夢を見てたい。
ベッドから起きる直前の、
まだ誰も
名前をつけてないような時間で。
枕元の時計は見ない。
予定も考えずに
世界が始まる前に、
もう少しだけ、ここにいる。
起きない。
夢の中ではうまく笑えるし、
言いたいこともはっきりと
ちゃんと届く。
失敗もしない。
みんなに置いていかれない。
なにより、
がっかりしなくていい。
起きたくない。
目が覚めると、全部戻ってくる。
重さとか、距離とか、
どうにもならない感じ。
枕元の時計は見たくない。
また目を閉じる。
現実に戻る準備は、
まだできてない。
夢を見たくない。
逃げたいわけじゃない。
ただ、少し整えてから
行きたいだけ。
ずっとこのままでいられたら、と
願った瞬間に
時間は少しだけ速度を上げる。
止まっているように見える日々も、
内部では静かに軋み、
同じ形を保つために
皮肉に少しずつ削られている。
変化していないという感覚は、
安定ではなく、
変質を遅延させるための
仮の名称にすぎない。
それでも私は、
同じ景色に何度も触れる。
色褪せた輪郭をなぞり、
失われていないふりをする。
ずっとこのまま、とは
留まりたい願いであり、
同時に
変化を永遠に拒む覚悟でもある。
変化に気づかないふりをしても、
無慈悲に時間だけが、
今も私の背中を
静かに押している。
コートの中で肩をすぼめる。
駅までの道がやけに長く感じる。
けどちょっぴりそれがうれしい。
手袋を忘れたことを、今さら思い出す。
息を吐くたび、白くなる。
ちゃんと生きてる証拠みたいで、
ちょっとだけ安心する。
でもわたしの指先は正直で、
寒いねって言ってる。
さみしいね、って言えばいいのに。
わたしは言わない、恥ずかしいから。
代わりに歩幅を合わせる、何も言わずに。
少しあったかいんだ、それだけでね。
まるで寒さは気づいてほしいように
黙ってくっついてくる、わたしみたいに。
手を繋ぐほどでもないし、
抱きしめるほどでもないくらいに。
いつも通りなんにもせずに家に着いて、
コートを脱いで毛布にくるまる。
中はふわふわで、さっきまでの寒さが
嘘みたいに遠くなっていく。
あの手があれば、
もっと温かいのかなって思う。
まだ寒さが身に染みて、
でも思い出して鼓動がはやくなって
おかげで温かくなった。
20歳の夜、
私は時間の縁に立っていた。
足元では、選択が静かに膿み、
行かなかった未来が
雨粒のように靴先を濡らす。
自由は鍵の形をしているが、
扉の在処だけが思い出せない。
夢は檻の中で呼吸し、
欲望はその外側で
私の名を何度も呼んだ。
若さという免罪符は剥がれ、
残ったのは、
判断を下す権利と
引き受ける覚悟の重さ。
20歳。
祝われる年齢ではなく、
景色を見てしまった者だけが
静かに立たされる地点。
君が見た景色を私も見てみたい
同じ色で、同じ音で、同じ風に触れて
だけどきっと
君の目の奥で、それは少し違っていて
私には届かないかもしれない
それでも
その景色を話す君の顔は
世界で一番きれいだから
私はそれを覚えておく
君が見た景色を
いつか私も同じ場所で同じ気持ちで
見られますように