今日、明日、過去、不安。
今日した失敗が、後ろから熱烈なハグをくれる。やめて欲しい限りだ。
「ねえ、眠りたいんだよ」
「反省も大事だよ?君もわかるでしょう」
「過去をうじうじ悩んだってしょうがないだろ、僕は、明日に行きたいんだ」
「でもさ、忘れられないだろ」
「わかりきった事いうなよ」
眠りにつく前の押し問答。まさにのれんに腕押し、ぬかに釘打ち…イヤになる!
「離せよ」
「そればかりだね」
「僕の願いはそれだけだからね」
「明日も失敗するよ」
「今日よりはマシになる」
「確証は?ないでしょ」
「あると思う?」
「…ねえ、停滞を選んだ方が楽だよ。僕のハグも、少しの間は冷たくなる」
「止まることはできない。止まったら、歩き出すのが辛くなる。そのことを知ってるから」
「…強いね」
「うん。だから、眠らせて。明日に行かなきゃ。止まってはダメなんだ。歩かなきゃいけないんだ」
「泣きたくっても?」
「泣きたくても」
「止まりたくても、?」
「止まりたくても」
「僕は、歩かなきゃ、いけないから。…おやすみ」
朝には食パンと紅茶を飲む君。
僕がおきるころには、優雅に朝食を嗜んでいる。
(食パンだから、いかんせん庶民的だけれど…)
「おは」
「おは。また紅茶なの」
「うん」
「飽きない?」
「飽きてる。飽きることにも飽きてる」
「うん…?どういうこと?」
「世の中知らなくていいことは多いわ」
「てきとーだなあ」
「え?ていうか飽きるの」
「飽きる。好きなわけでもないし」
「うそ。好きじゃないの!なんで飲んでるのさ?」
「お湯にパックひたすだけで、簡単にそこそこ美味しい味ができる。手軽さという点では大好きよ」
「夢がない!」
紅茶と食パンを朝食にする君は、夢がなく、そして紅茶は別に好きではないということを、頭の中の『意外!』というファイルに分類する。
それから、僕は僕で、まあ別に好きではないけど飲んでいるココアを作る。
テーブルに持って行くと、君に聞かれた。
「…また、ココア?」
くる、とまわったら、コートの端が浮かんだ。
「素敵でしょ?お気に入りなの」
鏡は何も答えてはくれない。答えたら怖いから別に答えてもらわなくていい。鏡はひとりごとを言うのに最適な相手なのだ。なくなったら困る。
「素敵だね」
不躾な声が右耳に入ってくる
「…居たのね」
「うん。衣替え?こっちじゃ、今日結構暑いのに…早くなぁい?」
不躾で、不愉快で、ユーモアの一つだってない声は華麗に無視してブーツを履く。
「じゃあね」
「えぇ?ちょっと待ってよ。来たばっかなんだ、ね、久しぶりなんだし話そうよ」
開いたドアを閉じながら、不躾な声の主ににっこりと笑う。
「いやよ」
「…つれないね、君って」
私はやわらかいものが好きだ。
そのなかで特に好きなのは、親友である君の笑顔と、午後5時ぐらいの…冬である今なら午後4時か3時ぐらいのあの光。
美術部は変な時間に終わるから、ちょうど下校するときに私の好きな光になる。
大好きな君は絵の具で汚れた手を洗わないめんどくさがりやだ。
どうせお風呂に入るから、って。かえったらすぐ入るタイプだから、って。なんとなく誇らしげに言う。
私はあそぉ、と返して、楽しそうに歌をうたって微笑んでる君を見てる。あ、ちょっとスキップしないでよ、スキップって歩くのより速いんだから!ちょって待ってってば
歌いながらふりかえって、目だけで「はやく」って言ってくる。なんだか憎らしい!けど愛おしい。
1パーセントしかない憎らしさを100パーセントに見えるようにして、私は君を追いかけた。
空を飛べる友人がいる。
好物はたまごの入ったサンドイッチ。
なぜ飛べるのか、と昼食を食べている時に聞いた。(言うまでもないけど、友人はたまごの入ったサンドイッチを食べていた。いつもそれだ。)
「私が天使だから」
「ふうん…」
なんとなく辟易した。こともなげに言うもんだから。
「飛んでみる?」
「…ええ?」
下校しようと昇降口に来た時に誘われた
「ほら、空中散歩だよ」
「ものはいいようだね」
「口達者ってよく言われる」
友人と私はハグをするような体制で空へ上がっていった。ハグというか、必死に掴まっている風だけど。
「怖い!怖い!!」
「怖くない怖くない」
いやこわいって…
なれたら悪くなかったけどさ