かたいなか

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「似たお題なら、6月6日付近の『世界の終わりに君と』と、5月6日付近の『明日世界がなくなるとしたら』があったわな」
前回の「手を取り合って」は、何故あんなに納得いく物語が出なかったのだろう。某所在住物書きは昨日から今日にかけての大苦戦を思い、首を深く傾けた。
「『世界の終わり』は、何かが終わるハナシの詰め合わせを書いて、『世界がなくなる』の方は、その日で閉店する駄菓子屋のハナシ書いたわ」
今回も、前回同様、ネタは大量に出てくるけど納得いくのが無い、みたいになるのかな。
物書きはため息をつき、今日も今日とて……

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
人間嫌いと捻くれ者を、併発していた筈の捻くれ者が、ぼっちで暮らしており、
土曜の夜はいつもなら、翌週の仕事の準備をしたり、30℃近い熱帯夜から逃れるため氷を入れた冷茶をたしなんだりしているのだが、
今日はなにやら久々に、隣部署で主任をしている親友さんがご来訪。宇曽野という。
捻くれ者はこの宇曽野に、アイスコーヒーを入れ低糖質スイーツを出し、好きにさせている。
捻くれ者の今の関心事は、テレビとスマホ。特に気象情報。今大雨を降らせている雲は、捻くれ者の故郷を覆い、7月分の雨量を定点で超過した。

「そろそろ、終わりにしたらどうだ」
コーヒーで喉を湿らせて、親友の宇曽野がポツリ捻くれ者に尋ねた。
「何を。仕事か。お前とつるむことか」
気象情報確認中の捻くれ者が尋ね返した。
「確かに、まぁ、私のような捻くれ者など。これ以上一緒に居られても」
一緒に居られても、迷惑なだけだろうな。付け足す声はそのわりに、穏やかである。
「『あいつ』に怯えて逃げる暮らしを、だ」
相変わらず女々しいこと言いやがって。捻くれ者が本気で友好関係の解消を望んでいるわけではないのを察し、宇曽野は訂正して、提案した。

「あいつ」とは、すなわち捻くれ者の初恋にして、失恋相手であった。
捻くれ者が「あいつ」に何をされたか、結果どうなったのか。それは7月3日や6月3日、5月30日投稿分の過去作に説明を丸投げするとして、
要約すれば初恋相手に呟きの裏垢で理不尽かつ自己中心的にディスられ、心をズッタズタのボロッボロに裂かれ壊されたために、連絡先と縁の一切を断ち切り区まで越えて夜逃げしてきたというハナシなのだが、
ともかくこれがトラウマで、捻くれ者は己のアパートに、ごく最低限最小限しか家具を置かなくなった。
いつでも再度夜逃げできるようにである。
それを、そろそろ終わりにしないか。
宇曽野は捻くれ者に提案したのである。

「縁を切って、もう8年だ。もう十分だろう。昔のことは終わりにして、そろそろ、今に戻ってこい」
「既に前なら向いてる。心の不調も仕事に持ち込んではいない。お前も知っているだろう」
「『前』じゃない。『今』だ。お前は『過去』の足枷でジャラジャラ重いまま、気力で走ってるんだ。良い加減、その足枷を外せ。自分を許してやれ」

許すと言っても。自分の何をどう許せというのだ。
捻くれ者は首を振り、ひとつため息を吐く。
「ん?」
解説を求めて顔を上げると、その過程で、宇曽野が非常に見覚えのある茶色とクリーム色の円錐台に、スプーンを当てていることに気付いた。
「宇曽野、お前、それまさか」
それまさか、私が冷蔵庫に入れていたプリンじゃないのか。徐々に威嚇と警戒の表情を表す捻くれ者に、宇曽野は堂々と体積の4分の1をすくい取り、眼前で食ってみせた。

「お前は!お前というやつは!」
「お前だって先月の23日、俺が置き去りにしたプリン食っただろう。おあいこだ!ハハハッ!」
ポコロポコロポコロ。
その後ふたりはひとしきり暴れ倒し、スッキリした後は、ケロッと元通りの仲良しに戻った。

7/15/2023, 2:26:39 PM