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無人島に行くならば


あの無人島に行くならば、幸せに暮らせただろうか。

島流しの刑。
死刑の次に重いとされる刑罰。

冷たい風が吹き寒さを感じる季節になってきた頃、
父上が縁談を持ってきた。

娘は目鼻立ちがはっきりしていて、猫のように鋭い目、凛と済ました表情、真っ直ぐで揺れることの無い姿勢で、とても十七には見えなかった。
それに比べ齢二十六の私は武家で育ったとは思えない、ひょろひょろの体に、周りから恵比寿顔だと言われる武家らしい引き締まりなどはない顔である。
武家の結婚は見合い結婚、政略結婚だ。
だからなぜ、こんな私がこの娘と結婚しなければならないのか、考える必要がない。私はそう思い…そう思うようにして娘が他に向けていた好意を見て見ぬふりしていた。

彼は突然現れた。
いや、というより、鉢合わせたと言った方が正しい。

暗夜。
二つの輪郭を追う。
二人の息のあった走りに私は追いつけない。
武家のくせに体を動かすことが苦手な私だ、すぐ足がもつれ転ける。体勢を立て直す頃にはもう、二人は橋の上だった。
二人は身を寄せ今朝の豪雨で荒れた川に向う。
やめろ!などと荒らげた声をあげたが、届くはずもなく輪郭は消えた。

運がいいのか悪いのか、二人とも助かった。
私は証人だ。
二人の生死を握っている。
そして、自分の本当の気持ちにも向き合うことになった。
私は妻を生かした。
好いていたのか?
だが、本当に好いているなら想い人の幸せを選ぶはずだ。
私は二人を引き剥がした。
そして彼は島流しの刑に処された。

妻はもう、会った時のような真っ直ぐな強さは無く、魂の抜けた抜け殻のように表情がなくなり、死を待つのみと言わんばかりの日々を過ごしていた。

あの時私が二人を突き落としたと、嘘をついていたならば。
無人の島に流されるのは私だっただろうか?
武士として、切腹をする事になるだろうか?
この娘があの島に行くならば、彼と幸せに最後を迎えられたのだろうか。

10/24/2025, 8:42:37 AM