かたいなか

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7/13/2023, 2:50:50 PM

「優越感は知らねぇ。劣等感はバンバン出てくるわ」
文章を組みながら、某所在住物書きが呟いた。
自分より短く、しかし読みやすい、あるいは面白い文章。ためになる豆知識。もしくは自分より長いのに、自分より読みやすく引き込まれる物語。
それらの投稿が、物書きには劣等感であり、目標であり加速剤であった。
「ちなみに類似のお題としては、3月26日に『ないものねだり』があったわ。隣の芝生は青く見える、みたいなネタ書いたな」
劣等感が「無いものねだり」なら、優越感は何だ。物書きはしばらく考え、答えは何も出なかった。
「にしても飯ネタこれで3連チャンだわ。頭固いのもバチクソ劣等感よな……」

――――――

職場からグルチャのメッセが届いた。
祝日、来週月曜の東京の、最高気温が38℃予想で、翌日火曜も36℃予想。
暑さに弱いとか、暑さを感じづらい年齢層とかのひとは、来週無理せずにリモートワークを活用するように。とのこと。

ブラックに限りなく近いグレー企業の私達にしては良心的な通達だ、と思ってたら、別グループの方で、噂好きな隣部署の垂古見さんから早速タレコミが。
『昨日無理して出てきた総務課の課長と課長補佐が揃って帰宅後ダウンしちゃったんだって』
あっ(察し) はい(熱中症マジ注意)
「上」が倒れちゃったから、「下」が倒れた時より至極真っ当な采配したんですね。
ふぁっきん(訳:下っ端も大事にしてください)

「先輩どうする?来週もリモート申請する?」
「ん?うん」
「来週もエアコンとランチ、たかりに来て良い?ちゃんと代金半分出すから」
「うん」

都内某所某アパート。防音防振対応の静かな部屋。
電気代節約と、作業効率アップのために、おとといから職場の先輩宅にまかない付きでご厄介になってる。
今は今週3回目のまかないランチ中。
防災非常食を兼ねたレトルトの白がゆと、フリーズドライのクリームオニオンポタージュを使った、チーズリゾットをご馳走になってる。
半熟卵とゼロ糖質パスタに見立てた糸こんは、セルフで入れ放題だ。

味が付いていないから、色々アレンジできるのさ。
先輩がおかゆをコトコト温めながら教えてくれた。
白がゆに、ミネストローネと卵をブチ込めばオムライス風。卵スープなら卵雑炊。サバ缶だのレトルトだのを混ぜるだけなら火も電気も要らない。
便利なものさ。先輩はそう付け足した。
良いな私料理の引き出し少ないもん(劣等感)
でもそんな先輩の料理シェアしてもらえるの、きっと長い付き合いの私と、先輩の親友の宇曽野主任くらいだもん(優越感)
先輩マジ先輩(いっそオカン)

「先輩どしたの。私ばっかり見てるよ」
「気に障ったか。すまない。失礼した」
「違うって。どしたのって」
「なにも。ただ……美味そうに食ってくれるなと」
「ふーん」

オニオンクリームパスタならぬ、オニオンクリーム糸こんを、ちゅるちゅる。
罪悪感から解き放たれてちょっと幸福に食べる私を、そこそこ穏やかな目で見る先輩。
「お前こそ、どうした。そんなに私を見て」
「先輩糸こん追加よろ」
「話をはぐらかすな」
多分、先輩のこんな顔知ってるのも、私と宇曽野主任くらいなんだろうな。
誰に対して、でもないけど、なんか優越感の湧き出てきた私は、追加の糸こんをちゅるちゅる、ちょっと幸福にたいらげた。

7/12/2023, 2:53:19 PM

「4月8日あたりが『これからも、ずっと』、翌日が『誰よりも、ずっと』。3月13日あたりが『ずっと隣で』だった」
ずっとシリーズ第4弾かな。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり呟いた。
「『これからも』は『ずっと◯◯し続けたら△△になる』の視点、『誰よりも』は『ずっと、誰より◯◯し続けてきた△△』のハナシ、『隣で』は『ずっと隣同士でい続けた◯◯の隙間に△△が乱入』。
……『し続ける』ってハナシばっかりだな」
別の視点とか切り口とかから、新しいハナシを書きたいのは山々だが、なにせ俺頭が固いからなぁ。
物書きは恒例にため息を吐き、スマホを見る。

――――――

今日も東京は灼熱地獄継続中。今週いっぱい、仕事はリモートワークで申請出して、職場の先輩のアパートで快適にバリバリやってる。
電気代と、食事代を、5:5想定で割り勘して先輩に払うと、その先輩が防音防振かつ快適な温度の部屋と、低糖質低塩分なヘルシーまかない、それからスイーツをシェアしてくれるという高待遇。
昨日は生姜香る豚バラの冷雑炊を貰った。
今日は糸こんと低糖質パスタで糖質50g未満を実現した、冷製トマトパスタとアイス台湾烏龍だ。
後輩は低糖質でも量は食いたいだろう、きっとサッパリしたアイスティーも欲しくなるだろうって、私のことを考えて作ってくれたに違いないランチだった。
先輩マジ先輩。オカン。

なのに何故「人間など嫌いだ」って言うんだろう。
多分先輩の初恋さんが、先輩の心を呟きの裏垢でズッタズタに壊したからです。
じゃあ、初恋さんに心壊される前の、素のまんまの先輩はどんなひとだったんだろう。
それを私は知らんのです。
私が先輩と会う前の、先輩が初恋する前の、初恋で失恋しちゃう前までずっと持ってた「これまでの先輩」が、どんな先輩だったのか。
それを、私は、知らんのです。
ホントにどんな先輩だったんだろう。

「『これまでの私』?」
パスタと糸こんを箸でつまんだまま、先輩が言った。
「『私』は私だ。人間嫌いの捻くれ者。それだけ」
お前も、嫌というほど理解しているだろう。
先輩はポツリ付け足して、パスタを口に入れた。

「そのわりに先輩、私にも後輩にも優しいじゃん。で、昔はもっと、オカンだったのかなって」
「ありがた迷惑の過剰お節介焼き、という意味か。常日頃、悪ぅございましたな」
「そうじゃなくて。なんてのかな。聖母?」
「せい、ぼ?」
「って、私は予想してるんだけど。実際はどうだったのかなって。今の先輩しか、私知らないもん」
「だから。今もこれまでも、私はずっと『私』だ。お前の知る私と何も違わない」

「じゃあ聖母だ」
「なんだその聖母って」

そもそも私などな。面白みの欠片も無い堅物でだな。
ポツポツ下を向いて言いながら、パスタをつっつきお茶で喉を湿らせる先輩は、
初恋ガチャで大ハズレを引いてなけりゃ、この人の自分嫌いもちょっとは軽傷で済んだのかなって、ため息をつく程度には、そこそこ、そこそこだった。

7/11/2023, 11:12:05 AM

「ひとまず1件メッセージが来れば良いんだな」
これは汎用性高いお題じゃないか?某所在住物書きは喜々として、早速物語を組み始めた。
「初めて送った文章。仕事系通知。『電話番号登録してたけど君誰だっけ』の確認、『チケットご用意できました/できませんでした』の当落告知、怪しいグループからの招待あるいは指示通知。等々」
1件挟めばお題クリアだもんな。簡単よな。物書きはひとつ、実際に受け取ったことのある1件の詐欺メッセージの話を組み始める。
「……簡単なハズなのにムズい」
特に面白い展開にはならず、結局挫折した。

――――――

昨日申請したリモートワークが通った。
私の職場はグレーに限りなく近いブラック。
ノルマとか根性論とか、無能なジジババが勤続年数で上に行く年功序列とか、過去の負の遺物を詰め込んだ給料良いだけの職場だけど、
それゆえに、コロナの第二波三波で早々に酷い職場内クラスターを出してた。
おかげで早くからリモート体制が整って、申請も通りやすくなったわけだ。
アツモノ懲りてナマス吹く、とかいうやつだと思う。

総務課で事務方やってる有能なジジ、寺武方さんが言うには、リモートは、仕事効率上がるひととバチクソ下がるひとで二極化してるフシがあるらしい。

で、その仕事効率を更に上げるため、それから今週の電気代を節約するため、
5対5想定の電気代と、まかない代を茶封筒に入れて、エアコンシェアのため職場の先輩のアパートに向かってる途中。
『おはよう 昼メシのリクエストは何かあるか?』
スマホのグルチャに、1件メッセが届いた。
『肉→豚モモブロック
野菜→ネギ 生姜 ナス ピーマン
 他→備蓄白がゆ 低糖質パスタ 糸こん 等』
ピロン。返信編集してる間に、もう1件。
1人分作るのも2人分作るのもさして変わらないからって、先輩は低糖質低塩分の、ヘルシーまかないとスイーツを出してくれる。

なんでこれで独身なんだろう。
なんでこれで恋人いないんだろう。
すべては先輩の初恋相手が、先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊して、先輩を人間嫌いの寂しがり屋にしちゃったせいです(先輩の友人談)
本当に、なんてことをしてくれたのでしょう。

『備蓄白がゆ is 何』
こっちはご飯たかりに行く身分なので、先輩が作ってくれるものなら何でも食べます。
て返信しようと思ったけど、白がゆってのが気になる。部屋に炊飯器が無い、かつ低糖質志向な先輩だから、てっきり、白米食べない系だと思ってた。

『防災の非常食として備蓄していたものだ。普通の白がゆだよ。ただ、賞味期限が来月でな』
『おいしくなる?』
『アレンジは可能だ。スープの素を入れて温めれば、短時間でおじやだか雑炊だかになるし、トマト煮のレトルトと卵をぶち込めばオムライス風が食える』
『白がゆ意外としっかり非常食』

『で、昼のご希望は』
ピロン。再度メッセが来る。冷雑炊食べたい系の返信して、スマホをバッグに戻して、私は先輩の部屋への道を急いだ。
しっかりエアコンの効いた、防音防振の先輩の部屋でガッツリリモートワークして、
お昼は、豚バラの冷しゃぶと生姜少々と、フリーズドライの卵スープを利用した、冷雑炊になった。

7/10/2023, 1:14:02 PM

「『昼寝から』目が覚めるとなのか、『背後の男に頭を叩かれてから』目が覚めるとなのか。
『恋』とか『催眠術』とか、『激昂』とかから目が覚めるハナシも、可能っちゃ可能よな」
で、目が覚めてから何するの、目覚めると何が発生してたのって所まで想定するのは苦労だが、まぁまぁ、自由度高めのお題は何にせよ、ありがたいわな。
某所在住物書きはニュースと防災系アプリで豪雨災害の情報を追いながら、ポテチをかじっていた。
「『病室で』とか、『知らない部屋で』とか。場所もアレンジ可能っちゃ可能だな」
アイディアは出てくるけど、じゃあ自分自身納得できるハナシを書けるかっていうと、別なわけで。物書きはため息を吐き、今日も苦悩して葛藤している。

――――――

7月2度目の月曜日。天気予報によると、今日と明日と明後日は猛暑&熱帯夜確定らしい。
昨日職場の先輩と、稲荷神社でおみくじ引いて、先輩が上を向いた途端子狐が先輩の顔めがけて屋根からダイブ。かわいい。
「駆虫済み、予防接種済みなので安全ですよ」って、巫女装束の関係者さんが笑ってた。
そんなことがあった後の、月曜日。
朝目が覚めたらもう暑くて、汗かきそうになりながら出勤して、気がつけば都内で救急車ひっ迫アラートが発令されてた。

諸兄諸姉の皆様。ご無事でしょうか。
私は無事だけど雪国の田舎出身っていう先輩が、昨日子狐にダイブされた先輩が、溶けてます。

「おかしい」
いつもなら、涼しげでちょっと無表情っぽく、ドチャクソ優秀に仕事をさばく先輩。
「エアコンはついてる。かぜもきてる。なぜこんなにあついんだ」
上司の丸投げゴマスリ大好きクソ係長、後増利係長に、どれだけ仕事を丸投げされても、どれだけ無茶振りされても、ただ淡々と終わらせちゃうのに。
「まどか。まどからねつが、はいりこんでくるのか。それともエアコンのせっていがクソなのか」
今の先輩はギャップが氷点下からの猛暑だ。風邪引いちゃうレベルだ。
「おのれにじゅうはちど」
なんなら、あまりの高温に、ちょっと不定の狂気でも入っちゃってるかもしれない。TRPG知らんけど。

「先輩。私今週リモート申請してこようかなって」
「わたしもいく」
「お金とランチの食材差し出すから、先輩のとこで冷房シェアして良い?」
「らんち……しぇあ……?」

「その前に先輩今頭働いてる?回ってる?」
「あたまを、まわす?」
「了解。ひとまずエアコン設定下げてくる」
「んん」

28℃ルールへの呪詛とか、窓から来る熱への怨嗟とか、でろんでろんに溶けた頭でそれでもポソポソ呟いてる先輩。
そのでろんでろん加減が相当に、相当だったから、
エアコンの設定いじって帰ってきてみたら、日頃先輩にお世話になってる新人くんとか後輩さんとか、なんなら先輩の親友の宇曽野主任とかが、
心配そうに氷入りのコーヒー持ってきたり、自分の冷感タオルの予備貸したり、面白がってでろんでろんをツンツンしたりしてた。

室温がしっかり下がって「目」が「覚めた」先輩。
自分のデスクの上に氷入りコーヒーがあったり、首に冷たいタオルが巻かれたりしてて、
何事だって、目をパチクリさせてた。

7/9/2023, 11:23:37 AM

「文章言語の抜け道が、まさしくコレよな。
『イントネーション、アクセントが欠落してる』」
つまり、私の「当たり前」、当然のことと、
私の「当たり・前」、何かに当たる前と。
バチクソにこじつけだが、捻くれて考えれば後者も書けるわな。某所在住物書きは「Expected(あたりまえ)」ではなく「Before hitting(あたりまえ)」の変わり種を書こうとして、苦悩し、葛藤している。
「……私のおみくじの内容が『当たる』『前』、ってのもアリか?」
俺の固い頭じゃこの辺が限界かねぇ。物書きは首を傾け、ため息を吐き……

――――――

「ここのおみくじ、ちょっとユニークでかわいくて、すごく当たるんだってさ」
7月も、もうすぐ中盤。相変わらず熱帯夜続く都内某所の某稲荷神社。
「先月末に、ホタル見に来たじゃん。その時、買ってる人がチラホラいてさ。気になってたの」
諸事情により、先日まで完全に体調を崩していた乙女。なんとか調子を取り戻し、散歩に来ていた。
手には小さな白い巻き物。赤紐の封を解き縦に開く。
「ふーん。『電話』。でんわ……」
一番上は、デフォルメされたオレンジ色の、ユリに似た花に虫眼鏡を向ける狐のイラスト。
その下には大吉も小凶も、全体運の記載は無く、ただ花の名称と思しき「アキワスレグサ」、それから「電話してみたら」とだけ記されている。
「先週、イヤリング忘れたか、落としたかしたの。『届いてるから電話してみたら』ってことかな」

「どうだろうな?」
ポツリ言って、同じ物を購入したのは、長い付き合いであるところの職場の先輩。
代金を払い、ごろごろ百も二百も入っているだろう木箱の中から、ランダムにひとつ巻き物を掴む。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦。何にでも当てはまりそうな文言を引っ掛けて、その人がその人自身の悩みに気付き、答えを自力で見つけるのを助ける。それがこの手のくじ、だったりしないか?」
早速思い当たるカフェの番号を調べ、電話をかけ始めた女性、つまり己の後輩に視線をやって、
それから、ふと遠くを見た。

「?」
居たのは子狐を撫で抱える巫女装束。すなわち神社関係者。近場にある茶葉屋の店主でもある。
あらあら。稲荷神社のご利益ご縁を信じないのですか?狐にイタズラされても知りませんよ?
巫女装束は、それはそれは良い顔で笑い、子狐を地に下ろした。
「さて。私のは何が書かれているだろうな」
とたんとたんとたん。子狐が全速力で売り場の裏の影に消えていくのを、それとなく見送った後、
購入した巻き物の封を、くるくる解いて開く。

描かれていたのは、白いトリカブトに飛びかかる狐。
書かれていたのは「オクトリカブト」と「上見て」。
「ほらな。誰にでも当てはまる……」
上の地位を目指せ。うつむき下見るより顔を上げよ。まぁ色々な応援激励に利用できる言葉だな。
先輩は小さくため息を吐き、笑って上を見ると、
「……、え?」
視界には、愛と幸福でぽってり膨れた子狐の腹。
数秒待たず己の顔面に当たるだろう直前の、前足後ろ足をパッと広げたモフモフであった。

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