「太陽の下で待ち合わせ」
と彼は彼女に言われたのだけど、あいにくの雨模様で太陽は隠れてしまっている。
たぶん彼女は来ないだろうな。と彼は思いながら、いちおう、喫茶「太陽」の軒先にいる。
「君ならここにくると思った」
傘を差した彼女がきて、彼は「ここで合ってたの?」と聞いた。
「ここじゃなくてもよかったよ。どこにいても、君はわたしの太陽だから」
彼女がそう言うと雨は上がって、虹が出た。
太陽はあなただよ、と彼は言いたい気持ちで彼女を抱きしめた。
「迷いセーターを探しています」
電信柱の張り紙にそう書いてある。
「とても人懐っこいです。お心あたりある方はご連絡ください」
帰ったほうがいいんじゃないの?
と、わたしはセーターに話しかける。
迷ってるんじゃなくて、家出なんだけどな。
と、セーターは答える。
わたしと同じだね。帰ろ?
借り物競走で借りた夫婦が、ゴール手前で離婚すると言い出した。慌てて俺は考え直すように説得することになった。離婚をしてしまうと、ゴールできない。
あのときは助かりました。
と、その夫婦から手紙が届いたのは、数日後のことだ。
狭い道で前から歩いて来た人とすれ違おうとして、譲る方向が同じになっちゃうってことはよくあることなんだけど。
さすがに8度も同じほうになっちゃうのは気まずい。
「えっと、どうしたらいいですか?」
しびれを切らしてわたしが言うと、彼は「えっと、そうですね、じゃあ、こちらで」と立ち止まった。
立ち止まったので、進もうとすると、なぜか彼も同じほうに進みだし、ぶつかりそうになった。
えっと……と気まずくしていると彼が「あの……気が合いそうなので、お茶でもしませんか」と言った。
その道を歩くたび、「最後のはわざとだよね?」とわたしは聞く。
彼はいつも首をかしげて、ちいさく笑うのだった。
やけに歩道が混んでいるなあと思ったら、マラソンのコースだったようだ。
ちょうどランナーが通り過ぎていくところで、歓声が上がっている。
先頭のランナーが突然走るのをやめたのは、体の異変ではなかったようだ。
「はい、これ。大事なものでしょ?」
「ありがとう、宝物なの!」
沿道の子どもの手から落ちたぬいぐるみを、ランナーは拾い、その子に返したのだった。
一人、二人と抜かれたランナーはまた何事もなかったかのように走り出した。
そんな宝物のような光景をわたしは見ていた。