谷間のクマ

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6/21/2025, 10:05:15 AM

《好き、嫌い、》

「え? 好きなものと嫌いなもの?」
 とある日のお昼休み。私、熊山明里が親友のなつこと中川夏実と共にお弁当を食べていると、なつがふと好きなものと嫌いなものを聞いていた。
「てかあんたさ、今更それ聞く?」
 私となつの付き合いは保育園からなのでかれこれ10年以上。今更聞くことでもないと思うが。
「いやー、今朝テレビの占いで『好き嫌いについて語り合うと吉!』って言ってたんだもーん」
 なつはそう言ってお弁当のプチトマトをパクリ。
「いつものことながらどんな占いよ……」
「いやー、あたしもそう思うけど話題のひとつに教えてよー」
「じゃあ逆に当ててみて? 多分知ってるでしょ?」
「えー。明里の好きなものはー、いちごとみかん、放送、早口言葉、空手……あと蒼戒。んで、嫌いなものはー」
「ちょーっと待て! なんでここに蒼戒が出てくる!」
「えー? だって好きでしょー?」
「いやまあ嫌いじゃないけども……」
 まあなつがこういう場面で蒼戒の名前を出すのはもはやお約束みたいなことなのでスルーしておこう。本人もいないし。
「じゃあいいじゃん。んで、嫌いなものはめんどくさいことと、虫のクモ」
「そっちはせいかーい。何よ、聞くまでもないじゃない」
「確かにー。ちなみにあたしの好きなものと嫌いなもの当ててみてよー」
「はいはい。えーっとー、好きなものがケーキとか甘いもの、果物全般、お菓子作り、メイク、オシャレ、あと紅野くん。で、嫌いなものが……」
「ちょちょちょちょちょ! なんでここに紅野くんが出てくるのー!!」
「お返し」
「鬼ー!!」
「鬼で結構。で、嫌いなものはお化け、梅干し、ホラー、あと数学」
「ピンポーン! やっぱ話題にしては簡単過ぎたかー」
「でしょうね」
「てかさてかさ、ハルはともかく蒼戒とか嫌いなものあるのかな?」
「確かにあいつ何気に完璧に見えるからね……。でも案外わかるわよ」
「嘘ー! なんだろー?」
「本人のいないところで話題にしていいか微妙だけど……、人混みと雨」
「あーー、わかる気がするー!」
「ちなみにその兄のサイトウは料理」
「確かにハル料理壊滅的だもんね……」
「そうなのよねー。なんで作ったものすべてが黒焦げか半生なのかしら」
「さあ……。そういえば紅野くんは?」
「それは知らなーい」
「え、気になるー! 今度聞いてみよ!」
「はいはい。ってか早くしないと予鈴鳴るわよ」
「わっ、ホントだー! 急がなきゃ!」
 というわけで私はお弁当の最後の一口をパクッと食べ切って、なつは残りを慌てて掻き込んだのだった。
(終わり)

2025.6.20《好き、嫌い》

6/20/2025, 10:15:08 AM

《雨の香り、涙の跡》

「あれ、また雨か……」
 6月も後半戦。梅雨真っ只中のある日の放課後、俺、齋藤蒼戒は生徒会室で月末の文化祭の準備の途中でふと窓の外を見て呟く。
 時刻はすでに午後7時近く。随分と日が長くなったとはいえ、雨が降っているからか、窓の外は薄暗い。
「うわー、降ってきやがった……」
「俺今日傘持ってないんだよなー。参ったなー」
「この様子じゃすぐに土砂降りになるぞ。今日はもうお開きにしようかね、蒼戒君」
 そう言って俺と同じく窓の外を見るのは会計の西川先輩、東先輩、そして極夜先輩だ。ちなみに会長や書記、議長団などはそれぞれ部活等々で準備があるらしく、今生徒会室にいるのは俺たち4人だけ。
「そうですね。もうこんな時間ですし。俺はもう少しキリのいいところまでやりたいんで先帰っててください」
「もう完全下校も近い。終わりにした方がいいと思うが」
「大丈夫です。今ここで切ると後々面倒なので……」
「そうか。それじゃあお先に失礼するよ。東、西川、行くぞ」
「「おう!」」
 極夜先輩は東先輩と西川先輩を伴って生徒会室を出ていく。
「…………ふう……」
 3人が出て行ったところで俺はふっと息をつく。俺もさっさと仕事を終わらせて帰らなければ……、と思っていると。
 ピカッ、ゴロゴロゴロゴロ……ドォーーン!
 突然大きな音がして、部屋の電気が消えた。
「え、停電?」
 視界が突然暗転し、俺は見えないとわかっていながらも周囲をキョロキョロと見回す。
 段々暗闇に目が慣れてきたので、手探りで電気のスイッチを押してみるが、つかない。
「……近くに雷でも落ちたか……」
 仕方ない、このままじゃ仕事にならないし、今日はもう諦めて帰ろう。
 そう思って俺は時折夜空を駆ける雷の光を頼りに昇降口へ向かう。
「あ、しまった、傘ないんだった……」
 こんな日に限って折りたたみ傘を持ってくるのを忘れたことを思い出す。今度から折りたたみ傘2本持とうかな……。
 何はともあれ、この土砂降りの中傘も差さずに外に出るほど命知らずではないので、昇降口でしばらく雨宿りをすることにする。
 パラパラパラパラ……、ゴロゴロ……。
 周囲には雨と雷の音だけが響き、雨の日特有の自然の香りがする。
 ……雨は嫌いだ。いや、違うな。雨が嫌いなんじゃない。
 水が嫌いだ。だって水は、姉さんの命を奪った。それも、真冬の冷たい冷たい水が。
 時々考えることがある。真冬の水は冷たかっただろうか、と。苦しかっただろうか、と。
 そりゃあ冷たかったに決まってる。苦しかったに決まってる。その時のことを考えるといつも、息が上手く出来なくなる。
「…………っ……やっぱり雨、やだな……」
 俺は頭を振って、大きく息を吸う。頬を伝うのは、いつのまにか跳ねていた雨粒か、それとも涙か。
「……早く、止めばいいのに……」
 路上の水玉をぼんやり見ながら呟いたその時。
「……あー、オメーまだ学校にいたのか! ったく探したぞー!」
 突然そんな声が聞こえて顔を上げると、この土砂降りの中を傘を2本持った春輝がこっちに向かってくるところだった。
「春輝?」
「よかったー。うち停電しちまってさー。いくら電話かけても繋がんねーし、そーいや蒼戒の傘うちにあったよなーつって探しに出てみたんだよ」
「よくもまあそんな土砂降りの中を……。濡れただろ?」
「まあいつものことだって。さ、帰ろ。蒼戒」
 春輝は屋根の下までやってきて、俺に傘を渡す。
「……ありがとう。帰るか」
「ああ。てかこの辺も停電してるっぽいけど大丈夫だった?」
「……まあなんとか」
「……ふーん。じゃ、行くか!」
 春輝は深くは追求せずに雨の中を飛び出していく。俺は少し迷ったが、涙を拭ってすぐにその背中を追いかけた。
(終わり)

2025.6.19《雨の香り、涙の跡》

6/19/2025, 10:04:58 AM

《糸》

「うーん、ねっむい!」
 とある日の放課後、私、熊山明里はアナウンス室で一般下校のアナウンスをしたあと、大きく伸びをして呟く。なんだか今日はしこたま眠い。
「ねえサイトーウ、無駄に眠いからアナウンス室でちょっと仮眠とるから曲終わったら起こしてくんない?」
 私は機械室で曲を流しているサイトウに言う。
「ん? 別にいいけどよぉ、暑くねーのか?」
「んなの気合いでなんとかすんの。じゃ、ちゃんと起こしてよねー」
「へいへーい」
 サイトウがテキトーに頷いたのを確認して私はアナウンス室のイスに腰かけて目を閉じた。
★ ★ ★
 変な時間に目を閉じたせいか、変な夢を見た。
「……であるからしてー……」
 地学の先生の、なんとも言えないとてつもなく眠くなる声がする。どうやら地学の授業中らしい。
「って何よこれ!」
 夢だからって油断してた。小指に変な赤い糸がついてる!!
「うわこれあれでしょ……、なつがよく言ってる、赤い糸の伝説、ってやつ……」
 将来結婚する相手と赤い糸で繋がってる、ってあれ。
「んじゃま一応確認しときましょうかねー。私の結婚相手は……」
★ ★ ★
「おい明里起きろ! もうとっくに曲終わってんぞ!」
「は?」
 突然耳元で大声がして、私はハッと目を開ける。
「あれ……、サイトウ?」
 どうやらサイトウに起こされてしまったようだ。いいところだったのにー。
「ああ。つーか早く出ろ! 放送室閉めるぞ!」
「あーはいはい」
 サイトウに急かされ、私は慌てて立ち上がる。
 結局私の赤い糸は誰に繋がっているか分からずじまい。ま、これから決まることかもしれないし?
 お楽しみは、未来に取っておくことにする。
(終わり)

2025.6.18《糸》

6/18/2025, 9:46:24 AM

《届かないのに》

「流れ星ってさ、たまに捕まえてみたくならない?」
 とある日の日暮れすぎ。俺、齋藤蒼戒がたまたま帰り道が一緒になったクラスメイトで幼馴染で、そして先日彼女になった明里と歩いていると、明里がふと夜空を見上げて口を開いた。
「捕まえてみたくなる? 届かないのにか?」
「そ。届かないから捕まえてみたくなるのよね。落ちてきそうじゃん」
「まあ実際流れ星は地球に向かって落ちてくる小さい石や塵だからな」
「あんた夢ないねー。知ってたけど」
 至極真面目に返すと、明里は思っていた返信じゃなかったようで唇を尖らせる。
「悪かったな、夢がなくて」
「別に悪いとは言ってないわよ。私は夢持ってないと怪盗なんてやってられませんからねー」
「そんな夢見る怪盗の彼氏が夢のない俺でいいのか?」
「あら、夢ばっかり見てられないもの。私たちはこのくらいでじゅーぶん」
「ならいいが……」
 明里がそう言うならいいのだろう。
「それにさ、捕まえられたら、お願いごといっぱいできるでしょ」
「そんなに願ってどうする……」
「ほら、七夕の短冊にいくつもお願いごと書く人いるでしょ。あれと同じよ」
「そういうものだろうか……」
「そうそう。あ、でももう願うことがないかもしれないわねー」
「え、ないのか?」
「ええ。だって私、今充分幸せだもーん」
 明里はそう言って嬉しそうにクルッと回った。制服のスカートが、さらりと揺れる。
「蒼戒は? あんたは何か願うの?」
 明里は俺の顔を見上げて小首を傾げてみせる。
「俺か? そうだな……」
 少し前までなら、願いたいことがあったけれど。
 もう、届かないって、わかってるから。
「……ないな。俺も、充分幸せだから」
 星に託すとしたら、決して届かない、もう星になってしまった姉さんへの想いだけ。
「……なら、星を捕まえる必要はなさそうね」
 明里はすべてを悟ったような顔をして、ふっと笑った。
(おわり)

2025.6.17《届かないのに》
なんかやっぱめちゃくちゃだなー……

6/17/2025, 9:28:46 AM

《記憶の地図》

書けたら書こうかな……

2025.6.16《記憶の地図》

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