放課後…アウトドアでも、まして外交的でもない僕は、放課後にともだちと遊ぶとか、そういうのはあまりしたことがないのだれけど。
だからといって、放課後が楽しくないわけじゃあないのだ
僕を縛るものから解放されたその自由な時間は、僕にまっしろな羽をくれる。
何をしよう?
本でもいい。勇敢な戦士になって異世界を冒険しよう
映画でもいい。美しい一葉一葉に心を揺さぶられよう
ゲームでもいい。たくさんの人とすれ違おう
思い切って散歩でもいい。坂を下ったら海がある
アイスを食べるのもいい。のら猫はじとっと見つめてくるだろう
何をしよう?
楽しいことはたくさんある。放課後なのだから、時間だってたくさんある。
何をしよう?
まっしろな羽を広げて、僕は放課後を飛んでいった。
なびくカーテン。絵に描かれるのは優雅に美しく揺蕩うように舞うカーテンだけれど、
おあいにく、
私の思い出じゃあ黒板を写すのを邪魔してきたり、
窓に濡れたみたいに張り付いた、そんな優雅とはいえないのがカーテンだ。
だけど、あ…いや、だから、
あの瞬間のぶふぁりと力強く波打った、あのカーテンを強く胸に刻めている。
斜陽は賢くそこに光をさして、風は得意げに吹いた。髪の毛は処世術に少しも逆らわずに視界に入り込む。
黒板は眠っている。窓枠にくり抜かれた明かり。
美しいとはまさにあの光景を指していて、自分は神の気まぐれでそれを見せてもらえたのだと分かった。
美しいを見た瞬間、自分は洗われて、とても純粋なものになれた気がした。
不恰好なカーテン。だけれどあの時は、ものすごく優雅だった。
空は孤独…、だろうか。
私は詳しくないけれど――本当に詳しくない、残念だけど――この地球にあるあの青い空を、他の星で見たことがない。
あったとしても、ずぅっと遠く…声の届かない所なんじゃないかな。
自分と同じでないものばかりあふれた世界は、うん、…きっと孤独だ。
あ、いや、でも私たちがいるのか。
ちっぽけでなんの頼りにもならないけど、それでも空には私たちがいる。植物や、他の生き物だっている。
もしかしたら、雲とは親友かもしれない。
それなら、空は孤独じゃない。
雨は悲しいんじゃなくて、雲の上のパーティーが楽しすぎて思わず降らしてしまうのかも。
雷はおこってるんじゃなくて、太陽とのお喋りが嬉しすぎてパチパチしてしまうのかも。
それなら安心だ…。空は孤独じゃない。空は泣いてない。空は…ずっと元気に笑ってる。
私の友達は…私と友達なの。
ああ、ごめんなさい。わかりにくかったわよね。
私は紙なの。そう、植物とその他の繊維を膠着させてつくった、字や絵をかいたりする、あの紙。
あの子は…私に自分の思いを吐き出す。きっと人間には言えないのね――内容も、気持ちの良いものばかりとは言えないし。
だから、人間ではない、だけれど友達の私にあの子は言う。思いを、考えを。
熱烈なそれは、時に苦しくなることもあるけれど。
…ええ、受け止めるわ。そう難しいことではないの。
あの子とはずぅっと昔から友達よ。助けてあげたいと思うの。
受け止めるわ――そう、消えるまで。私が燃やされてしまうまで。この命が燃え尽きるまで、ずっと。
胸の鼓動…と聞いて真っ先に思い浮かぶのが恋や生ではなく「発表の緊張」なあたり、私は一生恋愛なんてできないだろうなぁと思う。
別段したいわけでもないけれど。……いや、言い訳がましくなったが本当だ。
私は緊張が嫌いだ…。あれは焦燥感によく似ている。行きたくもない学校に急ぐのが嫌だからと毎朝早く行っていたぐらい、焦燥感が嫌いだから、つまり緊張は嫌いだ。
どくどくとうるさい胸は落ち着かない。
やらなきゃいけないとさらに焦る。
終わったあともしばらくうるさいのだってウザったい。
すぅと息を吸ってふぅう、と不安定に吐く。何回やらないといけないといけないのだと少し苛立つ心もある。
だけど、緊張は心地いい達成感を連れてくる。
じわじわと染みてくる、親愛などよりは熱く、勝利の喜びよりは少しだけ大人びた味の達成感。
あれは…あの達成感は…そうだな。嫌いじゃあないかもしれない。
緊張は、まだ嫌いだけれど…うん、頭ごなしに嫌うことはないかも…しれない。少なくとも、あの達成感を忘れない限り。