ラブソング
ラブソングって誰に向けて書かれているんだろう。
いや、そりゃ好きな人、愛しい人なんだろうけど。
誰かに聴かせたい、
一緒に聴きたい、
歌いたい、
奏でたい、
それがラブソング。
もしそうならば、私は私に。
今まで、特別頑張ったことはなかったとしても、何らかの才能を持った人間でもない私でも、私は私からのラブソングを。
大好きで守ってあげたかった自分へ、
ごめんね、おやすみ、私。
手紙を開くと
ずっと待ち焦がれていた。
ずっとずっとずっと、待ち焦がれていた彼の事。
彼からの手紙。
その手紙の表面を撫でる。
乾燥していたその手紙は、彼の手のようだった。
所々焦げていて、焦げ臭く、土臭く、血生臭く…。
だけど、なぜだか彼の優しい匂いを感じた。
怖い。
この手紙を開くことで、蜘蛛の糸のような細い希望が途切れてしまう。
知りたくない。
読みたくない。
怖くて怖くて、どうしようもなく寂しい。
それでも、また、彼の言葉を聞きたくて、私は手紙を開いた。
手紙を開くと、焦げたところからぼろぼろと彼が崩れて風に舞っていく。
嫌だ。
嫌だ。行かないで。
ずっと独りだったのよ。
嫌だ。
「_あいしてる、' ` - ヽ ‐ ,, ー」
すれ違う瞳
いつも同じ電車に乗っている彼女。
僕はあの人が放つ異様な雰囲気に惹かれている。
登校時間、綺麗な彼女の横顔を見るのが毎朝の楽しみだ。
彼女の存在が、学校に行きたくない僕の家を出るきっかけでさえある。
黒く濃い色の髪からチラと見える長いまつ毛と黒い瞳、その瞳は凛としていてどこかを見ている。
その瞳がゆっくりと動く。
すぅ
僕は息を飲んだ。
彼女の瞳とすれ違う。
いつもどこを見ているかわからない彼女の瞳に、僕が一瞬でも写ったことに高揚感を覚えた。
手に入れたいと思った。
暗い暗い夜空のようで、反射した光が星のように輝いて見えた彼女の目を。
たった一瞬、真っ直ぐその瞳と向き合えた一瞬。
すれ違った瞳が、僕の心を優しく締め付けた。
青い青い
「青いね、」
「うん。」
「青いね、」
「…うん。」
「どうしてかな。」
僕は妹に返す言葉を考えたくなかった。
青く青く。
冷たく冷たく。
血色の無くなった母の頬を撫でる。
「青いね、」
「うん。」
「にぃは赤いね。」
「うん。」
妹を真夜中の寒空の下で抱き抱えて、ハエがたかる母の青い青い姿を眺める。
悲しいという感情はなかった。
どうしてか”それ”は、五月の晴れ渡った空の色に似ていて、怒りや悲しみより、美しいという感情がまさっていた。
僕らはまだ赤い。
赤くなった妹の手を握りおやすみと一言言った。
風と
風に匂いが運ばれてくる。
なんて詩的に表現してみたけれど、綺麗に写りはしない。
焦げた髪の匂いと、湿った風が僕の顔を撫でていく。
思いっきり息を吸う。
もう、あの日の草木の匂いや、近所の家の夕飯の匂い、お風呂の湯気の匂い、ピリついた僕の家の匂いはしないんだ。
この風が全てをさらって、僕を1人にしたんだ。