消えない焔
パチッ、パチパチ
きらきら、ちかちかと僕の目に焔の光が入る
貴方がこの姿になりたいと言ったんだ
ならば貴方が貴方の形を失う最後まで見たいと僕は言ったんだ
僕は貴方で無くなったものを手でかき集める
燃えきっていない貴方の破片を粉々に潰す
焔は消えない
もう、燃えるものなどないのに
いや、貴方は僕を待っているんですね
焔を消さず
僕が僕でいなくなるまで
この焔は消えないのだろう
あなた
僕は消えない焔を抱きしめた
終わらない問
なんで僕なの
共通の言葉で話せるのかも分からないのに
僕は目の前にいる狐の化け物に問う
頬まで上がった一本線の口
口を開けばきっと鋭い歯が見えるのだろう
あなたは何者なの
あなたの目的は何
あなたは僕を殺したいの
鋭い歯が見えた、狐が言う
お主ら人間は問を持つ
何かを知りたがる知的欲求がある
問え、問うんだ
私はそなたの問を聞きたい
私の答えはそれだけだ
分からない事が不安を煽る
狐はそれを知っているのか
こうやって人間を追い詰めて
人間を知ろうとしているのか
僕は最後まで問う
揺れる羽根
俺を置いて逃げるんだ。
この塔に取り残され、死を待てと。
お前は自由だ。
だから不自由になる。
俺はこの赤褐色の冷たく重い銃をお前に向けた。
許せなかった、自由なお前が。
軽い身体を支えていた大きな羽に風穴をあけた。
その穴の先に自分が見たかった、お前の飛んでいた空が見えた。
最後に、お前は俺を見た。
揺れる羽根と共に俺を見た。
今、俺はまだこの塔にいる。
手元にあるのはあの時の銃と、揺れる羽根。
白く柔らかな光を出していたあの羽根は、
銃と同じ赤褐色になってしまった。
秘密の箱
車から降りて2車線の広い道路に出る。
ガードレールを越えて崖が作る階段を降りたら
そこは僕だけの海だ。
いつも僕はひとり、ここで放課後を満喫していた。
ゴーグルつけて、泳ぐ魚を見たり。
岩場にいるカニや虫を眺めたり。
波音を聴きながら眠ったり。
貝殻を拾って絵の具で色を付けたり。
海はいつも新しい発見があって楽しい。
いつしか僕はその発見を誰かに共有したくなっていた。
ある秋の終わりごろ、僕はその僕だけの海に女の子を見つけた。
その女の子は、深緑の髪の毛を腰まで伸ばして、クラゲのようなジェル状の物を上半身に纏っている。
触れたら手が切れそうで、空を反射する海面のような鱗と、
つやつやでエメラルドグリーンの魚のヒレを
波のようにゆらゆらと動かしていた。
人魚の女の子だ。
僕の秘密の場所に人魚の女の子がよく現れるようになった。
僕は海で見たもの、岩場にあったことをその子に話すとその子は、海の深くはもっと不思議で綺麗なものがあると話をしてくれた。
僕たちはその小さな小さな海で大きく優しい時間を過ごした。
ある日、人魚の女の子は僕に別れを告げてきた。
もう、海面に近ずいてはいけないと怒られてしまったらしい。
女の子は僕に手のひらに収まるくらいの箱をくれた。
わたしときみの秘密の箱だよ
こう、仕事に疲れている時はその箱を優しく振っている。
中身は何の変哲もない、貝殻や砂や石、乾燥した海藻。
-それとあの子の鱗。
秘密の箱を振ると出会ったあの時の波音、あの子の声、僕の心臓の音が蘇る。潮風が顔を撫で、鼻を通る。
海に浸かっているかのように全身が冷える。
身体が波で揺れる。
僕を誘うように、冷たい手が触れる。
僕だけの海と僕はこの、秘密の箱に閉じ込められた。
無人島に行くならば
あの無人島に行くならば、幸せに暮らせただろうか。
島流しの刑。
死刑の次に重いとされる刑罰。
冷たい風が吹き寒さを感じる季節になってきた頃、
父上が縁談を持ってきた。
娘は目鼻立ちがはっきりしていて、猫のように鋭い目、凛と済ました表情、真っ直ぐで揺れることの無い姿勢で、とても十七には見えなかった。
それに比べ齢二十六の私は武家で育ったとは思えない、ひょろひょろの体に、周りから恵比寿顔だと言われる武家らしい引き締まりなどはない顔である。
武家の結婚は見合い結婚、政略結婚だ。
だからなぜ、こんな私がこの娘と結婚しなければならないのか、考える必要がない。私はそう思い…そう思うようにして娘が他に向けていた好意を見て見ぬふりしていた。
彼は突然現れた。
いや、というより、鉢合わせたと言った方が正しい。
暗夜。
二つの輪郭を追う。
二人の息のあった走りに私は追いつけない。
武家のくせに体を動かすことが苦手な私だ、すぐ足がもつれ転ける。体勢を立て直す頃にはもう、二人は橋の上だった。
二人は身を寄せ今朝の豪雨で荒れた川に向う。
やめろ!などと荒らげた声をあげたが、届くはずもなく輪郭は消えた。
運がいいのか悪いのか、二人とも助かった。
私は証人だ。
二人の生死を握っている。
そして、自分の本当の気持ちにも向き合うことになった。
私は妻を生かした。
好いていたのか?
だが、本当に好いているなら想い人の幸せを選ぶはずだ。
私は二人を引き剥がした。
そして彼は島流しの刑に処された。
妻はもう、会った時のような真っ直ぐな強さは無く、魂の抜けた抜け殻のように表情がなくなり、死を待つのみと言わんばかりの日々を過ごしていた。
あの時私が二人を突き落としたと、嘘をついていたならば。
無人の島に流されるのは私だっただろうか?
武士として、切腹をする事になるだろうか?
この娘があの島に行くならば、彼と幸せに最後を迎えられたのだろうか。