谷間のクマ

Open App
3/26/2025, 9:12:47 AM

《記憶》

「《記憶》、ねぇ……」
「何々ー? また放送委員会と演劇部のラジオドラマの話?」
 齋藤双子が《もう二度と》だの《謎》だののお題を引き当てた作文の課題が出された日。私、熊山明里はというと《記憶》というお題を引き当てていた。
 内容が思いつかなくて悩んでいると、親友のなつこと中川夏実が興味津々に声をかけてきた。
「違う違う、ほら今日の課題の作文」
「あー、テーマがくじ引きだったやつ」
「そうそれ。それの私のお題が《記憶》ってだけの話よ」
「ああ、なるほどねー。あたしのお題はねー、《ヒーロー》だったよー!」
「《ヒーロー》? 本当、あの先生何考えてお題決めてるんだか……」
 なんか異様に簡単な人と、異様に深いテーマの人と、異様に謎のテーマの人がいるような気がするのは私の気のせいだろうか。まあ、ラジオドラマの時の私のお題の決め方は『その時放送室に来た人が持ってたもの』だったし人のことは言えないが。
「なんか噂だとねー、『テレビ見てて目についたもの』とからしいよー」
「そんな雑な決め方ある……?」
「明里も人のこと言えないでしょ」
「まあねー」
「ちなみになつの《ヒーロー》は曲のタイトルか何か?」
 確かそういうタイトルの曲があったはず。
「違う違う。某ジャンプ漫画の方らしい」
「ああ、あれか。じゃあ私の方は……?」
「それはしーらない」
「だよねぇ……。そういえばなつは何書いたの?」
「あたし? あたしはねー、昔好きだったヒーローアニメの話!」
「自由だねぇ……」
 ま、サイトウは《謎》で心霊現象について書いたらしいしどっちもどっちか。
「明里は何書くのー?」
「それが決まれば苦労はしない」
「あはは、だよねー……。もういっそのこと今日の日記みたいな感じとかでもいーんじゃないのー?」
「確かに。んじゃ決まり! 今日の日記にしよう! そんじゃあこれは後回しでいいし、今度こそちゃんとしたラジオドラマのテーマ決めなきゃ」
「あれまだ動いてたんだ……」
「実は次に変なお題になったら没にしろと蒼戒に言われてる」
「さすがは男副……。辛辣だわー……」
「まあ《羅針盤》と《ココロ》で迷走しまくってるから当然っちゃ当然だけどね」
「方位磁針と夏目漱石だっけ。いっそのこと《ヒーロー》とかの方がおもしろいんじゃない?」
「かもねー」
 今日のところは作文の目処が立ったからよしとしよう、と私は机から立ち上がった。
(終わり)

2025.3.25《記憶》

3/25/2025, 9:11:46 AM

《もう二度と》

「もう二度と、か……」
「? どうかしたかー? 蒼戒」
 とある春の日の夕方。いつもよりは早い時間から机に向かう俺、齋藤蒼戒の小さな呟きを双子の兄、春輝が拾う。
「あ、いや別に……」
「なわけねーだろ。見ていーい?」
「ま、まあいいが……」
 春輝が一応俺に断りを入れてから机の上を覗く。
「あ、これ国語の時の作文か。オメーが一行も進んでねーなんて珍しいこともあったもんだねぇ」
「うるさい。そう言うお前は終わったのか?」
「うん。面倒だったしテキトーに終わらせた。そーいや今日の課題の作文のテーマ、くじ引きだったんだっけ」
「そうだ。俺は見てわかる通り《もう二度と》だが……お前は?」
「俺? 俺は《謎》」
「《謎》?」
「そう。先生のテーマの基準どーなってんだか」
「ごもっともだな。ちなみに何書いたんだ?」
「うーんと……、あ、そうそう。謎繋がりで心霊現象とかについて書いた気がする!」
「自由だな……。俺は何を書こう……」
「どーせくじ引きで決めたお題なんだからテキトーでいーんじゃねーの?」
「まあそうと言えばそうなんだが……」
 《もう二度と》か。
 もう二度と戻らないもの、もう二度と戻らない日々、もう二度と、会えない人。
「一口に《もう二度と》と言っても後につく言葉次第で可能性は無限大だな」
「だなー。ま、深く考えすぎねー方がいいと思うぜ。思い出したって、辛いのはお前だよ」
 どうやら春輝には、俺が何を考えていたかわかったらしい。まったく、鋭い奴め。
「……それもそう、か。……ありがとう春輝。大体の目処が立ったから夕飯にするか」
「え、早っ! てかお前が素直に礼を言うなんて珍しい! 大丈夫か熱でもあるのか?!」
「うるさい。別にお前が食べないなら作らないが?」
「えーごめんそれはやめてー! 俺餓死するから!」
「わかったわかった。ちなみに何が食べたい? 1、アジの干物、2、サバの干物、3、イワシの干物」
「干物ばっかりじゃねーか!」
「仕方ないだろう。干物がたくさんあるんだから」
「えー、俺肉が食べたい!」
「じゃあ自分で買ってこい」
「鬼ー!」
「諦めろ」
 さて、夕飯を食べたら作文を仕上げよう。『もう二度と戻らない、輝かしい今日』について書こう。そうしよう。
(終わり)

2025.3.24《もう二度と》

3/23/2025, 3:55:17 PM

《雲り》

 桜が咲くにはまだまだ早い、とある春の日の夕方。俺、齋藤春輝は双子の弟、蒼戒と共に少し遠くの百合ヶ丘の商店街に買い出しに出掛けていた。
「しっかしなー、どーにもテンション下がるよなー、こんなきれーなくもり空だと」
 そう、天気はあいにくの雲り。もうすぐ雨が降ってきそうだ。それにこんな日はどうしてもテンションが上がらないものである。
「雲りに綺麗も何もあるか。というか早くしないと雨降るぞ」
「だろーな。なんだっけ、桜曇りだっけ」
「花曇りだ。ちなみに桜が咲く頃の曇りがちな天気を指すから正確にはもう少しあとだな」
 桜が咲くにはまだまだ早いし、と蒼戒は呟く。
「あー、そうそれだそれ。つーかそんなことよりテンション下がるー」
 別に偏頭痛持ち、ってわけじゃないんだけど。なんでだろう。
「知るかそんなこと。というか俺は好きだが? 曇り空。暑くならないし」
「蒼戒がいいならいいやー」
「いいのか」
「だーってお前は好きなんでしょ?」
「まあ……。晴れは無駄に暑いから嫌いだし雨と雪は嫌いではないがなんとなく嫌だし消去法でくもりだな」
「嫌いではないがなんとなく嫌ってなんだよ」
「そのままの意味だが?」
「それはわかるけどさ、なんか矛盾してない?」
「うるさい。そもそも俺は水は好きではない」
「そーいやそうだ」
 蒼戒は訳あって池とか海とか川とか、水や水が溜まってるところが苦手なのだ。もちろん、雨や水たまりもそれに当てはまる。
「ちなみに俺は晴れが1番好き」
「だろうな。そういえば誰かがお前は晴れで俺が雨、と言っていたことがあったな」
「ああ、あったあった。あとなんだっけ、俺が太陽ならお前は月、とか」
「ああ、あったな。誰が言っていたのかは覚えていないが」
「だよなー。かなり昔の話だし。多分明里とかそのへんだと思うんだけど」
「あー、あいつか……。じゃない、もう降り出すから走るぞ」
 蒼戒が空を見上げて言う。
「えー、食材重いんだけどー!!」
 蒼戒も食材を持っているが、俺の方が圧倒的に多い。
「どうせ食べるのお前だろうが。なんとか運べ」
「鬼ー!」
「鬼だが何か?」
「ちょっと持ってよー!」
「断る」
「そんなぁ〜」
 というわけで結局俺が大量の食材を抱えたまま家まで走って帰るハメになった。
(おわり)

お知らせ 今日からまたできるだけ毎日書いていきます!読んでくれると嬉しいです!

2025.3.23《雲り》

3/22/2025, 12:16:16 PM

《bye bye…》

《cute》の続き書きたい!

2025.3.22 《bye bye…》

3/22/2025, 3:53:10 AM

《君と見た景色》

また後日!!

2025.3.21《君と見た景色》

Next