かたいなか

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「わりぃ、観てる番組と今回到着のお題が、悪魔合体で事故っちまったせいで、頭の中で『いつまでも降り止まない鳩』になってるわ」
スポポズドド。鳩時計をプラスチック小物の投石機かピッチングマシンに仕立てる番組鑑賞中の某所在住物書き。題目と玩具の合体事故で笑いを堪えている。
ひとつのマシンに付いた名前がツボであった。
「コレ今日どうしよう、何書けるよ、鳩?」
ヴィヴァルディ《四季》より、「冬」の第1楽章をBGMに、今日執筆の物語をどうすべきか、物書きはただ、プラスチック製の鳩の小物が空から延々と降ってくる想像に肩を震わせている。

――――――

職場の一緒の部署で頑張ってた、頑張り屋の新人ちゃんが今月で辞めるらしい。
「次の就職先は、これから決めるそうだ」
今日突然の欠勤で、どうしたのかなって心配してたら、先輩のスマホにDMがポン。
「次が決まるまで居たかったが、精神的にキツくて、頑張れそうにないと」
3月末までウチの部署で係長をしていた尾壺根係長、「名前通りのオツボネ様」にいじめられたのが、ともかく傷として酷くて。「キツい」、らしい。
金曜日にひとまず出てきて、ちゃんと手続きをして、その後は有休で月末まで、休むとか。
「お前に感謝しているらしいぞ。『優しくしてくれてありがとうと、お伝え下さい』。だとさ」

オツボネ、ノルマ、ゴマすり、根性論。
自他共に認める、なんなら大々的に知れ渡ってる、ブラックに限りなく近いグレー企業が私達だ。
新人ちゃんみたいに職場に合わなくて、心に傷作って、辞めていく人なんて何人も見てきた。
ここを「ここ」と、知って来ようと、知らずに来ようと、毎年一定数の「新人」が正社員で入ってきては、ノルマやら人間関係やらの名のもとに消耗品同然に使い潰されて、次から次へと辞めていく。
それが経済だと思う。
それが、日本の社会の大多数だと思う。
ふぁっきん(慟哭)

「新人ちゃん、良い仕事見つかるかな」
先輩に届いたメッセの画面を見せてもらいながら、ぽつり、つい不安だか何だか、小さいものが出た。
「止まない雨はある」
コーヒーで口と喉を湿らせて先輩が答えた。
「仕事の向き不向き。人付き合いの得意不得意。時代。運。他人の悪意。……どこでも雨は降る――降って体温と体力を削ってくる」
仕方無い。先輩はそう結んで、コーヒーを飲んだ。

「傘さすなり、建物に入るなり、雨雲から逃げるなりすれば、いつまでも降り止まない雨にだって負けやしない、ってハナシ?」
「お前がそう感じたのであれば」
「私、新人ちゃんにとっての傘か建物に、少しでもなれたのかな。次の仕事でも、新人ちゃんに傘さしてくれるひと、ちゃんと居るかな」
「さぁな。……少なくとも、この文面だけを見る限りでは、お前は新人の傘だったろうさ」

「雨。あめ、ねぇ」
止まない雨はある。どこでも雨は降る。
先輩の言葉が頭の中でぐるぐるして、とっ散らかる。
新人ちゃんが送った「優しくしてくれてありがとうと、お伝え下さい」の文章が、ちょっとだけ、私のしょんぼりに対する気休めに、いわゆる小さな傘に、なってくれてるような気がした。

5/25/2023, 2:00:37 PM