ナス ピーマン
 他→備蓄白がゆ 低糖質パスタ 糸こん 等』
ピロン。返信編集してる間に、もう1件。
1人分作るのも2人分作るのもさして変わらないからって、先輩は低糖質低塩分の、ヘルシーまかないとスイーツを出してくれる。

なんでこれで独身なんだろう。
なんでこれで恋人いないんだろう。
すべては先輩の初恋相手が、先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊して、先輩を人間嫌いの寂しがり屋にしちゃったせいです(先輩の友人談)
本当に、なんてことをしてくれたのでしょう。

『備蓄白がゆ is 何』
こっちはご飯たかりに行く身分なので、先輩が作ってくれるものなら何でも食べます。
て返信しようと思ったけど、白がゆってのが気になる。部屋に炊飯器が無い、かつ低糖質志向な先輩だから、てっきり、白米食べない系だと思ってた。

『防災の非常食として備蓄していたものだ。普通の白がゆだよ。ただ、賞味期限が来月でな』
『おいしくなる?』
『アレンジは可能だ。スープの素を入れて温めれば、短時間でおじやだか雑炊だかになるし、トマト煮のレトルトと卵をぶち込めばオムライス風が食える』
『白がゆ意外としっかり非常食』

『で、昼のご希望は』
ピロン。再度メッセが来る。冷雑炊食べたい系の返信して、スマホをバッグに戻して、私は先輩の部屋への道を急いだ。
しっかりエアコンの効いた、防音防振の先輩の部屋でガッツリリモートワークして、
お昼は、豚バラの冷しゃぶと生姜少々と、フリーズドライの卵スープを利用した、冷雑炊になった。

7/10/2023, 1:14:02 PM

「『昼寝から』目が覚めるとなのか、『背後の男に頭を叩かれてから』目が覚めるとなのか。
『恋』とか『催眠術』とか、『激昂』とかから目が覚めるハナシも、可能っちゃ可能よな」
で、目が覚めてから何するの、目覚めると何が発生してたのって所まで想定するのは苦労だが、まぁまぁ、自由度高めのお題は何にせよ、ありがたいわな。
某所在住物書きはニュースと防災系アプリで豪雨災害の情報を追いながら、ポテチをかじっていた。
「『病室で』とか、『知らない部屋で』とか。場所もアレンジ可能っちゃ可能だな」
アイディアは出てくるけど、じゃあ自分自身納得できるハナシを書けるかっていうと、別なわけで。物書きはため息を吐き、今日も苦悩して葛藤している。

――――――

7月2度目の月曜日。天気予報によると、今日と明日と明後日は猛暑&熱帯夜確定らしい。
昨日職場の先輩と、稲荷神社でおみくじ引いて、先輩が上を向いた途端子狐が先輩の顔めがけて屋根からダイブ。かわいい。
「駆虫済み、予防接種済みなので安全ですよ」って、巫女装束の関係者さんが笑ってた。
そんなことがあった後の、月曜日。
朝目が覚めたらもう暑くて、汗かきそうになりながら出勤して、気がつけば都内で救急車ひっ迫アラートが発令されてた。

諸兄諸姉の皆様。ご無事でしょうか。
私は無事だけど雪国の田舎出身っていう先輩が、昨日子狐にダイブされた先輩が、溶けてます。

「おかしい」
いつもなら、涼しげでちょっと無表情っぽく、ドチャクソ優秀に仕事をさばく先輩。
「エアコンはついてる。かぜもきてる。なぜこんなにあついんだ」
上司の丸投げゴマスリ大好きクソ係長、後増利係長に、どれだけ仕事を丸投げされても、どれだけ無茶振りされても、ただ淡々と終わらせちゃうのに。
「まどか。まどからねつが、はいりこんでくるのか。それともエアコンのせっていがクソなのか」
今の先輩はギャップが氷点下からの猛暑だ。風邪引いちゃうレベルだ。
「おのれにじゅうはちど」
なんなら、あまりの高温に、ちょっと不定の狂気でも入っちゃってるかもしれない。TRPG知らんけど。

「先輩。私今週リモート申請してこようかなって」
「わたしもいく」
「お金とランチの食材差し出すから、先輩のとこで冷房シェアして良い?」
「らんち……しぇあ……?」

「その前に先輩今頭働いてる?回ってる?」
「あたまを、まわす?」
「了解。ひとまずエアコン設定下げてくる」
「んん」

28℃ルールへの呪詛とか、窓から来る熱への怨嗟とか、でろんでろんに溶けた頭でそれでもポソポソ呟いてる先輩。
そのでろんでろん加減が相当に、相当だったから、
エアコンの設定いじって帰ってきてみたら、日頃先輩にお世話になってる新人くんとか後輩さんとか、なんなら先輩の親友の宇曽野主任とかが、
心配そうに氷入りのコーヒー持ってきたり、自分の冷感タオルの予備貸したり、面白がってでろんでろんをツンツンしたりしてた。

室温がしっかり下がって「目」が「覚めた」先輩。
自分のデスクの上に氷入りコーヒーがあったり、首に冷たいタオルが巻かれたりしてて、
何事だって、目をパチクリさせてた。

7/9/2023, 11:23:37 AM

「文章言語の抜け道が、まさしくコレよな。
『イントネーション、アクセントが欠落してる』」
つまり、私の「当たり前」、当然のことと、
私の「当たり・前」、何かに当たる前と。
バチクソにこじつけだが、捻くれて考えれば後者も書けるわな。某所在住物書きは「Expected(あたりまえ)」ではなく「Before hitting(あたりまえ)」の変わり種を書こうとして、苦悩し、葛藤している。
「……私のおみくじの内容が『当たる』『前』、ってのもアリか?」
俺の固い頭じゃこの辺が限界かねぇ。物書きは首を傾け、ため息を吐き……

――――――

「ここのおみくじ、ちょっとユニークでかわいくて、すごく当たるんだってさ」
7月も、もうすぐ中盤。相変わらず熱帯夜続く都内某所の某稲荷神社。
「先月末に、ホタル見に来たじゃん。その時、買ってる人がチラホラいてさ。気になってたの」
諸事情により、先日まで完全に体調を崩していた乙女。なんとか調子を取り戻し、散歩に来ていた。
手には小さな白い巻き物。赤紐の封を解き縦に開く。
「ふーん。『電話』。でんわ……」
一番上は、デフォルメされたオレンジ色の、ユリに似た花に虫眼鏡を向ける狐のイラスト。
その下には大吉も小凶も、全体運の記載は無く、ただ花の名称と思しき「アキワスレグサ」、それから「電話してみたら」とだけ記されている。
「先週、イヤリング忘れたか、落としたかしたの。『届いてるから電話してみたら』ってことかな」

「どうだろうな?」
ポツリ言って、同じ物を購入したのは、長い付き合いであるところの職場の先輩。
代金を払い、ごろごろ百も二百も入っているだろう木箱の中から、ランダムにひとつ巻き物を掴む。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦。何にでも当てはまりそうな文言を引っ掛けて、その人がその人自身の悩みに気付き、答えを自力で見つけるのを助ける。それがこの手のくじ、だったりしないか?」
早速思い当たるカフェの番号を調べ、電話をかけ始めた女性、つまり己の後輩に視線をやって、
それから、ふと遠くを見た。

「?」
居たのは子狐を撫で抱える巫女装束。すなわち神社関係者。近場にある茶葉屋の店主でもある。
あらあら。稲荷神社のご利益ご縁を信じないのですか?狐にイタズラされても知りませんよ?
巫女装束は、それはそれは良い顔で笑い、子狐を地に下ろした。
「さて。私のは何が書かれているだろうな」
とたんとたんとたん。子狐が全速力で売り場の裏の影に消えていくのを、それとなく見送った後、
購入した巻き物の封を、くるくる解いて開く。

描かれていたのは、白いトリカブトに飛びかかる狐。
書かれていたのは「オクトリカブト」と「上見て」。
「ほらな。誰にでも当てはまる……」
上の地位を目指せ。うつむき下見るより顔を上げよ。まぁ色々な応援激励に利用できる言葉だな。
先輩は小さくため息を吐き、笑って上を見ると、
「……、え?」
視界には、愛と幸福でぽってり膨れた子狐の腹。
数秒待たず己の顔面に当たるだろう直前の、前足後ろ足をパッと広げたモフモフであった。

7/8/2023, 10:56:30 AM

「なかなかに、アレンジのムズいお題よな……」
街の明かりって。「ド田舎は街灯が少ないので夜暗い」とか、「店の明かりを見ると◯◯を思い出す」とか、そういう系想定のお題かな。某所在住物書きはガリガリ頭をかきながら、天井を見上げ息を吐いた。
固い頭の物書きには、少々酷な題目であった。
「花火とか工事中の火花とか、今は法律等々が絡むだろうけど焚き火とかも、『街の明かり』、か?」
わぁ。考えろ考えろ。強敵だぞ。物書きはポテチをかじりながら、懸命に頭を働かせる。

――――――

「ふんふん。天の川は、2025年の、9月8日丑三つ時がねらいめ。おぼえた!」

昨日は七夕でしたね。せっかくなので、こんなおはなしをご用意しました。
「天の川、あまのがわ。たのしみだなぁ」
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、その内末っ子の子狐は、花とお星様がとっても大好きでした。
「きっと、すごく、すごくキレイなんだろなぁ」
でも子狐、「満天の星」を知りません。天の川も、見たことがないのです。
子狐にとって、夜の明かりは街の明かり。建物の照明に街灯のLED。それから標識にスマホのライト。
絶えず光の溢れる東京から、一歩も出たことのない子狐。真っ暗を必要とする星空を、その極地と言える天の川を、写真や絵本でしか見たことがないのです。

そこに「天の川が見られるかもしれない」と重要情報をブチ込んできたのが、母狐経営の茶葉屋さんに昨日お茶っ葉を買いに来たお得意様。
カイキゲッショクは地球が太陽の光を云々で、かんぬんで、モニョモニョなので、場合によっては天の川が見られるかもしれないらしいのです。
真っ暗な場所、可能なら山の上が望ましいとのこと。
子狐はこの情報を、お気に入りのクレヨンで、小さなメモ帳にぐりぐりぐり。すぐさま書き込みました。
「でも、まっくらな場所ってどこだろう?」

コンコン子狐、2025年の場所探しのため、人間にしっかり化けて夜の東京を巡回します。
「ビルの屋上は、ニンゲンが怖いから行けないや」
7月の熱帯夜続く東京。今夜は雨の予報です。
「お店のスキマは、くらいけどお空が見えないや」
アジサイのデフォルメをあしらった水色の傘に、同じ水色のかわいい長靴。絵になりますね。
「お寺も神社も、意外と、らいとあっぷ」
どこもかしこも、LEDに液晶モニタ。たまに悪い車のイジワルハイビーム。
街に明かりがあちこち溢れて、コンコン子狐、暗い東京を見つけられません。
しまいに子狐疲れてしまって、大狸の和菓子屋さんで、七夕あられの値引き品を3袋買ってから、お家に帰ってゆきました。

「東京で、くらいところ探すの、むずかしいなぁ」
1袋は自分用、残り2袋は大好きな父狐と母狐と、おじいちゃん狐とおばあちゃん狐へのお土産、
の筈だったのですが、道中子狐、あられがおいしくておいしくて、全部食べてしまいました。
「ととさんと、かかさんなら、知ってるかも。ととさんとかかさんに、聞かなくちゃ」
かわりに最近越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、お星様のクッキーボックスをお買い上げ。花咲きキノコ並ぶ、森深い夜の神社に帰ってゆきました。
神社はいつか昔の東京をうつして、涼しく、暗く、優しく、子狐を待っておりました。
おしまい、おしまい。

7/7/2023, 10:12:24 AM

「天の川、織女牽牛、織姫彦星、夏の大三角に笹の葉、短冊、願い事。あと何だ?」
そういや小学生の頃、七夕ゼリーみたいなの食ったような、虚偽記憶のような、気がするなぁ。某所在住物書きはソーダ味のアイスをかじり、冷えた黄金色を飲みながら、扇風機の快風に浸っていた。
久方ぶりの年中行事ネタだ。2月はきっとバレンタインで、3月は事実としてひなまつり。5月の子どもの日は別の題目であった。
「『7月7日』という日付についてのハナシを書くか、七夕からイメージする単語の方を重点的に書くか。伝説系に天文学、欲望に恋愛。切り口は、まぁ、そこそこ複数、有るっちゃ有るのか」
ま、俺はぼっちだから、七夕に誰かと予定なんざねぇけど。物書きは小さく息を吐き、アイスをかじる。

――――――

7月7日だ。七夕だ。
天の川を見に行こうとか、七夕の天の川イベントに行こうとか、天の川な七夕そうめん食べに行こうとか。そんな提案が浮かばない程度には酷い熱帯夜だ。
それもその筈。今日は最高気温が35℃で夜の気温も29℃前後。あつい(ふぁっきん熱帯夜)
七夕がもうちょっと秋寄りとか、なんなら4月あたりの涼しい頃なら、天の川も見に行きやすかったのに。
あつい(大事二度宣言)

「つまり、天の川が見たいんだな?」
穏やかな白さの甚平で、晩ごはんの準備をしながら、先輩が私に声をかけてきた。
諸事情で、風邪でもコロナでも何でもないけどダルくて、ごはん作る気力も体力も無くて、長い付き合いな職場の先輩のアパートに避難中。
お金とちょっとの食材をリリースして、先輩に晩ごはんとお茶を自動召喚してもらってる。
今日のお茶はハーブティー。先輩がわざわざ、いきつけの茶葉屋さんから、私の具合の悪いのに合わせてブレンドしてもらってきてくれたらしい。
「2年後の9月、2025年9月8日が狙い目だと思う。どこか街の光から遠い、暗い場所、可能であれば山の上が望ましい。皆既月食だ」
お茶はほんのり温かくて、ちょっと生姜が効いてるみたいで、飲むと体の芯からポカポカしてくる感じ。
ナントカって漢方を参考にしたハーブティーだって聞いたけど、その「ナントカ」は忘れた。

「月食?」
「天の川はとても光が弱い。街灯や、月の光でも、見えづらくなる。皆既月食は、月を光らせる太陽の光を、地球全体が遮ってくれるわけだ」
「織姫と彦星の通せんぼしてるのに、弱いんだね」
「私も不勉強だからよく理解してないが、この月食のときに、一緒に天の川が見られることがあるらしい。見頃は、午前2時半付近から3時50分頃までだな」
「ふーん」

天の川って七夕オンリーなイメージあったけど、別に、七夕じゃなくても見られるんだ。
少しだけ感動しながら、またハーブティーを飲む。
「織姫と彦星も、七夕以外の日にこっそり会ってたりするのかな」
「なんだって?」
七夕と皆既月食が重なる日をネットで調べたけど、2047年らしいから急にスン……てなってやめた。

「だって天の川だって七夕以外の日に出てくるんだもん。織姫彦星も七夕以外に会ってたり、って」
「天の川が見られるのは天文現象で、織姫と彦星が会うのは伝説だろう」
「民間信仰はたまに後世によって書き換えられるって昔授業で聞いた。今の二人実は時々会ってる説」
「随分、随分な新説だな……?」

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