《好き、嫌い、》
「え? 好きなものと嫌いなもの?」
とある日のお昼休み。私、熊山明里が親友のなつこと中川夏実と共にお弁当を食べていると、なつがふと好きなものと嫌いなものを聞いていた。
「てかあんたさ、今更それ聞く?」
私となつの付き合いは保育園からなのでかれこれ10年以上。今更聞くことでもないと思うが。
「いやー、今朝テレビの占いで『好き嫌いについて語り合うと吉!』って言ってたんだもーん」
なつはそう言ってお弁当のプチトマトをパクリ。
「いつものことながらどんな占いよ……」
「いやー、あたしもそう思うけど話題のひとつに教えてよー」
「じゃあ逆に当ててみて? 多分知ってるでしょ?」
「えー。明里の好きなものはー、いちごとみかん、放送、早口言葉、空手……あと蒼戒。んで、嫌いなものはー」
「ちょーっと待て! なんでここに蒼戒が出てくる!」
「えー? だって好きでしょー?」
「いやまあ嫌いじゃないけども……」
まあなつがこういう場面で蒼戒の名前を出すのはもはやお約束みたいなことなのでスルーしておこう。本人もいないし。
「じゃあいいじゃん。んで、嫌いなものはめんどくさいことと、虫のクモ」
「そっちはせいかーい。何よ、聞くまでもないじゃない」
「確かにー。ちなみにあたしの好きなものと嫌いなもの当ててみてよー」
「はいはい。えーっとー、好きなものがケーキとか甘いもの、果物全般、お菓子作り、メイク、オシャレ、あと紅野くん。で、嫌いなものが……」
「ちょちょちょちょちょ! なんでここに紅野くんが出てくるのー!!」
「お返し」
「鬼ー!!」
「鬼で結構。で、嫌いなものはお化け、梅干し、ホラー、あと数学」
「ピンポーン! やっぱ話題にしては簡単過ぎたかー」
「でしょうね」
「てかさてかさ、ハルはともかく蒼戒とか嫌いなものあるのかな?」
「確かにあいつ何気に完璧に見えるからね……。でも案外わかるわよ」
「嘘ー! なんだろー?」
「本人のいないところで話題にしていいか微妙だけど……、人混みと雨」
「あーー、わかる気がするー!」
「ちなみにその兄のサイトウは料理」
「確かにハル料理壊滅的だもんね……」
「そうなのよねー。なんで作ったものすべてが黒焦げか半生なのかしら」
「さあ……。そういえば紅野くんは?」
「それは知らなーい」
「え、気になるー! 今度聞いてみよ!」
「はいはい。ってか早くしないと予鈴鳴るわよ」
「わっ、ホントだー! 急がなきゃ!」
というわけで私はお弁当の最後の一口をパクッと食べ切って、なつは残りを慌てて掻き込んだのだった。
(終わり)
2025.6.20《好き、嫌い》
6/21/2025, 10:05:15 AM