yuhi

Open App
11/25/2022, 11:23:06 AM

「太陽の下で待ち合わせ」

と彼は彼女に言われたのだけど、あいにくの雨模様で太陽は隠れてしまっている。

たぶん彼女は来ないだろうな。と彼は思いながら、いちおう、喫茶「太陽」の軒先にいる。

「君ならここにくると思った」

傘を差した彼女がきて、彼は「ここで合ってたの?」と聞いた。

「ここじゃなくてもよかったよ。どこにいても、君はわたしの太陽だから」

彼女がそう言うと雨は上がって、虹が出た。

太陽はあなただよ、と彼は言いたい気持ちで彼女を抱きしめた。

11/24/2022, 12:25:07 PM

「迷いセーターを探しています」

電信柱の張り紙にそう書いてある。

「とても人懐っこいです。お心あたりある方はご連絡ください」

帰ったほうがいいんじゃないの?
と、わたしはセーターに話しかける。

迷ってるんじゃなくて、家出なんだけどな。
と、セーターは答える。

わたしと同じだね。帰ろ?

11/22/2022, 10:08:11 PM

借り物競走で借りた夫婦が、ゴール手前で離婚すると言い出した。慌てて俺は考え直すように説得することになった。離婚をしてしまうと、ゴールできない。

あのときは助かりました。

と、その夫婦から手紙が届いたのは、数日後のことだ。

11/21/2022, 10:26:25 PM

狭い道で前から歩いて来た人とすれ違おうとして、譲る方向が同じになっちゃうってことはよくあることなんだけど。

さすがに8度も同じほうになっちゃうのは気まずい。

「えっと、どうしたらいいですか?」

しびれを切らしてわたしが言うと、彼は「えっと、そうですね、じゃあ、こちらで」と立ち止まった。

立ち止まったので、進もうとすると、なぜか彼も同じほうに進みだし、ぶつかりそうになった。

えっと……と気まずくしていると彼が「あの……気が合いそうなので、お茶でもしませんか」と言った。

その道を歩くたび、「最後のはわざとだよね?」とわたしは聞く。

彼はいつも首をかしげて、ちいさく笑うのだった。

11/20/2022, 11:33:50 AM

やけに歩道が混んでいるなあと思ったら、マラソンのコースだったようだ。
ちょうどランナーが通り過ぎていくところで、歓声が上がっている。

先頭のランナーが突然走るのをやめたのは、体の異変ではなかったようだ。

「はい、これ。大事なものでしょ?」

「ありがとう、宝物なの!」

沿道の子どもの手から落ちたぬいぐるみを、ランナーは拾い、その子に返したのだった。

一人、二人と抜かれたランナーはまた何事もなかったかのように走り出した。

そんな宝物のような光景をわたしは見ていた。

Next