《届かないのに》
「流れ星ってさ、たまに捕まえてみたくならない?」
とある日の日暮れすぎ。俺、齋藤蒼戒がたまたま帰り道が一緒になったクラスメイトで幼馴染で、そして先日彼女になった明里と歩いていると、明里がふと夜空を見上げて口を開いた。
「捕まえてみたくなる? 届かないのにか?」
「そ。届かないから捕まえてみたくなるのよね。落ちてきそうじゃん」
「まあ実際流れ星は地球に向かって落ちてくる小さい石や塵だからな」
「あんた夢ないねー。知ってたけど」
至極真面目に返すと、明里は思っていた返信じゃなかったようで唇を尖らせる。
「悪かったな、夢がなくて」
「別に悪いとは言ってないわよ。私は夢持ってないと怪盗なんてやってられませんからねー」
「そんな夢見る怪盗の彼氏が夢のない俺でいいのか?」
「あら、夢ばっかり見てられないもの。私たちはこのくらいでじゅーぶん」
「ならいいが……」
明里がそう言うならいいのだろう。
「それにさ、捕まえられたら、お願いごといっぱいできるでしょ」
「そんなに願ってどうする……」
「ほら、七夕の短冊にいくつもお願いごと書く人いるでしょ。あれと同じよ」
「そういうものだろうか……」
「そうそう。あ、でももう願うことがないかもしれないわねー」
「え、ないのか?」
「ええ。だって私、今充分幸せだもーん」
明里はそう言って嬉しそうにクルッと回った。制服のスカートが、さらりと揺れる。
「蒼戒は? あんたは何か願うの?」
明里は俺の顔を見上げて小首を傾げてみせる。
「俺か? そうだな……」
少し前までなら、願いたいことがあったけれど。
もう、届かないって、わかってるから。
「……ないな。俺も、充分幸せだから」
星に託すとしたら、決して届かない、もう星になってしまった姉さんへの想いだけ。
「……なら、星を捕まえる必要はなさそうね」
明里はすべてを悟ったような顔をして、ふっと笑った。
(おわり)
2025.6.17《届かないのに》
なんかやっぱめちゃくちゃだなー……
6/18/2025, 9:46:24 AM