かたいなか

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「このアプリ、やっぱり投稿が集中する時間帯と、そうでもない時間帯ある気がするんよ」
夏といえば、肉にスイカにビール。某所在住物書きはコップの中の黄金色を、幸福に喉に通した。
「個人的な印象だが、19時のお題発表から日付変わった0時までが最初の山、正午頃にもう1回目の山、で、最後に4時6時付近で3回目。……まぁ、確証は無ぇし、完全になんとなくだけどさ」
だから、書いて自信無い話とか照れる話とかは、投稿多い熱気で賑わう19時とか正午とかに投げれば、他の投稿が自動的に埋めてくれるだろうな、なんて。
物書きはポツリ呟き、またコップを傾けて……

――――――

東京に、本格的な真夏が来た。
向こう10日間最高気温が30℃前後だ。なんなら明日は猛暑一歩手前の予報だ。
6月最後の週、既に熱帯夜がチラホラ予想されてて、
雪国の田舎出身らしい職場の先輩は相変わらず溶けてたけど、自前で仕込んで持ってきてる氷満載の冷茶で、なんとかギリギリSAN値は保ってるみたい。
そんな真夏、最高気温32度、熱帯夜が約束されてる東京の、某所某職場の昼休憩。

「見つけたの。今も都内で飛んでるホタル!」
最後にホタルを見たのが、年齢一桁の子供の頃って、もう一度見たいって、一昨日26日に言ってた先輩。
「結構近場だよ。稲荷神社のビオトープだって!」
「蚊に刺されたくない」って拒否ってたけど、先輩の目が、抑揚が、すごく寂しそうで、
本当はホタルを見たいけど、心の中の何かどこかが酷く痛くて、それを小さな、善良な嘘で一生懸命隠してるように感じた。
「行ってみようよ。神社のホタル。きっと綺麗だよ」
だから一度だけ誘ってみた。呟きアプリとヤホー駆使して、なるべく最新で近所の情報探して。
私の提案を聞く先輩は案の定、ちょっと嬉しそうで、すごく寂しそうだった。

「午後5時頃から8時付近まで雨予報だ。その中で行くつもりなのか」
「明日なら降水確率20パーらしいよ」
「蚊に刺されたくない、と言った筈だが」
「大丈夫。ムヒーもウーナも買ったから」
「刺される前提で話をされてもだな……?」

「かゆみ止めペンの方が良かった?」
「そうじゃない」

そうじゃなくてだな。先輩はポツリ呟いて、視線を下げて、うつむいてしまった。
「変だし、……おかしい、だろう?」
先輩が言った。
「こんなカタブツの、捻くれ者が、花1輪虫1匹で、騒いで。写真など撮って。……そんなやつと、一緒に歩きたくなど、ないだろう」
そこでようやく分かった。先輩の初恋のひとだ。
先輩の親友で隣部署勤務の、宇曽野主任が言ってた。先輩は初恋のひとに心をズッタズタのボロッボロに壊されて、えぐられて、その傷がまだ残ってるって。
「だから、ホタルは、お前ひとりで行くといい」

先輩は、綺麗な花とか空とかの写真を撮る。故郷の綺麗な自然を思い出すんだと思う。
それを、きっと初恋のひとにバチクソにディスられて、否定されて、その傷が心に残ってるんだと思う。
また私に「こいつホタルなんか撮ってる」ってディスられるんじゃないかって、怖いんだ。
「先輩。私、今日の9時頃行ってくる」
うつむく先輩の、目を見て、手に触れて、
「その頃なら、雨やむらしいから。先輩は明日、行ってくるといいよ」
私は先輩に、先輩は先輩のまま、好きなことして良いと思うって、それとなく伝えた。

先輩が神社に、行ったか行ってないかは知らない。
でも私が有言実行で9時に神社に行って、「ホタル綺麗だよ」って敢えて電話したときの、
「だろうな」って返事は、少し声を潜めてた感じがするし、なんとなく幸せそうでもあった、気がした。

6/28/2023, 12:47:35 PM