かたいなか

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5/27/2023, 11:00:30 PM

「詳しくはないが、仏教だと、『天国と地獄』っつーより『極楽浄土と地獄』、なんだっけ?」
昨日も昨日だったが今日も今日。固い頭を限界まで酷使して前回の題目を書ききった某所在住物書きであったが、なんと非情なことであろう。
今回の題目も題目で、物書きにとって難題難問。頭を抱え天井を見上げ、ため息をつく案件であった。

「で、詳しくないからこそ分からんのがさ。仏教の輪廻転生思想と極楽&地獄の世界観なのよ。善人は極楽行って即解脱なの?悪人はどうよ?一旦地獄行った後で輪廻に戻るのか?どうなんだろなその辺?」
まぁぶっちゃけ、天国だろうと地獄だろうと、極楽輪廻云々も、信仰してねぇから別に良いけどさ。
物書きは首を傾け、某「カルシウム+サルピス」の乳酸菌飲料によく似た味の般若湯をあおった。

――――――

大抵バッサリ否定されるけど、私は田舎出身っていう先輩の、雪降る故郷をこの世の天国だと思ってる。
夏に酷暑日や超熱帯夜が無いのは勿論、忌まわれし虫Gを東京に来るまで見たことなかったって話は当然、歩く道端にフキノトウやらワラビやらニラやらが取り放題の物量で生えてるのも決定打だけど、
やっぱ一番は、先輩が話してくれる花と静かさだ。

先輩が言うには、先輩の故郷は空き地の片隅でフクジュソウが春顔を出すらしい。
先輩が言うには、お寺の中庭で絶滅危惧種のキバナノアマナが大きな花畑を作るらしい。
あちこちにマルベリーと、山椒の木が生えていて、公園の桜は見飽きるくらい身近で、
昼遊歩道に行けば、山野草咲く道をほぼ独り占め。
夜はバイクの音もパトカーの音も無く、真っ暗な静けさの中で、鳥が鳴き始める朝まで眠るらしい。

先輩は大抵、その故郷を「何も無い街」って言った。
「遠い、花と山野草ばかりの街」って言ってた。
でも24時間喧騒けたたましい、なんなら最近物騒な事件がたて続けに発生してパトカーと救急車が鳥のさえずり代わりになってる東京しか知らない私には、
先輩の故郷は、やっぱり、天国だった。

て話をしたら、先輩は故郷の「地獄」を語りだした。
「夏は確かに酷暑無しだが、冬は、一応、酷いぞ」

「雪降って吹雪くって話?」
「吹雪くどころかホワイトアウトが日常茶飯事だ。その中職場に30分でも1時間でも、自分の車を運転して通うことになる」
「でも皆ちゃんとスタッドレスなんでしょ?」
「そのスタッドレスの車でアイスバーンを走って毎年数百台が滑るし、その何割かが田んぼに突っ込む」
「たんぼ、」
「誇張表現一切無しで、天然のスケートリンクさ。
……綺麗だぞ。路面に、ライトが、反射して。
その交通量多い氷の交差点を、左折なり右折なり」

「むり」
「よって冬は地獄だ。お前が何度天国と言っても」

私も一度帰省中にな。それはそれはスッと、綺麗に180度スリップをだな。
しみじみ遠くを見詰めながら、目を細める先輩。
補足の思い出として酷く恐ろしい単独事故未遂を話してる気がするけど気のせいじゃないと思う。
「天然の、スケートリンク……」
そんな状況見たことないから、脳内妄想の解像度はバチクソ粗いけど、
やっぱり、先輩の故郷は、それでも、まだ、天国だと言い……言……うーん(葛藤)

5/27/2023, 4:15:44 AM

「月に『誓う』のはやめてくれ、ってセリフは、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』で登場してたな。『月は形を変える気まぐれ者だから』って」
で、「月ではなく、あなた自身に誓って」、って続くんだったっけ?某所在住物書きは昔々の記憶を頼りながら、ネット検索の結果をなぞった。
昔々の大学での講義内容である。教授の語り方が特徴的であったため、妙に覚えていた。

「逆にスピリチュアル方面では、『新月に願い事をすれば叶う』なんてのもあるのか」
形を変える不誠実の気まぐれか、願い事を叶えてくれる新月か。タロットでは確か不安定や暗中模索、一筋の光等々。天体ひとつにしても解釈は多種多様なのだと再認識した物書きは、ポテチをかじり、ぽつり。
「お題がエモ過ぎてゼロエモで対抗したくなる定期」

――――――

「先輩お花詳しいじゃん。月っぽい花知らない?」
「は?」
「ネットでさ。『新月に願い事をすると叶うって太古の昔から信じられてる』って」
「聞いたことないが。それで?」

「『ウチの職場のクソ上司ども全員訴えられろ』ってお願いしたら叶うかなって」
「お前の『新月』は私ではなく労基じゃないか?」

ウチの職場の新人ちゃんが、クソ上司にいじめられた心の傷のせいで、今月末で辞めるらしい。
金曜日に退職届持ってきて、課長と話をして、特に引き継ぎが必要な仕事も無いからって、希望通り、5月31日を最後にサヨナラが決定した。
最後の週は有休で全休の予定。ということで、付き合いが長い私のコネとチカラで、新人ちゃんが密かに恋してた先輩本人を誘って、ささやかなお疲れ様会を、某スイーツがおいしい回転寿司で開いた。
新人ちゃん、結局最後まで先輩に告白しないままだったけど、良い思い出にはなったみたい。
愚痴って、共感し合って、悩みを吐き出して泣いて。
「短い間本当にありがとうございました」で、お疲れ様会は終わった。
その帰り道。先輩と私の、ふたりっきりの道中。

「そもそも、『新月』に願い事だろう」
ポン、ポン。律儀にスマホで何か調べ始めた先輩。
「何故そこから『花』に飛躍した?」
そもそも私が知っているのは、私の田舎に咲いている野草だの花だの程度だが?なんて、つらつらつら。
「だって新月じゃスマホのホームに使えないし。花ならキレイだし」
って率直に答えると、先輩は別に、あきれるでもため息つくでもなく、ただ淡々と、数度頷いた。
「月下美人。検索してみろ。綺麗だぞ」
「違うの先輩が撮った画像が欲しいの」
「無い」
「じゃあ花言葉。何か、今月で辞める新人ちゃんに贈れるカンジの元気が出るやつ」
「それが理由か」
「それも、理由」

また数度、小さく頷く先輩。視線をチラチラ滑らせて、ライブラリから画像を選んでタップして。
ピロン、ピロン、ピロン。たて続けに、私のスマホがメッセ到着の通知を鳴らした。
「『喜びも悲しみもあなたを救う』、『星への願い』、『幸せを祈る』」
個チャの画面を見ると、白い星型のキレイな花2種類と、紫の少し差す薄桃色の花が1種類。
綺麗に、ハッキリと、力強く写ってた。
「何の花?」
私が聞くと、
「新人には、内緒にしておけよ」
先輩は淡々と、至極淡々と、答えた。
「ソバとニラとアサツキ」

「……他無い?」
「キンポウゲの『到来する幸福』、キバナノアマナの『開運』、ミズアオイの『前途洋々』」
「開運良いじゃん。新人ちゃんと共有していい?」
「どうぞ。お好きに」

5/25/2023, 2:00:37 PM

「わりぃ、観てる番組と今回到着のお題が、悪魔合体で事故っちまったせいで、頭の中で『いつまでも降り止まない鳩』になってるわ」
スポポズドド。鳩時計をプラスチック小物の投石機かピッチングマシンに仕立てる番組鑑賞中の某所在住物書き。題目と玩具の合体事故で笑いを堪えている。
ひとつのマシンに付いた名前がツボであった。
「コレ今日どうしよう、何書けるよ、鳩?」
ヴィヴァルディ《四季》より、「冬」の第1楽章をBGMに、今日執筆の物語をどうすべきか、物書きはただ、プラスチック製の鳩の小物が空から延々と降ってくる想像に肩を震わせている。

――――――

職場の一緒の部署で頑張ってた、頑張り屋の新人ちゃんが今月で辞めるらしい。
「次の就職先は、これから決めるそうだ」
今日突然の欠勤で、どうしたのかなって心配してたら、先輩のスマホにDMがポン。
「次が決まるまで居たかったが、精神的にキツくて、頑張れそうにないと」
3月末までウチの部署で係長をしていた尾壺根係長、「名前通りのオツボネ様」にいじめられたのが、ともかく傷として酷くて。「キツい」、らしい。
金曜日にひとまず出てきて、ちゃんと手続きをして、その後は有休で月末まで、休むとか。
「お前に感謝しているらしいぞ。『優しくしてくれてありがとうと、お伝え下さい』。だとさ」

オツボネ、ノルマ、ゴマすり、根性論。
自他共に認める、なんなら大々的に知れ渡ってる、ブラックに限りなく近いグレー企業が私達だ。
新人ちゃんみたいに職場に合わなくて、心に傷作って、辞めていく人なんて何人も見てきた。
ここを「ここ」と、知って来ようと、知らずに来ようと、毎年一定数の「新人」が正社員で入ってきては、ノルマやら人間関係やらの名のもとに消耗品同然に使い潰されて、次から次へと辞めていく。
それが経済だと思う。
それが、日本の社会の大多数だと思う。
ふぁっきん(慟哭)

「新人ちゃん、良い仕事見つかるかな」
先輩に届いたメッセの画面を見せてもらいながら、ぽつり、つい不安だか何だか、小さいものが出た。
「止まない雨はある」
コーヒーで口と喉を湿らせて先輩が答えた。
「仕事の向き不向き。人付き合いの得意不得意。時代。運。他人の悪意。……どこでも雨は降る――降って体温と体力を削ってくる」
仕方無い。先輩はそう結んで、コーヒーを飲んだ。

「傘さすなり、建物に入るなり、雨雲から逃げるなりすれば、いつまでも降り止まない雨にだって負けやしない、ってハナシ?」
「お前がそう感じたのであれば」
「私、新人ちゃんにとっての傘か建物に、少しでもなれたのかな。次の仕事でも、新人ちゃんに傘さしてくれるひと、ちゃんと居るかな」
「さぁな。……少なくとも、この文面だけを見る限りでは、お前は新人の傘だったろうさ」

「雨。あめ、ねぇ」
止まない雨はある。どこでも雨は降る。
先輩の言葉が頭の中でぐるぐるして、とっ散らかる。
新人ちゃんが送った「優しくしてくれてありがとうと、お伝え下さい」の文章が、ちょっとだけ、私のしょんぼりに対する気休めに、いわゆる小さな傘に、なってくれてるような気がした。

5/25/2023, 4:37:31 AM

「お題の意図はだいたい予想できる。『不安だった私へ。何事も問題ありません。万事良い方向へ進み終わりました』みたいなハナシを想定してるんだろ」
昨日の俺へ。不安はガッツリ的中しました一旦寝ても起きても全然ネタが浮かびません。素直に何でも良いので書きましょう。某所在住物書きはため息を吐き、一向に進まぬ、今回の投稿分の文章を眺めた。

「『不安だったけどハッピーエンドで終わったよ!』なんてお約束展開、多分遭遇したことねぇよ……」
ガチでそろそろ、お題無視の投稿かお題パスでお休みあたり、考えたほうが良いかな。
ガリガリ。物書きは今日も頭をかき、天井を見る。

――――――

リアル法則ガチ無視のおはなしです。難解なお題に対する苦し紛れなおはなしです。
都内某所の稲荷神社に、不思議な不思議なお餅を売り歩く二足歩行の小狐が、神社敷地内の一軒家に、家族で住んでおりました。
そこの一家の大黒柱、人間に化け某病院に勤め納税までしている父狐が、どうにもこうにも料理下手。
母狐の家事負担が少しでも軽くなるよう、買い出しゴミ出し役所手続き、掃除洗濯にハーブガーデンのお手入れも、そつなくこなす家事パパですが、
天は父狐に料理スキルを与えなかったらしく、煮ては煮溶けて吹きこぼし、焼いては焼け焦げまれに炭。
そのたびカンカン母狐に、仁王立ちと畳に正座で、食材の大切さをよくよく教え諭されるのでした。

それを子供ながらに見てられなくなったのが子狐。

「ととさん、ととさん、おこげどう?」
「大丈夫だよ」
「ホントに?ホントに大丈夫?」
「大丈夫。ほら、見てごらん」

今日も自分のお弁当を、自分でつくる父狐。
子狐コンコン、今日は父狐が母狐の前で正座しなくて済むように、ずっと隣で見ています。
どうしても、父狐の料理が不安なのです。
先週も、先々週も、その不安を抱いて、結局見て見ぬふりをしたところ、火災報知器が鳴ったのです。
あの頃の不安を今日繰り返さないため、コンコン子狐は心を子鬼にして、しっかり父狐を監視するのです。

結構強火なコンロの上には、油が跳ねるフライパン。消費期限間近の半額お肉がじゅーじゅー鳴きます。
「ととさん、火が、ちょっと強いよ」
「そうかい?かかさんは、いっつもこれくらいで、バーっとやっているよ」
「それは、かかさんだから、できるんだよ」

尻尾も振らず、耳もピーンと立て、じっと、真剣に、父狐とお肉を見つめます。
(真剣な目と口、かかさんに似たなぁ……)
ずっと見ているつもりかな。
父狐は子狐の瞳に、母狐の面影をじっと再確認して、
「ととさん!ダメ!けむり!ダメ!」
ギャンギャンギャン。視線を外したその間に、お肉を少し黒くして、子狐に吠えられたその結果、
般若の顔で仁王立ちの、母狐と目が、あいました。

拝啓。先週と先々週、父狐の料理に不安を感じた子狐へ。「自分がちゃんと見てなかったから父狐は料理を失敗したんじゃないか」と数分自分を責めた子狐へ。
君が見ても見なくても、父狐は料理を焦がします。一切気にせず安心して、元気に遊び母狐のおいしいごはんを食べて、すやすや幸せにお昼寝なさい。
おしまい、おしまい。

5/24/2023, 1:30:08 AM

「呪縛、……じゅばく、ねぇ」
「逃れられない」と聞いて、真っ先に浮かぶのなんて「にげられない!」系のイベントバトルとかじゃね?
ポテチとチョコを口に放りながら、某所在住物書きはスマホの通知画面を、そこに示された題目を見た。
「本能も、『逃げられない』っちゃ逃げられないか。あと『いいね』の数とかガチャの収集欲求?」
あと花粉症?アレも逃げられたら幸せよな?
物書きははたと気付き、己の部屋にあるマスクとティッシュの箱を見て――

――――――

私達の職場は、限りなくブラックに近いグレー企業なんだけど、「ブラックに近い」と言い得る確固たる理由が「目標ポイント」だ。
年度最初に、細長い紙っぺらが渡される。自分の名前と3〜4桁の数字が書かれてる。
その数字は、自分が客に今年度売るべき「商品」。
これをこの金額で売れば何ポイント、それをその金額で契約すれば何ポイント。
年度内にポイント分売り切れば優秀。次の年度まで、この、「目標ポイント」の仕事からは開放される。
「『目標』ポイント」だ。名目上、別に達成できなくたって、これが「目標」の筈だ。

私の職場の正社員の半数はこのポイントを集めきれずに上司から呼び出され、アレコレ言われ、精神的に追い詰められて、サイレントで給料に響いて。
辞めるなり、自腹で商品を買うなりする。

職場の言い分はスマートだ。「我々は自腹は強要していません」、「彼が、彼女が、自分から『これを買います』と言ったのです」。
それが1年、1年、また1年。この職場に居る限り、ずっとずっと続いていく。
これこそいわゆる、逃れられない呪縛だと思う。
お客様の中に呪縛解除専門家はいらっしゃいませんか(切実)
なんなら除霊師(労基)とか祈祷師(法律)とかいらっしゃいませんか(わりと切実)

「諦めろ。ここで働く限り、状況は変わらない」
昼休憩、テーブル挟んで向かい側でスープジャーを突っついてる先輩が、文字通りの諦め顔で言った。
「ノルマの強要、パワハラ、自爆、借金。今まで何度この手の問題が取り上げられてきたと思ってる。そのたび上は『コンプラを徹底して参ります』だ。それだけ。それで終わりさ」
嫌なら今のうちに職を変えろ。お前の年齢と力量なら、確実にまだ間に合うし、他で上を目指せる。
応援はする。アドバイスもできると思う。先輩はそう付け足して、またスープジャーを突っついた。

「先輩だって、」
「ん?」
「私と、あんまり歳変わらないじゃん。次探さないの?先輩だって絶対他に良い職場あるよ?」
「……おまえ私を何歳と勘違いしてる?」
「タメ。同い年」

「おないどし、」
「え、」
「そういえば、宇曽野のやつも、たしか私を」
「え?」

年齢不相応も、いわば逃れられない呪縛か?
しょんぼりでも、嬉しいでもなく、なんか単純に軽い衝撃を食らっただけっぽい、ノーマルなポカン顔で、先輩が俯いて、スープジャーをつんつん。
「さすがに年下ではないでしょ?」
先輩の顔を覗き込みながら確認すると、当の先輩は唇をゆるく結んで、数度まばたきして、
「どうおもう?」
少し興味本位に、でも乾いたように、笑ってみせた。

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