かたいなか

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「『昼寝から』目が覚めるとなのか、『背後の男に頭を叩かれてから』目が覚めるとなのか。
『恋』とか『催眠術』とか、『激昂』とかから目が覚めるハナシも、可能っちゃ可能よな」
で、目が覚めてから何するの、目覚めると何が発生してたのって所まで想定するのは苦労だが、まぁまぁ、自由度高めのお題は何にせよ、ありがたいわな。
某所在住物書きはニュースと防災系アプリで豪雨災害の情報を追いながら、ポテチをかじっていた。
「『病室で』とか、『知らない部屋で』とか。場所もアレンジ可能っちゃ可能だな」
アイディアは出てくるけど、じゃあ自分自身納得できるハナシを書けるかっていうと、別なわけで。物書きはため息を吐き、今日も苦悩して葛藤している。

――――――

7月2度目の月曜日。天気予報によると、今日と明日と明後日は猛暑&熱帯夜確定らしい。
昨日職場の先輩と、稲荷神社でおみくじ引いて、先輩が上を向いた途端子狐が先輩の顔めがけて屋根からダイブ。かわいい。
「駆虫済み、予防接種済みなので安全ですよ」って、巫女装束の関係者さんが笑ってた。
そんなことがあった後の、月曜日。
朝目が覚めたらもう暑くて、汗かきそうになりながら出勤して、気がつけば都内で救急車ひっ迫アラートが発令されてた。

諸兄諸姉の皆様。ご無事でしょうか。
私は無事だけど雪国の田舎出身っていう先輩が、昨日子狐にダイブされた先輩が、溶けてます。

「おかしい」
いつもなら、涼しげでちょっと無表情っぽく、ドチャクソ優秀に仕事をさばく先輩。
「エアコンはついてる。かぜもきてる。なぜこんなにあついんだ」
上司の丸投げゴマスリ大好きクソ係長、後増利係長に、どれだけ仕事を丸投げされても、どれだけ無茶振りされても、ただ淡々と終わらせちゃうのに。
「まどか。まどからねつが、はいりこんでくるのか。それともエアコンのせっていがクソなのか」
今の先輩はギャップが氷点下からの猛暑だ。風邪引いちゃうレベルだ。
「おのれにじゅうはちど」
なんなら、あまりの高温に、ちょっと不定の狂気でも入っちゃってるかもしれない。TRPG知らんけど。

「先輩。私今週リモート申請してこようかなって」
「わたしもいく」
「お金とランチの食材差し出すから、先輩のとこで冷房シェアして良い?」
「らんち……しぇあ……?」

「その前に先輩今頭働いてる?回ってる?」
「あたまを、まわす?」
「了解。ひとまずエアコン設定下げてくる」
「んん」

28℃ルールへの呪詛とか、窓から来る熱への怨嗟とか、でろんでろんに溶けた頭でそれでもポソポソ呟いてる先輩。
そのでろんでろん加減が相当に、相当だったから、
エアコンの設定いじって帰ってきてみたら、日頃先輩にお世話になってる新人くんとか後輩さんとか、なんなら先輩の親友の宇曽野主任とかが、
心配そうに氷入りのコーヒー持ってきたり、自分の冷感タオルの予備貸したり、面白がってでろんでろんをツンツンしたりしてた。

室温がしっかり下がって「目」が「覚めた」先輩。
自分のデスクの上に氷入りコーヒーがあったり、首に冷たいタオルが巻かれたりしてて、
何事だって、目をパチクリさせてた。

7/10/2023, 1:14:02 PM