かたいなか

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6/30/2023, 2:22:26 AM

「入道雲、あるいは雷雲。積乱雲の別名らしいな」
積雲、わた雲が発達して、バチクソ高いとこまで達しちまった雲で、上部が小さい氷の結晶でできてるんだとさ。某所在住物書きは自室の本棚の一冊を取り出し、パラ見して言った。
「真夏に多い夕立ちの、前兆として稲妻が光りだすのは、雨降らせてるのも稲妻光らせてるのも、同じ『入道雲』だからっぽい、と」
で、この「入道雲」のお題の何がてごわいって、俺みたいなその日の天候とか出来事とかリアルタイムで追っかけて、続き物風の投稿してるタイプの場合、投稿日に丁度良くその雲が出てない可能性があるってアクシデントよな。物書きは空を見上げ、息を吐き、
「入道雲『っぽい形』で、何かで代用するか……」

――――――

前回投稿分から続く、ありふれた日常話。
都内某区、某職場休憩室。どんより曇天に、鬱陶しいまでの湿度を伴った6月最終日の始業前。
雪国出身の捻くれ者と、その親友であるところの宇曽野という男が、ぐるぐる巻きの低糖質ソフトクリーム片手に語り合っている。

「お前のこと、一昨日あの稲荷神社で見たぞ」
「稲荷神社のどこで。証拠は」
「あそこのデカいビオトープのホタル。見て感動して後輩から電話が来て。ビビって飛び上がってた」
「ちがう」
「痛い図星を突くとお前は必ず、まず『ちがう』だ」

自分のようなカタブツが、夏の光の数十数百に、少年少女の如く感激するのは「解釈に相違がある」。
昔々の酷い失恋、初恋相手に刺された傷が、未だに捻くれ者の魂と心の深層を蝕んでいる様子。
チロリチロリ。ソフトクリームを舐めては、懸命に友人の証言を否定しようと努力している。
捻くれ者の健気な照れ隠しと懸命な抵抗が、親友として痛ましくも少々微笑ましく、宇曽野は笑った。

「面白い話を教えてやろう」
宇曽野が言った。
「あの神社、噂ではキツネに一千万渡すと、神社の祭神のウカノミタマが降りてきて、『何か』、例えば予言だのご利益だのを授けてくれるんだとさ」
実際、その予言目当てと思われる政治家の目撃情報が、たまに呟きに上がってるぞ。
ニヤニヤ。笑いながら話す彼を、捻くれ者はジト目で凝視して、白いソフトクリームをチロリ。
「『いっせんまんえん』?」
どこかで聞いたフレーズだ。メタな発言が許されるなら、おそらく「6月19日」の「13時02分」。
潰れたクリームのツノは平坦に広がり、その形は今日見当たらぬ夏の積乱雲――入道雲のようであった。
「『キツネ』?」

「所詮根も葉もないゴシップだが、あそこが由緒正しい古神社なのは事実だ。10円でも100円でも突っ込んで、何か願掛けしてくれば良いんじゃないか?」
「何かって、たとえば」
「無病息災。商売繁盛。良縁祈願。『職場の後輩と近々パートナーとして結ばれますように』」
「何故そこでウチの後輩を出す。そもそも彼女、私のことなど、何とも」
「にぶいなぁ。お前もお前の後輩も」

式には呼べよ。スピーチくらいは引き受けてやる。
軽く笑い飛ばす宇曽野は自分の白を片付けて、じき始業開始であるところの己のデスクに戻っていく。
「誰がもう恋などするか」
予想外に量の多かった入道雲を、なんとか短時間で解消しようとした捻くれ者。
大口で塊を崩し、強引に喉に通して、
「……ァ、がっ……、つめた……!」
それが食道を通り胃へ落ちる過程で、地味な氷冷に苦しんだ。

6/28/2023, 12:47:35 PM

「このアプリ、やっぱり投稿が集中する時間帯と、そうでもない時間帯ある気がするんよ」
夏といえば、肉にスイカにビール。某所在住物書きはコップの中の黄金色を、幸福に喉に通した。
「個人的な印象だが、19時のお題発表から日付変わった0時までが最初の山、正午頃にもう1回目の山、で、最後に4時6時付近で3回目。……まぁ、確証は無ぇし、完全になんとなくだけどさ」
だから、書いて自信無い話とか照れる話とかは、投稿多い熱気で賑わう19時とか正午とかに投げれば、他の投稿が自動的に埋めてくれるだろうな、なんて。
物書きはポツリ呟き、またコップを傾けて……

――――――

東京に、本格的な真夏が来た。
向こう10日間最高気温が30℃前後だ。なんなら明日は猛暑一歩手前の予報だ。
6月最後の週、既に熱帯夜がチラホラ予想されてて、
雪国の田舎出身らしい職場の先輩は相変わらず溶けてたけど、自前で仕込んで持ってきてる氷満載の冷茶で、なんとかギリギリSAN値は保ってるみたい。
そんな真夏、最高気温32度、熱帯夜が約束されてる東京の、某所某職場の昼休憩。

「見つけたの。今も都内で飛んでるホタル!」
最後にホタルを見たのが、年齢一桁の子供の頃って、もう一度見たいって、一昨日26日に言ってた先輩。
「結構近場だよ。稲荷神社のビオトープだって!」
「蚊に刺されたくない」って拒否ってたけど、先輩の目が、抑揚が、すごく寂しそうで、
本当はホタルを見たいけど、心の中の何かどこかが酷く痛くて、それを小さな、善良な嘘で一生懸命隠してるように感じた。
「行ってみようよ。神社のホタル。きっと綺麗だよ」
だから一度だけ誘ってみた。呟きアプリとヤホー駆使して、なるべく最新で近所の情報探して。
私の提案を聞く先輩は案の定、ちょっと嬉しそうで、すごく寂しそうだった。

「午後5時頃から8時付近まで雨予報だ。その中で行くつもりなのか」
「明日なら降水確率20パーらしいよ」
「蚊に刺されたくない、と言った筈だが」
「大丈夫。ムヒーもウーナも買ったから」
「刺される前提で話をされてもだな……?」

「かゆみ止めペンの方が良かった?」
「そうじゃない」

そうじゃなくてだな。先輩はポツリ呟いて、視線を下げて、うつむいてしまった。
「変だし、……おかしい、だろう?」
先輩が言った。
「こんなカタブツの、捻くれ者が、花1輪虫1匹で、騒いで。写真など撮って。……そんなやつと、一緒に歩きたくなど、ないだろう」
そこでようやく分かった。先輩の初恋のひとだ。
先輩の親友で隣部署勤務の、宇曽野主任が言ってた。先輩は初恋のひとに心をズッタズタのボロッボロに壊されて、えぐられて、その傷がまだ残ってるって。
「だから、ホタルは、お前ひとりで行くといい」

先輩は、綺麗な花とか空とかの写真を撮る。故郷の綺麗な自然を思い出すんだと思う。
それを、きっと初恋のひとにバチクソにディスられて、否定されて、その傷が心に残ってるんだと思う。
また私に「こいつホタルなんか撮ってる」ってディスられるんじゃないかって、怖いんだ。
「先輩。私、今日の9時頃行ってくる」
うつむく先輩の、目を見て、手に触れて、
「その頃なら、雨やむらしいから。先輩は明日、行ってくるといいよ」
私は先輩に、先輩は先輩のまま、好きなことして良いと思うって、それとなく伝えた。

先輩が神社に、行ったか行ってないかは知らない。
でも私が有言実行で9時に神社に行って、「ホタル綺麗だよ」って敢えて電話したときの、
「だろうな」って返事は、少し声を潜めてた感じがするし、なんとなく幸せそうでもあった、気がした。

6/27/2023, 1:43:59 PM

「4月16日のお題が、ほぼそのまんまよ。読点が付いてるか付いてないかの違いくらいさ」
このお題がまた巡ってくるとはねぇ。某所在住物書きはポツリ呟き、4月16日の題目、「ここではない、どこかで」で投稿した過去作品を確認するため、スマホをスワイプし続けていた。
「2ヶ月も前のお題だから、ドチャクソ長々さかのぼって、『あった4月16日のお題だ』って読みそうな方、少ないだろうなってハナシ」
過去作読む方法がスワイプ一択で、昔であれば昔であるほど辿るのが面倒なところ、その過去作をコピペしてもバレなそう。
物書きは閃き、なおスマホの画面をなぞり続けて……
「にしても、過去作確認するの、苦労オブ苦労……」

――――――

最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社と、「ここ」ではない「どこか」のおはなしです。

「お庭に、知らないニオイのウサギさんがいる!」

敷地内の一軒家で、化け狐の末裔が家族で暮らすその稲荷神社は、草が花が山菜が、いつかの過去を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしていますが、そういうのは大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。

「やいっ、知らないウサギさん!ウカノミタマのオオカミサマの、ご利益ゆたかなお餅いかがですか!」

多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。遠いどこか誰かのおはなしです。
ですが今日も何やらかにやら、稲荷神社に妙な連中が現れた様子。
神社在住のコンコン子狐、神社の庭で、黒い耳飾りに黒い爪飾りをつけた、黒いウサギを見つけました。

「そうよ。俺は『知らないウサギ』」
不服そうな抑揚と表情で、黒いウサギは言いました。
「『この世界』ではない『どこか』から来た、悪いウサギだ。……畜生それだけさ。どれだけ『ここ』で悪逆非道の限りを尽くしても、どれだけ『ここ』で恐ろしいイタズラをしても、その先には行けない。
『ここ』ではない『未来』では、俺のことなんざ綺麗サッパリ忘れ去られちまうのさ」
畜生、畜生。俺だって、「別の世界」ではガッツリ設定も名前もある人間だってのに。「この世界」ではただのチョイ役にしか過ぎないんだ。
ウサギはギーギー毒づいて、子狐を威嚇しました。

「ウサギさん、捻くれてる。やさぐれちゃってる」
「うるせぇ。お前に俺の何が分かる」
「ウサギさん、お餅食べなよ。ウカサマのお餅食べれば、元気になるよ」

ウサギさん、新商品、ウナギの蒲焼きお餅どうぞ。
俺はウサギだぞ。お約束的に、そこはニンジンだろ。
父狐が庭にやって来て、ウサギを鍵付きのキャリーケージに入れ、『世界線管理局 脊椎動物・草食陸上哺乳類担当行き』と書かれた黒穴に送り出すまで、
子狐はウサギの吐く毒を、神社のご利益あるお餅を2個3個、もっちゃもっちゃ食べながら、お利口さんに聞き続けておりました。
おしまい、おしまい。

6/26/2023, 2:44:30 PM

「当たり前の話だが、お題の後ろに言葉を少し足せば、『最後に会った日』の当日、以外の日も書けるな。最後に会った日『の、前日』とか。最後に会った日『から数日後』とか」
あとはなんだ、後ろじゃなく前に言葉を付けて、「学校卒業前の君」と、最後に会った日とか?
某所在住物書きはスマホの通知画面を凝視して、ガリガリ頭をかきながらため息を吐いた。固い頭と、かたより過ぎた知識の引き出しのせいで、ともかくエモい題目が不得意なのである。
物書きの所持するセンサーでは、今回のお題はその「エモい題目」に少々抵触していた。
「まぁエモを狙い過ぎて、『最期』に会った日とか、最後に『逢った』日とかの漢字セレクトになってないだけ、比較的書きやすいっちゃ書きやすい……?」
なワケねぇよな、そうだよな。物書きは再度ため息を、深く、長く吐く。

――――――

雪国の田舎出身っていう職場の先輩が、珍しく、スマホの画面見て笑ってた。
あんまり穏やかに笑ってるから、何だろうって後ろからニョキリ覗き見たら、真っ暗な中に白い点が4、5個表示されてる程度。
「実家の母が送ってきた画像だ」
先輩が私のチラ見に気付いて、説明してくれた。
「今年の、私の故郷のホタルだとさ。ギリギリ白い点がホタルだとは分かるが、何が何だかサッパリだ」
それが、妙におかしくてな。先輩はまた笑って、少し照れくさそうに、スマホをポケットに戻した。

「先輩の故郷、今頃ホタル飛ぶんだ」
「らしいな。いつの間に復活したやら」
「『復活』?」
「よくあることだと思うぞ。農薬の影響や河川の汚れ等で、昔いた筈のホタルが消える。いい具合の自然が残る片田舎なのに、そういう経緯でホタルがいない」
「先輩の田舎も、そうだったの?」
「虫は詳しくないから、何とも、断言できない。ただ、そうだな、コイツと最後に会ったのは、ガキもガキの、年齢一桁の頃だったか」
「ふーん」

見たいな。もう一度。
遠くを見ながら、寂しそうに呟く先輩。
きっとその、「最後に会った日」のことを、覚えてるんだと思う。それを思い出してるんだと思う。
私も先輩の故郷のことは知らないけど、その風景はきっと、日が沈んで月が子供の先輩を照らしてて、
河原か、田んぼか知らないけど、水の音流れる中、たくさんの小さな小さなホタルが飛び交う光景なんだと思う。多分そうだと思う。

「行こうよ」
突発的に、私がポツリ提案すると、先輩は私の方を見て、ハテナマークを頭に浮かべながら頭を傾けた。
「今年は、もう無理かもしれないけど、東京でだってホタルは見れるよ。一緒に見ようよ。ホタル」
来年でも。上手く行けば、今年の滑り込みセーフ狙いでも。付け加えて言う私に、先輩の角度は更に傾いたけど、最終的に酷く寂しそうな、心のどこかが痛いのを一生懸命隠してるような笑顔をして、
「遠慮させて頂く。……蚊に刺されたくない」
何か含みのありそうな理由で、首を小さく、優しく、横に振った。

「大丈夫だよ。ムヒー塗ったら治るよ」
「それでも、かゆいものはかゆいだろう」
「ウーナ派?」
「そういう話ではない、と思うが?」

「最近じゃ『かゆみ止めペン』なんて有るらしいよ」
「待てなんだそれ。知らないぞ」

6/25/2023, 2:24:20 PM

「来たよエモ率高めのお題……」
どの部分が繊細な花か、どう扱う条件下で繊細になる花なのか、いっそ「花」が何かの比喩表現であるか。
某所在住物書きはため息を吐き、久しぶりの難題を前に途方に暮れた。
「繊細な、って。俺、素人だからそういうの、園芸植物でしか見たことねぇのよ。水のやり方で根腐れする系の繊細さとか、日光のあたり具合で土の温度上がっちゃう系の繊細さとかさ……」
もうコレは、「繊細な花」の「花」が「別の何か・誰か」っていうトリックに助けてもらうしかねぇわい。物書きは両手を挙げ、降参の意を示して……

――――――

某列車で、不審者が出た。乗客が刃物を持ってた。
その列車に、車両は違うけど私も乗ってた。
何が何だかサッパリで、ただ皆すごくパニクって、
私は、「はもの!」って叫んだ男のひとの、自分と同じ色のタンクトップと、すごく張ったかすれ声だけ、
妙に、ハッキリ、鮮明に頭に焼き付いた。
あとで、その不審者が車内で誰かを刺したワケじゃないって分かったけど、
その時の私は心臓がバクバクして何も考えられなくて、手が、指が、歯が震えて、
恋してるわけでも、パートナー志望でもないのに、
とっとと自分のアパートに帰れば良いのに、
自分でも、ホントによく分からないけど、真っ先に電話したのが、職場の長い付き合いの、雪国の田舎出身っていう先輩だった。

「明日の仕事は無理をするな。必要なら休め」
茶香炉とかいう焙じ茶製造器に火を入れて、ホットミルクと落ち着けるピアノのBGM用意して、先輩は、突然押し掛けた私のことを部屋に入れてくれた。
「口裏なら私が合わせる。落ち着くまで、ひとまずここに居るといい――カタブツで捻くれ者で、娯楽皆無なこの部屋でも良ければ」
ただし。この部屋にひとつだけ置いている、あの底面給水鉢の葉や茎にだけは触れるなよ。
先輩はそう付け足して、私に温かいマグカップを手渡してくれた。

「あの鉢、何植えてるの」
先輩が貸してくれたタオルケットにくるまって、先輩から貰ったカップに口をつけて、ホットミルクを喉に通すと、ほんの少しだけ心臓が落ち着いた気がした。
「乱暴に触ったら、折れそうな茎してるけど」
葉や茎にだけは触れるな。そう言われた、ひとつだけ置いてある底面給水鉢。
家具が極端に少ない、すぐにでも夜逃げできそうなくらい最小限しか無い先輩の部屋に、それでも置いてある鉢に植えてる何かの、その名前を私は知らない。
でも、スッと伸びて、大きい葉っぱをつけて、小さいツボミをのせてる茎は、高さのわりに細く見えて、
力任せに触ったら、すぐ折れてしまいそうな、とても繊細そうな、それこそ今の心細い私みたいな。
そんな、印象を受けた。

「黙秘。ただ、触らない方が良い。キンポウゲ科だ」
「弱い?折れちゃう?」
「少なくとも、この部屋にこいつを折る敵は居ない」
「そっか。……そうだね」

この部屋に敵は居ない。その言葉がなんとなく、心にストンと下りてきて、ちょっとだけ安心する。
晩ごはんとスイーツとリラックス効果のある焙じ茶製造器を用意してくれた先輩のお言葉に甘えて、
その日は先輩の部屋でご飯食べて、ホットミルクおかわり貰って、ぐっすりひとりで、別に悪夢とか見るでもなく、先輩のふかふかベッドを借りて休んだ。

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