貴方は藍でも朱でもない。
切り開いた臓物は赤黒いし、骨は真白。
人は元々に美しい色合いを持たない。
自ら纏い、名乗ることで初めて色を持つ。
貴方の本当の色はなに?
存在しない色彩に、私は囚われて。
ずっとずっと膚を染めるときを心待ちに。
/ 好きな色
「私色に染める」「貴方色に染めて」なんてこれほど陳腐な言葉はないだろう。貴方には貴方の色がある。長い年月をかけてじわりと染み込んだその色はそのものが美しい。他者の色彩の上書きは淀んだ色を産む。私の世界は、私で決める。
羽ばたく白鳩でも、群青の青空でも
生い茂る緑でも、保障された権利なんかでもない。
私にとっての自由は貴方だった。
たまに吐き出す恨み言。
まるまる包んであわいに寄せた。
泳ぐのは貴方の中。
その背中は象徴。
目指して私は歩を進める。
/ あなたがいたから
どこへだって駆けてゆく二足のシューズ。そこから生えたしなやかな脚、胴、頭。ちょっといいお店の黒珈琲みたいな、透き通った茶色、双眸は何を見ている?正義と平和の色をした貴方の影に、私をそっと入れておいてくれないだろうか。
洗面所の床に寝転がって
まあるい蛍光灯の光に目を細めた。
子供と大人の常識。
あちらこちらで自由に動き回る小さな身体。
自由とはなんだ。
大人になれば自由の範囲すら自ずと縮まる。
広く、広がれ、広げろ。
自由を自由に探せ。手探りで。
/ 未来
いつもと違う視点。幼い頃は何も知らなかった。常識さえ蚊帳の外。世界には己と指向する物体のみ。すさまじい集中と広がる世界は雄大で、かつちっぽけだ。しなやかな線を描く天井の染み。てん、てん、てんと顔に見えた。
喧騒は遠くへ消え
虫の声鳴り響く一面の夜海
しょっぱくて、じめっとした肌触り
空を見上げ、君とふたり二輪で駆ける。
流れ着いた誰かの残骸が呑まれては消えていく。
人工の灯りなどとうに滅び
厭世的なまでの大都市、港。
この世界には、ふたりだけ。
三日月のスポットライトが
囲んで、そして、消えた。
/ 世界の終わりに君と
昔見た映画、古めかしい街に色鮮やかな色彩が灯る。人々の笑みと世界の子供に向けたワンダーランド。絶望を見たとき、果たして私は立ち上がれるのだろうか。拒絶された事実を受け入れて自らの信念を貫き通せるのだろうか。曖昧だ、曖昧なものを明確に形取っていくのは、少し、こわい。
貴方のこころはどんなかたちか。
五月雨、しとしとと揺らぐ水面。
穏やかな夜の波、飲み込まれては消えゆくもの。
私のこころはどんなかたちか。
無秩序、指揮者のいないオーケストラ。
ざわめく喧騒のなかに生じた暗がり。
どこにだって内緒の裏道。
繋がるのは先行きわからぬ渦の中。
たいせつなものを胸に秘めて、
また一歩、道無き道をすり足で。
/ 誰にも言えない秘密
同じヒト科は哺乳類サル目、されど別個体である。ヒトとは不思議なもので、構造は同じであれど思想は異なる。誰に教わる訳でも無く、母体から切り離された時から自動的にぐるぐると思考を始める。「個」のなかで生まれた秘密、正真正銘自分だけのもの。他者に共有するか、自らのうちに留めるか、それはいつだって大きく人を揺るがす。