思考が静脈のように
増えていく。
名前を呼べば輪郭が壊れそうで、
私は沈黙だけを重ねる。
距離は優秀な檻。
近づかないことで感情はまだ形を保てる。
君に会いたくて、
想像が現実を侵食する。
声の温度
視線の重さ
存在しない記憶が、
私の中で事実として保存されていく。
どうして
会えない時間ほど鮮明になるの。
思慕は柔らかい毒、即効性はない。
ただゆっくり思考を君色に染める。
君は触れていない、それなのに
私はすでに変質している。
君に会いたくて
一歩、踏み出さない。
この渇きが失われる方が怖いから。
会わないまま、
私の中に居続ける方が安全だから。
ずっと会えるから。
この日記はかぎ付き。
べつに
大したことは書いてない。
楽しかったこととか、
むかついたこととか、
どうでもいいこと。
だから
開けなくていいの。
なのに
みんな中を見たがる。
勝手にページをめくって、
勝手に笑って、
勝手に決めつける。
だから
かぎをかけた。
守るためじゃない。
これ以上、
傷ついてないふりをしないため。
剥き出しの枝が
空に細い傷を描く。
季節は説明もなく
私を透過させる。
木枯らしは奪わない。
ただ残す、
冷たさと静かな確認だけを。
まるで心まで軽くなるように。
重ねてきた思考が一枚ずつ削がれて、
核心だけが露出するように。
触れれば痛む。
でも嘘じゃない。
音のない圧力が胸腔を撫でる。
生きている証が、
寒さという形で伝わってくる。
だから立ち尽くす。
逃げていく温もりを探さない。
この冷えが、
私を最も正確に保っているから。
他人と同じだと実感するから。
この世界は、大きな箱
中に入ると「だいじょうぶ」って
パパは言うの。
でも
ふたは外から閉まってる。
のぞき穴は小さくて
見えるのは、ほかの人の背中だけ。
出たいって言うと
わがままって言われる。
だから
静かに座る。
この世界は、やさしいふりをした箱
中にいる間は
笑ってなきゃいけない。
そうするとね
みんなやさしいんだ。
でもね
もし
この箱がほんとうに
やさしいなら、
どうして
出たがるわたしをそんなに叩くの?
どうして、
この問いは腐らない
時間に沈めても思考で包んでも
白いまま私を見つめ返す
私と毎夜目が合う
内臓の裏で静かに脈を打つ
それを無視するほど
頭の中で大きくなる
どうして
壊れかけた思考ほど整って見えるの
刃は切るためにあるんじゃない
輪郭を確かめるためにある
触れた瞬間
私はまだ存在していると分かる
闇は私を分解しない
名前も理由も要求しない
未完成のまま
私を許してくれる
どうして
安心はいつも息苦しいの
胸の奥で絡み合う疑問が
ほどけないことを
私はもう望んでいる
「どうして」は出口じゃない
これは私が私の中に
留まるための
錨
答えを与えないで
どうしてを奪わないで
崩れる直前のこの静けさのままで
そうしたら
私は正しい形を保てられるから
答えを与えたら私が間違ってるって
分かるから。