たろ

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2/18/2024, 10:12:54 AM

※閲覧注意※
悪者系モブが出てきます。
胸糞悪い事をしやがります。
良い子は真似しちゃダメだよ。


【今日にさよなら】


「何しやがってんすか、アンタ。」
あなたの地を這うような声を、初めて聴いた。

気色悪い本性を見られてしまった。
「自分で呼んだのか?色気付きやがって。」
一気に血の気が引く。眼の前が真っ暗になった気がした。
「…ケイ兄。隣ん家、今すぐ来て。知らんオッサンが隣ん家の子の上に乗っかってんだけど。」
見られたくなくて体を縮めたいのに、全く動かない。
「最悪…。マジで、やって良い?」
冷たく見下す瞳が、とても恐ろしかった。
(…終った。)
軽蔑や侮蔑を宿した眼が、こちらを見ている。
「早くしないと、我慢できない。」
楽しそうに笑う男の声が、酷く遠い。
「お前がお前なら、そのお友達も同類か!」
気持ちが悪い、行為自体が穢らわしい。
「クソビッチが!」
なのに、躰は悦んでいるのだと、この男は言っていた。
「…オッサンの目って、見えてないの?」
瞳孔が開いたままの、爛々とした眼。
嬉々として開く唇には、毒々しい言葉が乗っていた。
「はい、そこまで!全員、動かないで!」
ぜぇはぁと息を切らした若い男が、飛び込んできた。
「だあぁ!動かないで、つってるでしょ!お兄さん!」
全員お兄さんじゃん!とか言いながら、若い男は瞳孔が開いたままの少年と男性の間に、体を滑り込ませた。
「はい、未成年者暴行で現行ね。取り敢えず、このままじっとしてて下さい。」

どやどやと人の気配が複数近付いてきて、入れ代わり立ち代わり、近付いては遠ざかって行く。


「ごめんね、かっちゃん。気付くのも、助けるのも遅くなっちゃった。」
茫然と天井を見上げたまま、動かない自分を抱き締める温もり。
「…無理、しなくて、いいから。」
震える唇で、ごめんと呟いた。
「無理してないよ。体、綺麗にしよ。」
力強い腕が自分の体を抱き上げた。

頭から足の先まで、丁寧に洗ってくれる手が優しくて、空っぽの心が泣き出した。
「今日のことは、全部忘れて良いから。かっちゃんが覚えてたり、嫌な思いする必要なんか、何処にも無いんだから。」
体を湯船に漬けてくれて、ずっと傍に居て見守ってくれるあなたが、とても優しくて苦しい。



『あの日の今日に、さよならを。』

2/17/2024, 10:16:55 AM


【お気に入り】

子供の頃からの、お気に入り。
何時も何時も一緒に過ごして、草臥れるどころか、ずっと鮮やかで常に新しいを更新していく。
(ずっと一緒に居られたら良いなぁ。)
そう何度思っただろうか。
願望が強過ぎたのか、夢にまで出てくるようになってしまった。
「憧れ…。で、良いのかな?」
誰もが羨む容姿と理性的で冷静沈着な人柄は、理想の顕現とも思える。
「はぁ~、恰好良いなぁ…。」
産まれてきた時から、ずっと一緒に育ってきて、息をするのと同じくらい身近で、空気の様に無いと困る存在。
「…何時まで、一緒に居てくれるのかなぁ。」
悩ましい疑問に、答えてくれる人はいない。

2/16/2024, 10:34:15 AM

【誰よりも】

あなたへの想いは、誰よりも強いと自負している。
あなたの繊細な心を護って行くと決めた日から、ずっと傍にいると決意したのを鮮明に覚えている。
「少し休憩しない?疲れちゃうよ。」
誰よりも頑張るあなたの背中が、時折疲労の影を落とすことがある。
「あと、水分取ろうね?」
何となく、疲労が強い時や眠たそうな時が判るようになったら、邪魔をすると怒るタイミングまで判るようになった。
「…何でも、知ってるんだな。」
驚いた様子で苦笑いするあなたが、マグカップを受け取ってくれる。
「熱いから、気を付けてね。」
湯気が立つマグに息を吹きかけながら、蜂蜜レモンの白湯割りを啜る。
「…はぁ、美味しい。」
ふにゃりと顔を弛めて、ほっとした表情が見えた。
「甘さ、大丈夫?」
静かにひとつ肯いてから、ふうふうと息を吹きかけて、2口目を啜る音がする。
「ふふ、良かった。レモンは蜂蜜漬。」
柚子もレモンも、冬になると何とはなしに、つい色々と漬け込んでしまう。
「…もしかして、漬けてたやつ?」
すっかりモグモグと咀嚼しているあなたの口元が、躊躇いがちに止まった。
「そう。好きな時、飲んでいいからね。」
誰よりもあなたを気に掛けていたくて、誰よりもあなたを知っていたくて、ずっと傍から離れないように一緒に居る。
「レモンは何種類か漬けてたよな?柚子もあった?」
良く見ているなぁと思いながら、肯いて説明する。
「レモンは、砂糖と塩と蜂蜜。柚子は、砂糖と醤油と蜂蜜。もう少しで、美味しい柚子ポン酢の醤油が出来るから。塩レモンは、今夜使うつもり。」
嬉しそうに頬が弛んでいるあなたを見て、こちらも嬉しくなる。
「楽しみにしててね。」
誰よりも大切で、誰よりも大好きな、愛しいあなたの身体を作り、守るために。

さぁ、今夜は何を食べてもらおう。

2/15/2024, 10:28:56 AM


『10年後の私から届いた手紙』


今、あなたは何を夢見ているのだろう。
10年後のあなたに、私は何を渡せるのだろう。


『今の自分が、10年後の自分自身を形作るのだ。』と、誰かが言った。
10年前、何をしてたっけ。
もう少し若くて、もう少し友達と過ごしてたなぁ。
10年前のあなたが思い描いていた私には、成れているような成れていないような…。


もう少し、頑張ろう。

2/14/2024, 10:11:00 AM

【バレンタイン】

最近は、友達や家族、恋人からも公然と交換したり、立場が逆転しても問題視されなくなってきた。
「良い時代になったねぇ。」
とは言うものの、まだまだ男性がチョコ売り場に居るのは、肩身が狭い。
「…そうかもな。」
男ふたりで一緒に買うのは、まだ浮いている様な気がした。
「わぁ、気にして欲しくなかっただけなのに。逆効果!」
チョコが大好きなあなたは、甘い物が苦手な自分にも食べられそうなチョコを探してくれている。
「自分の分を、選びなよ。」
迷うだの、甘くなさそうなのが良いとか、言いながらも楽しそうな横顔に、無理に自分の分を選んでくれなくてもと考えてしまう。
「うん、大丈夫!ちゃんと選ぶよ!…あっ、コレ可愛い!」
周りにいる女性たちも、それぞれに嬉々としてはしゃぎながら選んでいるが、それに負けないはしゃぎようが、なんとも可愛らしい。
「うん、可愛い。」
喜色を載せて振り返るあなたが、目を輝かせている。
「だよね!コレください!プレゼント用で。」
あれよあれよと会計が終わって、紙袋を手渡される。
「…え、違った?」
その手首を掴んで、売り場の端に避難した。
「これは、ありがたく戴きます。…ごめん。はしゃいでるのが可愛くて、誤解させた。」
謝罪の為に、頭を下げた。
「あは、びっくりした。ありがとう。でも、もうちょっと付き合ってくれる?全部買たいいくらい、迷ってるから。」
嬉しそうにはにかむあなたに手を引かれて、また甘い香りのチョコレート売り場へと戻っていく。

「ねぇ、ひとつで良かったの?」
甘い香りのキッチンで、手作りのチョコレート菓子をふたりで作って食べたのは、今や昔である。
「…俺、ふたりで作ったアレが食べたい。」
戦利品の数々を抱えて、嬉しそうにしているあなたに、つい懐かしくなって零してしまった。
「アレって、子どもの頃の?」
レシピあったかなぁ、と呟いて、迷いなく製菓用品の売り場へ足を向ける。
「チョコ、持つから。」
買い物カゴを手にするあなたに付いていく。
「一緒に作ろう!」
嬉しそうに笑うあなたが、粉やら板状のチョコレートやらをどんどんとカゴに入れていき、会計を済ませて袋詰めして、あっと言う間に帰路に着いた。


このイベント前後の結構な期間、家の中は毎日チョコレートの香りが漂っている。
(今年も、季節だなぁ。)
なんて、毎年思っているのは、あなたには内緒だ。

あなたが作る手作りのチョコレート菓子が、一番好きなのだと、バレンタイン当日に白状させられたのは、言うまでもない。

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