かたいなか

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「4月8日あたりが『これからも、ずっと』、翌日が『誰よりも、ずっと』。3月13日あたりが『ずっと隣で』だった」
ずっとシリーズ第4弾かな。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり呟いた。
「『これからも』は『ずっと◯◯し続けたら△△になる』の視点、『誰よりも』は『ずっと、誰より◯◯し続けてきた△△』のハナシ、『隣で』は『ずっと隣同士でい続けた◯◯の隙間に△△が乱入』。
……『し続ける』ってハナシばっかりだな」
別の視点とか切り口とかから、新しいハナシを書きたいのは山々だが、なにせ俺頭が固いからなぁ。
物書きは恒例にため息を吐き、スマホを見る。

――――――

今日も東京は灼熱地獄継続中。今週いっぱい、仕事はリモートワークで申請出して、職場の先輩のアパートで快適にバリバリやってる。
電気代と、食事代を、5:5想定で割り勘して先輩に払うと、その先輩が防音防振かつ快適な温度の部屋と、低糖質低塩分なヘルシーまかない、それからスイーツをシェアしてくれるという高待遇。
昨日は生姜香る豚バラの冷雑炊を貰った。
今日は糸こんと低糖質パスタで糖質50g未満を実現した、冷製トマトパスタとアイス台湾烏龍だ。
後輩は低糖質でも量は食いたいだろう、きっとサッパリしたアイスティーも欲しくなるだろうって、私のことを考えて作ってくれたに違いないランチだった。
先輩マジ先輩。オカン。

なのに何故「人間など嫌いだ」って言うんだろう。
多分先輩の初恋さんが、先輩の心を呟きの裏垢でズッタズタに壊したからです。
じゃあ、初恋さんに心壊される前の、素のまんまの先輩はどんなひとだったんだろう。
それを私は知らんのです。
私が先輩と会う前の、先輩が初恋する前の、初恋で失恋しちゃう前までずっと持ってた「これまでの先輩」が、どんな先輩だったのか。
それを、私は、知らんのです。
ホントにどんな先輩だったんだろう。

「『これまでの私』?」
パスタと糸こんを箸でつまんだまま、先輩が言った。
「『私』は私だ。人間嫌いの捻くれ者。それだけ」
お前も、嫌というほど理解しているだろう。
先輩はポツリ付け足して、パスタを口に入れた。

「そのわりに先輩、私にも後輩にも優しいじゃん。で、昔はもっと、オカンだったのかなって」
「ありがた迷惑の過剰お節介焼き、という意味か。常日頃、悪ぅございましたな」
「そうじゃなくて。なんてのかな。聖母?」
「せい、ぼ?」
「って、私は予想してるんだけど。実際はどうだったのかなって。今の先輩しか、私知らないもん」
「だから。今もこれまでも、私はずっと『私』だ。お前の知る私と何も違わない」

「じゃあ聖母だ」
「なんだその聖母って」

そもそも私などな。面白みの欠片も無い堅物でだな。
ポツポツ下を向いて言いながら、パスタをつっつきお茶で喉を湿らせる先輩は、
初恋ガチャで大ハズレを引いてなけりゃ、この人の自分嫌いもちょっとは軽傷で済んだのかなって、ため息をつく程度には、そこそこ、そこそこだった。

7/12/2023, 2:53:19 PM