たろ

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2/23/2024, 10:44:15 AM


【Love you】

どんな時も、いつだって、あなたは真っ直ぐに、想いを伝えてくれていた。
いつからか、シンプルな言葉を繰り返して、こちらを酷く赤面させてくるようになった。
恥ずかしくて顔が赤くなるのを、からかっているのかもしれないと、思い込もうとする自分を遮る様に繰り返される言葉たち。
とにかくたくさんの言葉をくれるあなたに、少しでも言葉を返したくて。
「愛してる。」
ようやく口から出てきた言葉は、酷く掠れて蚊の啼くような小さいものだった。
「!?…えっ!嬉しい、まって!幻聴じゃないよね?」
面と向かって言えずに、後ろから掛けた自分の声を拾ったあなたが、勢い良く振り返る。
「―――っ!」
目が合いそうになって、慌てて視線を外す。
「…かっちゃん、もう一回、聴きたい。」
そっと抱きついてくるあなたの腕が、遠慮がちなのに気が付いてしまって、いよいよ恥ずかしさが込み上げてくる。
「夢じゃないって、幻聴じゃないって、言って欲しい。ムリ言って、ごめんね。」
あなたの半分よりもずっと少ない回数しか言えていない言葉を、どうにかして伝えなくてはと思うのに、喉が塞がったように動かなくて、溺れてしまいそうだ。
「…嘘じゃない。本当に、言った。」
その言葉だけが、出て来ないのだ。
「うん、聴いてた。聴いていたんだけど、もう一回聴きたいの。お願い、かっちゃん。愛してる。大好き。」
雨のように落ちてくる言葉たちが、身体に沁み込んでくるような気がした。
「…愛してる。和真の事、愛してる。」
ようやく言葉が音になって、口から滑り落ちて来た。やっと出てきた言葉を、きちんと伝えなくては、とあなたに向き合う様に体を動かす。
「オレも、かっちゃんの事が大好き!愛してるよ!」
ぎゅうぎゅうと力強く抱き寄せるあなたの腕が、喜びの強さを伝えてくれる。
「かず、ま?大好き。」
いつまでも離れようとしないあなたの腕に、そっと口付けをした。

あなたの愛に、包まれている。
そう、想った。

2/22/2024, 10:04:38 AM

【太陽のような】

「かっちゃんは、オレの太陽だよ!」
あなたは、そう言って笑う。
「カズくんの笑顔は、太陽みたいだと思うけど?」
太陽のようなあなたをずっと見つめている自分自身が、太陽を追い駆けている向日葵と重なる。
「かっちゃんにそう言われると、嬉しいけど…。何か、違うなぁ。」
難しい顔をして唸ってしまうあなたが、ぽんっと手を打った。
「オレがヒマワリの方だと思うなぁ。だって、抜けそうに真っ青な空を横切っていく、キラキラして恰好良い太陽みたいなかっちゃん!画になるじゃん!」
断言して、鼻息を荒くしているあなたに苦笑いする。
「ありがとう。…照れる。」
少しだけ、小出しにして欲しいと思った。

2/21/2024, 10:16:17 AM

【0からの】

きっと始まりなんて、なかったと思う。
産声を上げたその日から、もう始まっていたのだから。
運命や必然では表せない何かが、二人を繋いだのだ。
きっと二人は、出会うべくして出逢ったのだろう。

物理的な距離は、限りなくゼロに近く。
精神的な距離も、限りなくゼロにしたい。
そんな風に思いながら、ゼロからの関係を築き上げてきたのだ。


2/20/2024, 10:12:04 AM


【同情】

きっと傍に居てくれるのは、同情とか憐憫なのだろうと思っていたのに。
「大好きだよ、かっちゃん。かっちゃんが嫌いって言っても、離れない。…ごめんね、オレが離れられなくなっちゃったの。」
あろう事か、あなたはおかしな事を口にし始めたのだ。
「…無理、しなくて、いい、から。」
何度か同じ事を口にしては、苦笑いのあなたに否定される。
「オレは、無理してない。無理してるのは、かっちゃんの方。」
ベッドのサイドテーブルに色んな物を持ち込んでは、自力でベッドから出られない自分の隣で、本を読んだり、書き物をしたり、あなたは自由に過ごしている。
「学校、行って。」
思うより、か細く掠れた声が出て、恥ずかしくなって頭から掛布団を被った。
「あぁ、かっちゃんと一緒に、休学する事にした。一緒に卒業したいから。大丈夫だよ。」
ぽんぽんと掛布団を優しく叩く。
「―――っ!馬鹿。早く、学校、行けよ!」
こんな事で、足を引っ張りたくない。そう切実に思った。
「嫌!あのね、オレ独りで学校行ったら、かっちゃんが居ないだけで、すっげぇつまんなくて、もう学校行くの辞めようと思った。でも、かっちゃんと一緒に卒業したいから、辞めるのを止めようと思った訳。親にもちゃんと話して、同意は取った。自分で決めたから、大丈夫。」
真剣な顔で、はっきりと告げられた言葉に、呆れるしかない。
「かっちゃんと一緒に行けない学校なんて、無意味だよ。」
真面目な顔で、何を言い出すかと思えば、世迷言そのものだった。
「呆れてるだろ、ご両親。」
自分よりも厳格な両親の元に産まれたあなたに、申し訳なくなる。
「いつも通り、オヤジは呆れてだけど、おかんは応援してくれた。」
何も心配は要らないと鼻息荒く、あなたはガッツポーズしている。
「本当、馬鹿だな。」
同情でも憐憫でも、何でも良くなった。
あなたが傍に居てくれるなら、何でもしようと想った。

2/19/2024, 10:54:38 AM


【枯葉】


「あれ?この辺だと思ったんだけどな…。」
だいたいの方向は合っていて、表記された所要時間は過ぎている。
「ゆっくり歩いて来たから、もう少し先にあるんじゃ?」
少し、遠い気がした。道を間違えているなら、早めに引き返したほうが良い。
「ちょっとココで待ってて。聴いてくる!」

メインストリートが幸いして、人通りは多いので、行きたい方向から戻って来ている人たちに声を掛ける。
「すみません。道を訊ねたいんですけど、これっぽい所、向こうにありました?友達と一緒に行きたくて。」
事前に調べていた施設のアクセスマップを見せる。
「え?あったっけ?…ドコ?あー、あったわ。でも、ドコ曲がるの?ちょっと入った所にあると思う。」
わいわいとカップルが、話してくれる。
「迷子かね?アラ、何処に行きたいの?」
気の良さそうな老夫婦が話し掛けてきた。
「友達と一緒に、ココに行きたくて。」
あっと言う間に、色んな人に囲まれてしまって、あぁでもないこうでもないと賑やかになって、結論が出た。
「皆さん、ありがとうございます!デートとお出掛け、楽しんで来てくださいね!オレも楽しんで来ます!」

木枯らしが軽く走って行って、枯れ葉が宙を舞う。
「わ、待たせちゃってる。」
大きく手を振ると、俯向いている顔が上がって、小さく手を振り返してくれるあなたがいた。
人集りを掻き分けて、ぽつんと佇むあなたの元へ駆けていく。
「お待たせ、かっちゃん。道、聴いてきたから。こっち、行こう!」
あなたの隣に、1枚の枯葉。
(一緒に待っててくれたんだ。ありがとね。)
あなたの手を取って、見送ってくれる人集りに手を振った。
「行ってきまーす!」
ぺこりと会釈するあなたの手を引いて、歩き出す。

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