たろ

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【バレンタイン】

最近は、友達や家族、恋人からも公然と交換したり、立場が逆転しても問題視されなくなってきた。
「良い時代になったねぇ。」
とは言うものの、まだまだ男性がチョコ売り場に居るのは、肩身が狭い。
「…そうかもな。」
男ふたりで一緒に買うのは、まだ浮いている様な気がした。
「わぁ、気にして欲しくなかっただけなのに。逆効果!」
チョコが大好きなあなたは、甘い物が苦手な自分にも食べられそうなチョコを探してくれている。
「自分の分を、選びなよ。」
迷うだの、甘くなさそうなのが良いとか、言いながらも楽しそうな横顔に、無理に自分の分を選んでくれなくてもと考えてしまう。
「うん、大丈夫!ちゃんと選ぶよ!…あっ、コレ可愛い!」
周りにいる女性たちも、それぞれに嬉々としてはしゃぎながら選んでいるが、それに負けないはしゃぎようが、なんとも可愛らしい。
「うん、可愛い。」
喜色を載せて振り返るあなたが、目を輝かせている。
「だよね!コレください!プレゼント用で。」
あれよあれよと会計が終わって、紙袋を手渡される。
「…え、違った?」
その手首を掴んで、売り場の端に避難した。
「これは、ありがたく戴きます。…ごめん。はしゃいでるのが可愛くて、誤解させた。」
謝罪の為に、頭を下げた。
「あは、びっくりした。ありがとう。でも、もうちょっと付き合ってくれる?全部買たいいくらい、迷ってるから。」
嬉しそうにはにかむあなたに手を引かれて、また甘い香りのチョコレート売り場へと戻っていく。

「ねぇ、ひとつで良かったの?」
甘い香りのキッチンで、手作りのチョコレート菓子をふたりで作って食べたのは、今や昔である。
「…俺、ふたりで作ったアレが食べたい。」
戦利品の数々を抱えて、嬉しそうにしているあなたに、つい懐かしくなって零してしまった。
「アレって、子どもの頃の?」
レシピあったかなぁ、と呟いて、迷いなく製菓用品の売り場へ足を向ける。
「チョコ、持つから。」
買い物カゴを手にするあなたに付いていく。
「一緒に作ろう!」
嬉しそうに笑うあなたが、粉やら板状のチョコレートやらをどんどんとカゴに入れていき、会計を済ませて袋詰めして、あっと言う間に帰路に着いた。


このイベント前後の結構な期間、家の中は毎日チョコレートの香りが漂っている。
(今年も、季節だなぁ。)
なんて、毎年思っているのは、あなたには内緒だ。

あなたが作る手作りのチョコレート菓子が、一番好きなのだと、バレンタイン当日に白状させられたのは、言うまでもない。

2/14/2024, 10:11:00 AM