神様が舞い降りて、こう言った。
「はいどうも、神様でーす! 初めて神様見たよーって方、手を上げてみてください。あー、ほとんど見たことない? どうですか、みなさんの想像通りのフォルムしてますでしょ? みなさんの想像通りのフォルムなので、一人一人違うふうに見えているんですよ。つまりね、一人一人の神様がいるってことです。なのにこうしてみなさんの前に現れる私、神だね! じゃあ、ネタやりまーす! みなさんジャンケンってご存知ですよね? 私、夏になるとパーしか出せなくなっちゃうんです。なぜだと思います? 紙、サマーなので。……ここで笑わないともう笑うとこないですからね! 以上、神様でしたー!」
神様が消えると、人々は空を見上げた。
パーの手が浮かんでいる。
人々はみんな、空にピースをしたのだった。
最近、小指が引っ張られてる感じがして動かしづらい。たぶん、近くに赤い糸で繋がっている人がいるんだと思う。たぶん、あのひと。あのひとが手を動かすと、引っ張られる感じがするもの。
でもいいや、今はこのストリートピアノが弾きたいからと、赤い糸をちょきんと切る。
ああ、なんて動かしやすい!
小指が喜んでる!
運命の人ならば、何をしたって出逢っちゃうものでしょ、ね?
あのひとがそれを、聴いている。
「ここではないどこかへ旅に行く」と言った飼い猫が夕飯には間に合うように帰ってきた。
「どこかではないここがいいね、やっぱり」とポリポリと頭を掻いている。
気が済むまで、ここにいてほしい。
花影に隠れた一枚の葉っぱの下に、コロポックルがふたりいる。
雨をしのぐそれは、相合傘のよう。
「雨がやんだら帰るの?」と、ひとりが聞く。
「うん」と、もうひとりが答える。
「止まない雨があればいいのにな」
ふたりの手が触れ合うか合わないか、雨が止んだらわかるのに。
好きな本に告白された。
わたしも好きです。と答えたら、好きな本は真っ赤になって、これからもよろしくお願いします、と言った。
いつか別れる日がくることを、いつか再会する日がくることを、考えることもなかった、若い日のこと。