谷間のクマ

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3/31/2025, 7:21:53 AM

《春風とともに》

また後日!

2025.3.30《春風とともに》

3/29/2025, 4:22:10 PM

《涙》

「おーい、蒼戒ー! あーおーいー! どこ行ったー?」
 これは10年くらい前の俺、齋藤春輝と双子の弟の蒼戒が小学生になったばかりの頃のお話。
 午後7時過ぎ、夕飯の時間なのに姿が見えない蒼戒を探して俺は家の中を歩き回る。ちなみにこの頃はまだ俺がご飯を作っていて(壊滅的だったけど、親父は出て行ったし母さんは仕事でいないし蒼戒はやる気がないから俺がやるしかなかった)、蒼戒は道場で剣道をして帰ってきたところで部屋にいるはずなのだが部屋にいないのだ。
「蒼戒ー、メシ冷めちゃうぞー?」
 全然見つからないからおかしいなぁと思い始めたその時。上からすすり泣くような小さな声が聞こえた。
「上……ってことは屋根の上かな」
 とりあえず一度ベランダに出てみると、サンダルが一組足りなくて、普段は横になっているはずのハシゴがかかっていた。蒼戒が屋根の上にいるのは確実だと思うんだけど、今行ったらジャマだろうな……。
「あと5分くらい待ってからにしようかな」
 幼心にそう思って、俺はベランダから星空を見上げる。
 季節は春、星は綺麗だけど朝晩はまだまだ冷える。蒼戒、風邪引かなきゃいいけど(ここで自分より蒼戒の心配をしてしまうあたり俺は生粋の弟バカだ)。
 そんなことを考えている間にも、すすり泣くような、小さな声が聞こえてくる。
 内容はあまり聞き取れないけれど、想像はつく。先日……と言っても数ヶ月前……に死んだ姉さんのことだろう。蒼戒は姉さんによく懐いていたし、いなくなってつらいだろうから。
 それでもこうして一人で泣いているのは、きっと俺に心配をかけないため。あいつは変なところで意地っ張りで強がりで、すごく優しいやつだから。
 ったく双子なんだからそんなの気にしなくてもいいのによぉ。
 となんだかんだで時間は過ぎて、俺はそろそろいいかな、というタイミングを見計らってハシゴを登る。
「あー、こんなところにいた蒼戒! ご飯できたから食べよーぜ!」
 そして何も知らないように声をかける。
「春、輝……?」
 蒼戒は驚いたように目を丸くして、慌てて涙を拭う。
「ほら、早くしねーと冷めちゃうぜ! 行こっ!」
 俺はそう言って蒼戒を屋根の上から連れ出す。
「え、あ、ちょっと待って……!」
「待たないもーん。今日のは自信作だしー!」
「どうせ黒焦げなんだろうが」
「そんなことないもーん」
「じゃあ半生? それはそれで嫌だ」
「そ、そんなことないもーん」
「今ギクッてしたろ?」
「し、してない!」
「嘘つけ」
 このくらい雑談をできるようになればもう大丈夫。泣くだけ泣いたら、俺が笑わせてあげるから。だからお前は安心してればいい。
「嘘じゃないよーだ! あっそうだ! 明日からお前が作れば済む話じゃんか!」
「ヤダね。だったら別に食べなくてもいいし」
「だめだよーだ!」
 こんなことを話しながら、俺と蒼戒は階段を駆け下った。
★★★★★
 時は流れて大体10年、俺たちは高校生になった。
「おーい、蒼戒ー! あーおーいー! どこ行ったー?」
 高校生になっても蒼戒は相変わらずで、一人になりたい時は大体屋根の上にいる。
「あー、いたいた蒼戒! 一緒にメシ食べよ!」
「……春輝……? 断る。一人で食べろ」
「ヤダねー! 蒼戒と一緒じゃなきゃ食べない!」
「じゃあ餓死しとけ」
「鬼かっ!」
「鬼だが何か?」
 そしてタイミングを見て屋根に上がって、蒼戒を屋根の上から連れ出すまでがワンセット。たまに泣いている時は、たっぷりと時間を置いて。
「オメーは鬼じゃねーだろ? それに、」
 俺はそう言ってそっと蒼戒の目元を拭う。
「涙が拭いきれてないぜ?」
「……なっ、何すんだ馬鹿!」
 蒼戒は一瞬目を丸くして、俺の手を振り払う。
「どーせ俺は馬鹿ですよーだ。さ、メシメシ!」
 馬鹿は馬鹿でも、弟バカだけどな。
「いくらなんでも切り替え早くないか?」
「腹が減っては戦はできぬ! 腹が減っては泣けねーよ!」
「な、泣いてない!」
「はいはい。今日のことは黙っといてやるから一緒にメシ食べよー」
「……仕方ない」
 蒼戒はなんだかんだで優しいから、最後にはちゃんと頷いてくれる。
 というわけで俺と蒼戒はのんびり食卓を囲んだのだった。
(終わり)

2025.3.29《涙》
我ながらなんかめちゃくちゃだなー……
3.5《question》書きました!読んでくれると嬉しいです!!

3/29/2025, 9:39:16 AM

《小さな幸せ》

「なのはーな畑ーに火いーり薄れー、ってねー。豊作豊作〜」
「お、明里か。やけに上機嫌だな」
 とある春の日。私、熊山明里が以前蒼戒に教えてもらった菜の花畑から菜の花を摘んで帰る途中、珍しく蒼戒に声をかけられた。
「蒼戒じゃない。こんなところでどーしたの?」
 ここは桜ヶ丘の奥の方。蒼戒の家も桜ヶ丘にあるが、こことは正反対の位置だ。
「いや、暇だったんで天望公園の桜は咲いたかと思って見に来てみたところだ」
「あー、まだだったでしょ? ここら辺無駄に標高が高いから桜咲くの遅いのよねー」
「ああ。蕾が膨らんできてはいたけど」
「そうよねぇ。ま、私の家近くだし咲いたら教えてあげるから安心しなさいな」
「ああ。助かる」
「咲いたらあそこでお花見しましょうか」
「乗った。まあ時間があればだけど」
「そこは1時間くらい暇な時間を捻り出しなさい。あんたそのうち過労死するわよ?」
「しない……と思いたい」
「そこはきっぱり言い切れ。そのうちサイトウが心配して死ぬぞ」
「あいつならやりかねん……」
「それが嫌ならちゃんと休むことね。あ、そういえば菜の花いっぱいあるんだけどいる?」
「いいのか?」
 蒼戒はどこか嬉しそうに言う。
「いいわよー。どーせ後からお裾分けに行こうと思ってたくらいだし」
「それじゃあありがたく。これあそこのか?」
 あそこ、とは以前教えてもらった菜の花畑のことだ。
「ええ。満開だったわよ」
「だろうな。美味しそうだし」
「そうなのよねー。今夜はおひたし」
 なんだかんだ、花より団子な私たち。まあ菜の花って結構美味しいからね。
「あ、そういえば天望公園にスミレが咲いてたんで摘んでみたんだがいるか?」
「え、いいの? ってかそもそもあそこにスミレなんてあったんだー!」
 あそこは存在を忘れ去られた場所だから雑草まみれなのに。
「ああ。ひっそりと咲いてた。せっかくだから姉さんの仏壇に供えようかと思ったんだが……お前にやる」
「え、それもらっちゃダメじゃない?! お姉さんのお仏壇にお供えするんでしょ?!」
 蒼戒のお姉さんはかなり昔に亡くなった、と言うのは割と最近知ったことだが、かと言ってお供えするお花をもらうわけには……。
「いや、菜の花を供えるからいい」
「いやいやダメでしょ!!」
「いいから受け取れ。それじゃあ、また週明け」
「え、あ、ちょっと! 蒼戒!」
 蒼戒は私にスミレを押し付け、分かれ道を曲がっていってしまう。
「んもー! 仕方ない……ありがと! また週明けねー!!」
 去っていく蒼戒の背中に向かってそう叫ぶが、届いているかはわからない。
 そういえば菜の花もスミレも花言葉が《小さな幸せ》だったな、と思い出すのは家に帰っていいサイズのコップにスミレを生けた時のこと。
(終わり)

2025.3.28《小さな幸せ》

3/28/2025, 9:59:32 AM

《春爛漫》

「もうすっかり春だねぇ……」


一文だけ書いたけどまた後日!

20253.27《春爛漫》

3/27/2025, 9:22:35 AM

《七色》

「あっ、見て見て紅野くん! 虹! 虹出てるよ!!」
 とある春の日の夕暮れ時。僕、紅野龍希が同じクラスの中川夏実さんと歩いていると、不意に夏実さんが空を見上げて言った。ちなみに僕らが一緒に歩いているのは、決して恋人同士だからというわけではなく(いつかそうなってほしいものだが)、単に家の方向が同じだったからである。
「あ、本当だ。久しぶりですねぇ」
「うん。綺麗だねぇ」
 夏実さんが指差す先には、七色の虹が架かっていた。
「……そういえば虹は日本だと赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍、紫と言われてますが例えばドイツだと藍、紫以外の5色、アフリカだと黄緑をプラスして8色、とか世界的に見ると色々違うんですよね」
 僕はふと思い出して呟く。
「あー、なんか聞いたことあるかもー! 確かロシアとかは4色なんだよね?」
「そう聞いてます。色の見え方も国や地域、民族によって違うんですねぇ」
「そうだねー。紅野くんは何色が1番好き?」
「僕ですか? そうですねぇ……、赤ですかね」
「やっぱりー! シャーペンとか赤っぽいの多いからそうじゃないかと思ってたんだー!」
「バレてましたか。夏実さんは?」
「あたし? あたしはねー、黄緑色が1番好き! あ、でもピンクとか水色とかも好きだよ!」
 女の子らしいパステルカラー。やっぱり僕の予想通り。
「やはりですか。夏実さんのペン、そういう色が多いですもんね」
「そう! 好きな色の方がテンション上がるし!」
「ですね」
 そこまで話して僕はふとこの前商店街の店先で見かけたパステルカラーのマグカップのことを思い出した。夏実さんの誕生日はまだまだ先だが、その時にでもプレゼントしようかな。
「あ、それじゃああたしこっちだから! また明日ね!」
「はい。また明日!」
 ちょうど分かれ道に差し掛かってしまって、僕はそのまま直進し、夏実さんは左の脇道に入る。
 もう少し一緒に虹を見ていたかったな、と思ってしまったのは僕だけの秘密だ。
(終わり)

2025.3.26《七色》

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