【最悪】
俺はきっと最低な奴だ。そして、幸か不幸かそれを嫌いな自分がいない。……心底最悪に思う。
【恋】をした。
目の前がキラキラ輝き、今までの世界が嘘だったように、色鮮やかに煌めく。
【初恋】をした。
胸をキュッと締め付けられ。その人を思うと胸が熱くなったり、冷たくなったり。
喜怒哀楽が明確にハッキリするようになった気がする。
今まで、何となくでしか生きて無かった癖に。
黒羽色の瞳は全てを見通す漆黒の色。
癖のある髪の毛はクルクルしててとても可愛らしい。
唇は薄くて、指先は靱やかで。
彼の一挙手一投足に視線が、全神経が、全てが持っていかれる。
彼は友達、友人と呼ばれる人が少ないらしい。
隣の席になったのは偶然。
少し掠れたテノールの甘い声が耳元を擽ると、幸福感が全身を包む。
好きだ。大好きだ。笑った顔が好きだ。
眉を下げて微笑む顔が好きだ。
少し短気なところが好きだ。
猫みたいに自由なところが好きだ。
誰かと話してると嫉妬で狂いそうになる。
肩を組んでるところを見ると、相手を八つ裂きにしてしまいたくなる。
俺の醜い感情を知られたくなくて、見られたくなくて。
息を殺すように、君だけをみつめる。
……あぁ、もう。本当に…愛してるんだ。
◾︎
だから、俺は決意した。
君の視線には気付いてたから。
君の気持ちに気付いてしまったから。
俺と同じ熱を持つ君。
瞳の奥に渦巻く感情。
全てが欲しい。君の全てが。
「御幸君の事。……好きなんだ。」
俺の言葉に彼は顔をぐにゃりと歪める。
彼の薄い唇から漏れるは信じたくないという言葉の羅列。
……正直聞いてて、嬉しいものでは無いけれど、俺は見てしまった。
気付いてしまった。
君の耳がほんのり赤くなってることに。
君の瞳が少しだけ潤んでいることに。
俺はそんな君の姿に顔が歪む。
傍から見れば、気持ち悪いだろう。
罵倒されているのに。嫌悪の言葉だらけなのに、頬が緩み、笑みを抑えきれない。潤む視線と林檎みたいに赤い耳朶。
……最悪だ。そんな顔まで可愛いとか、もう暴力だろ。国際的大泥棒も腰を抜かして逃げてしまうよ。
……まるで、心と身体がバラバラな君が、とても可愛らしい。
君は気付いているのかな。
言葉では嫌々いいつつ、瞳では雄弁に愛を語っていることに。……あぁ、なんて、可愛らしい。
「お前のことなんて、大っ嫌いだ!!!」
何故君は、その言葉に嫌悪感ではなく、哀愁を込めるんだ。健気に噛み付くその姿に俺は興奮が冷めない。
やっぱり好きだ。
君が、………御幸君の事が、好きだ。
その弱音を隠す態度も。
気丈に振る舞う姿も。
眩しいくらいに輝く笑顔も。
食べちゃいたいくらい、好き。
君のいい所、悪い所、全てを愛してる。
【誰にも言えない秘密】
「大っ嫌いだ」
俺はその言葉で、彼を傷つけ、自分を守る。
それが、人として有り得ない行為だとしても。
俺と彼は隣の席だった。
陽キャの陰キャ。
強者と敗者。
優等生と素行不良。
全てが、全て相容れない存在同士の俺ら。
だから、気付かないと思ってた。
そう思い込みたかった。
彼を嫌いな自分でいたかった。
明るくて、優しくて。……そんなところが憎たらしい。
愛想振り撒いて、博愛主義でも謳ってるのかよ。
勉強も出来て、スポーツ万能。……何目指してるの?本当に気味が悪い。
故に教師の覚えも良くってさ。
内申点稼ぎ乙〜。
彼を見掛ける度に胸はザワザワし、吐き気がする。
彼が誰かといるだけで、ギュッと心臓が痛みだし、ジクジクと手足が痺れる。
彼を見るだけ、話を聞くだけ、声が聞こえるだけで、俺は。俺じゃなくなる。
体調不良のオンパレード。
こんなこと今まで、無かったのに。
この痛みに名前をつけるなら、そう……嫌悪感って奴だ。
きっとそうだ。
そうに違いない。
そう思いながらも、彼から向けられる視線が気になって仕方がない。
そのなんとも言えない、深く濁った瞳。
赤い瞳の奥底に。ぐるぐる煮え立つ感情。
その瞳は、雄弁に語ってる。
【お前が嫌いだ】
俺は、彼に嫌われてる。
理由はわからん。俺が、彼より劣ってるからか?
やっぱり、性格最悪。
こんな俺に、なんて顔してるんだよ。気色悪い。
◾︎
だから、思いもよらなかった。
彼に1体1で声をかけられるまで。
暴言、暴力エトセトラ。正義感を振りかざして説教か?それとも、また教師の内申点稼ぎ?
どちらでもいい。
早く終わってくれ。
そう思った。
だからぶっきらぼうに、他人に接するように、いつも通りを貫いた。
……胸の痛みをそっと隠して。
「御幸(ミユキ)君。俺実は……君のことが好きなんだ。」
その言葉が俺の中で、反復する。
すきぃ?好きってなんだ?彼が?俺を??何故?どうして???彼は俺を嫌いだったはずだろ。
嫌悪して、憎悪して。だから、俺が誰かといるといつも鋭い目付きで睨んできて。
…だから、俺は素行不良だから排他的になって…た、んじゃ……。
「………は?巫山戯んな。何の罰ゲームだよ。あれか?優等生のお前が、お仲間さんとのお遊びとかで告ってきただけだろ。劣等種だからっておちょくるのも大概n」
その時、俺の腕を彼を思いっきり掴んできた。
そして、俺と目線を合わせるように身体を近づけて。
「俺は本気だ!!」
彼の真っ赤な深紅の瞳と俺の黒羽色の瞳が交わる。
キレて。混乱して。頭真っ白になって。
胸が傷んで、涙腺が崩壊しそうで。切なくて。
怖くて、逃げたくて、叫び出したくて。
………この気持ちに名前をつけたくなくて。
知りたくなくて……。
俺は自分を守るために、彼を日々樹(ヒビキ)を全力で否定したーー。
「…お、まえの……お前のことなんて……」
受け止めきれない。
信じたくない。
こんな思い、知りたくなかった。
彼の瞳に見つめられる度に感じた思い。
彼と笑い合える奴らをどんなに憎んで。脳内で抹殺しまくったか。
受け入れられない。
こんな惨めで、気味が悪い俺の事なんて。
……だから見るな。
……俺を見るな!!
俺はこの気持ちに蓋をする。誰にも見られない様、分厚い扉の向こう。ぶっとい鎖で何重にも塞いで。
「…お前の、お前のことなんて大っ嫌いだ!!」
【狭い部屋】
人二人分位の狭い部屋
隙間から零れる光と
君の呼吸音だけが
この部屋を満たしてる
ごめんね。こんなところに閉じ込めて
ごめんね。君を愛してしまって。
こんな状況下でなんだけど。
君の全てを愛してるんだ。
今はまだ受け入れなれないと思うけど
少しづつでも、わかってくれると…嬉しいな。
なんて、………我儘ダナ。
【失恋】
憎たらしいほどの愛憎感。色褪せないこの世界。万物に汚れた人間の不完全昇華。
生まれた時はまっさらで、純真で。
親に愛されて、執着されて。
恋を甘受し、愛を否定した。
それがいけなかったのだろうか。
鳴り響く、感情警笛の警告音。
淀みのない、真っ直ぐな眼光が、彼らの本性を、深淵を穿いたのだ。
それを毛嫌い嫌悪でもしたのだろう。
気まぐれな彼らは直ぐにポイッと捨て去った。
それは齢7つを巡る頃。
◾︎
あれから、数年。俺は異物で歪んだこの世界で静かに息をする。
思いも声も、言葉でさえ、巡り回って俺は形成された。
俺の中に眠る、類稀なる天賦の才能が、縁を結び
諸行無常な全能感を味わった。
【愛してる】を知らない。興味もない俺。
この世の中に、飽き飽きし、期待や後悔もしなくなった頃。
ある男と出会った。
その人は細身で靱やか。筋張った掌。無骨そうに見えて目尻が優しい。
何者にも汚されてない純新無垢な存在そのものの様で。
かつての己のような、淀みのない真実を映し出す瞳に、俺を目を背けたくなった。
でも、その男はそれを許してくれず、愛を思い出を、微笑みかける感情を、俺にそっと注いで包み込んでくる。
俺は焦がれてしまった。
許しを乞う様に、希うように、記憶のない化け物な俺。
番のように自分に縛り付けようとする俺は、君だけを思い焦がれて……そして、その感情のまま空を切るように全てを投げ捨てたかった。
醜い自分を隠す様に、君に捨てられない様に。
必死に走った。
その理由がわからずとも、流す涙を見ないふりして、祈りは届かないのに、手を伸ばす愚かな俺。
俺は怖ったのだ。嫌われるのが。捨てられるのが。無かったことにされるのが。
意気地がなくて、勇気もなくて。
性格や、素行の悪さばかりが目立つ俺が、……こんな俺が君に触れていい訳……無いじゃないか。
だから、俺は決意した。
君だけを思い恋焦がれる前に、君を縛りキラキラ光るその瞳が濁らないように、……離れようと。
胸が痛い。君のことを思うと締め付けられて。
ごちゃ混ぜになるこの心。
笑顔を見ると嬉しくて。微笑みかけてくれると天にも昇る心地がして。
そんなの夢だとわかってるから。
裏切られるのが辛いから。
俺はこの心の痛みに名前をつける前に、君の目の前から消えるよ。
「ありがとう。」
「そして、ーーーーさよなら。」
◾︎
夜。僕はポストを確認する。
住所不明。差出人は最近気になってる、大切にしたい大好きなあの子から。
……ちょっと珍しいな。最近は会える頻度が下がってたから。きっと寂しい思いさせてるんだような。
逢いたいなぁ
会って、最近のこととか話して、一緒にご飯食べて。
……もし大丈夫なら、お泊まり………とかして。
そうな事を考えながら、僕は部屋に入り、鍵をかける。
腰を落とし、封筒を開けると、1枚の手紙らしきものが入っていた。
………正直。その後の記憶はほとんど無い。
部屋の明かりはどうしたろ。
鍵は閉めたはずだけど。
コンクリートを揺らす足音と苦しい呼吸音。
ネオン輝く喧騒が僕の後ろを去っていった。
目指すは、恋語がれる君の傍へーーーー。
アヴァン/Eve
【正直】
まるで、生きながら𓏸𓏸してるみたいだ。
この世界には、魔法がある。それは、この国。……この世界の人にとっては当たり前で。
魔法学に薬草学。騎士団に、宮廷魔法士。
王族、貴族にエトセトラ。
私の元いた世界には、なかった文化だ。
……というか、個人的には化学が発展できなかった世界という認識の方が強い。
この世界に、転生。というより召喚に近いのかも知れない。……兎に角、気付いたら森の中。というテンプレを見事回収した私は、当時何かと焦っていた。
周りが見えてなかった。
自分が置かれてる立場を。
この世界の片隅に。
魔物に国政。跡取り問題。
凡を素で行く私の人生にはなかった世界。
わたしは兎に角、精一杯だったのだけ伝えたい。そして、信じて欲しい。切実に。
私は薬草取りに来ていたらしい子供と出会い、家に招待された。…普通、…というか元いた世界ではありえない話だ。…身元不明とか怖過ぎる。
天真爛漫に笑う少年。仲睦まじい少年の親。
心優しい、村の人達。
ここの人達は、私に色んなことを教えてくれた。
………そう、色々だ。とくに私が畏怖したのが、ポーションというものの存在だった。
聞くと、小さなか擦り傷から、視力や身体の欠損。病から、何まで。薬のレベルによりけりらしいけど、それらはたちどころに治るらしい。
ポーションは色が薄い順から、初級。中級。上級。特級。神話級とある。
……なんだ神話級って。薬草(ハーブと同じ認識)と魔力を混ぜるだけで、何故身体の欠損まで治るんだよ。
そして魔力。
……この世界の人、物には全て魔素という物が、存在し、それが魔力という形で体内を巡ってるらしい。
とことんファンタジーの世界だ。そして、幸か不幸か私にも魔力は存在することが分かった。……異世界人だからないと思ってた。まぁ、迫害(?)対象にならずに済んで良かったけど。
魔力がない。=魔物。生物扱いはごめんだ。
そしてこの国。シファル領と言うらしいが、齢15の少年、少女は貴族平民関係無く、王立魔法学校の入学が決められてる。
……何故、この話をするのか。それは私の見た目年齢が15歳だと思われたからだ。なんという屈辱。なんという悲劇。私の国では成人でもこの世界では幼いってか?!鬱陶しいわ?!
森で出会い、拾われて家に住まわせて貰ってる今の現状で。甘え続けるのも気が引けた私。
買い物や家事位は手伝おうと色々してた延長線。
ある日、少年と街へ買い物をした帰り道。王国の騎士団に出くわしてしまったのが運の尽き。
……体感としては瞬き1回。その1回の間に、話は進み目まぐるしくあれよ、あれよと流されて。今私は王立魔法学校へと入学してしまっていた。
何故だ!!!!!私が何をしたと言うんだ!!!
そんなこんなで、今に至る。
今は魔法薬学の講義中。
初級ポーションを2人でグループを作り、完成させるという課題の最中だ。
ポーション。なんでも直せる魔法の液体。
作り方は至ってシンプルなのに、魔力を込めただけで、傷から病まで治す魔法の薬。
正直に思う。このポーションは危険だと。
だって、倫理的に可笑しい。だって、種類によりけりだとしても、身体の欠損まで治せるとか、心肺停止して直ぐなら、息を吹き返すとか。
そんなのまるで、………まるで化け物じゃないか。
生命活動をいつまでも続けなければならない。
戦争が起こっても、このポーションがある限り永遠に終わることは無い。
死ぬ事も、楽になることも出来ない。
………そう洗脳されてるみたいだ。
私はこの世界の常識が怖い。
この世界に染っていく……自分が怖い。
私にとって、この世界は正直…ーーーー。