此処

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くる、とまわったら、コートの端が浮かんだ。

「素敵でしょ?お気に入りなの」

鏡は何も答えてはくれない。答えたら怖いから別に答えてもらわなくていい。鏡はひとりごとを言うのに最適な相手なのだ。なくなったら困る。

「素敵だね」

不躾な声が右耳に入ってくる

「…居たのね」
「うん。衣替え?こっちじゃ、今日結構暑いのに…早くなぁい?」

不躾で、不愉快で、ユーモアの一つだってない声は華麗に無視してブーツを履く。

「じゃあね」
「えぇ?ちょっと待ってよ。来たばっかなんだ、ね、久しぶりなんだし話そうよ」

開いたドアを閉じながら、不躾な声の主ににっこりと笑う。

「いやよ」

「…つれないね、君って」

10/22/2022, 10:39:28 AM