アサギリ

Open App

【誰にも言えない秘密】


「大っ嫌いだ」


俺はその言葉で、彼を傷つけ、自分を守る。
それが、人として有り得ない行為だとしても。


俺と彼は隣の席だった。
陽キャの陰キャ。
強者と敗者。
優等生と素行不良。


全てが、全て相容れない存在同士の俺ら。


だから、気付かないと思ってた。
そう思い込みたかった。

彼を嫌いな自分でいたかった。
明るくて、優しくて。……そんなところが憎たらしい。
愛想振り撒いて、博愛主義でも謳ってるのかよ。

勉強も出来て、スポーツ万能。……何目指してるの?本当に気味が悪い。
故に教師の覚えも良くってさ。
内申点稼ぎ乙〜。

彼を見掛ける度に胸はザワザワし、吐き気がする。
彼が誰かといるだけで、ギュッと心臓が痛みだし、ジクジクと手足が痺れる。

彼を見るだけ、話を聞くだけ、声が聞こえるだけで、俺は。俺じゃなくなる。
体調不良のオンパレード。

こんなこと今まで、無かったのに。
この痛みに名前をつけるなら、そう……嫌悪感って奴だ。

きっとそうだ。
そうに違いない。

そう思いながらも、彼から向けられる視線が気になって仕方がない。

そのなんとも言えない、深く濁った瞳。
赤い瞳の奥底に。ぐるぐる煮え立つ感情。

その瞳は、雄弁に語ってる。
【お前が嫌いだ】

俺は、彼に嫌われてる。
理由はわからん。俺が、彼より劣ってるからか?
やっぱり、性格最悪。
こんな俺に、なんて顔してるんだよ。気色悪い。


◾︎


だから、思いもよらなかった。
彼に1体1で声をかけられるまで。


暴言、暴力エトセトラ。正義感を振りかざして説教か?それとも、また教師の内申点稼ぎ?

どちらでもいい。
早く終わってくれ。

そう思った。
だからぶっきらぼうに、他人に接するように、いつも通りを貫いた。
……胸の痛みをそっと隠して。


「御幸(ミユキ)君。俺実は……君のことが好きなんだ。」


その言葉が俺の中で、反復する。

すきぃ?好きってなんだ?彼が?俺を??何故?どうして???彼は俺を嫌いだったはずだろ。
嫌悪して、憎悪して。だから、俺が誰かといるといつも鋭い目付きで睨んできて。
…だから、俺は素行不良だから排他的になって…た、んじゃ……。


「………は?巫山戯んな。何の罰ゲームだよ。あれか?優等生のお前が、お仲間さんとのお遊びとかで告ってきただけだろ。劣等種だからっておちょくるのも大概n」

その時、俺の腕を彼を思いっきり掴んできた。
そして、俺と目線を合わせるように身体を近づけて。


「俺は本気だ!!」


彼の真っ赤な深紅の瞳と俺の黒羽色の瞳が交わる。


キレて。混乱して。頭真っ白になって。
胸が傷んで、涙腺が崩壊しそうで。切なくて。
怖くて、逃げたくて、叫び出したくて。

………この気持ちに名前をつけたくなくて。
知りたくなくて……。

俺は自分を守るために、彼を日々樹(ヒビキ)を全力で否定したーー。

「…お、まえの……お前のことなんて……」

受け止めきれない。
信じたくない。
こんな思い、知りたくなかった。
彼の瞳に見つめられる度に感じた思い。
彼と笑い合える奴らをどんなに憎んで。脳内で抹殺しまくったか。

受け入れられない。
こんな惨めで、気味が悪い俺の事なんて。

……だから見るな。
……俺を見るな!!


俺はこの気持ちに蓋をする。誰にも見られない様、分厚い扉の向こう。ぶっとい鎖で何重にも塞いで。


「…お前の、お前のことなんて大っ嫌いだ!!」

6/5/2023, 1:09:48 PM