【失恋】
憎たらしいほどの愛憎感。色褪せないこの世界。万物に汚れた人間の不完全昇華。
生まれた時はまっさらで、純真で。
親に愛されて、執着されて。
恋を甘受し、愛を否定した。
それがいけなかったのだろうか。
鳴り響く、感情警笛の警告音。
淀みのない、真っ直ぐな眼光が、彼らの本性を、深淵を穿いたのだ。
それを毛嫌い嫌悪でもしたのだろう。
気まぐれな彼らは直ぐにポイッと捨て去った。
それは齢7つを巡る頃。
◾︎
あれから、数年。俺は異物で歪んだこの世界で静かに息をする。
思いも声も、言葉でさえ、巡り回って俺は形成された。
俺の中に眠る、類稀なる天賦の才能が、縁を結び
諸行無常な全能感を味わった。
【愛してる】を知らない。興味もない俺。
この世の中に、飽き飽きし、期待や後悔もしなくなった頃。
ある男と出会った。
その人は細身で靱やか。筋張った掌。無骨そうに見えて目尻が優しい。
何者にも汚されてない純新無垢な存在そのものの様で。
かつての己のような、淀みのない真実を映し出す瞳に、俺を目を背けたくなった。
でも、その男はそれを許してくれず、愛を思い出を、微笑みかける感情を、俺にそっと注いで包み込んでくる。
俺は焦がれてしまった。
許しを乞う様に、希うように、記憶のない化け物な俺。
番のように自分に縛り付けようとする俺は、君だけを思い焦がれて……そして、その感情のまま空を切るように全てを投げ捨てたかった。
醜い自分を隠す様に、君に捨てられない様に。
必死に走った。
その理由がわからずとも、流す涙を見ないふりして、祈りは届かないのに、手を伸ばす愚かな俺。
俺は怖ったのだ。嫌われるのが。捨てられるのが。無かったことにされるのが。
意気地がなくて、勇気もなくて。
性格や、素行の悪さばかりが目立つ俺が、……こんな俺が君に触れていい訳……無いじゃないか。
だから、俺は決意した。
君だけを思い恋焦がれる前に、君を縛りキラキラ光るその瞳が濁らないように、……離れようと。
胸が痛い。君のことを思うと締め付けられて。
ごちゃ混ぜになるこの心。
笑顔を見ると嬉しくて。微笑みかけてくれると天にも昇る心地がして。
そんなの夢だとわかってるから。
裏切られるのが辛いから。
俺はこの心の痛みに名前をつける前に、君の目の前から消えるよ。
「ありがとう。」
「そして、ーーーーさよなら。」
◾︎
夜。僕はポストを確認する。
住所不明。差出人は最近気になってる、大切にしたい大好きなあの子から。
……ちょっと珍しいな。最近は会える頻度が下がってたから。きっと寂しい思いさせてるんだような。
逢いたいなぁ
会って、最近のこととか話して、一緒にご飯食べて。
……もし大丈夫なら、お泊まり………とかして。
そうな事を考えながら、僕は部屋に入り、鍵をかける。
腰を落とし、封筒を開けると、1枚の手紙らしきものが入っていた。
………正直。その後の記憶はほとんど無い。
部屋の明かりはどうしたろ。
鍵は閉めたはずだけど。
コンクリートを揺らす足音と苦しい呼吸音。
ネオン輝く喧騒が僕の後ろを去っていった。
目指すは、恋語がれる君の傍へーーーー。
アヴァン/Eve
6/3/2023, 12:40:20 PM