谷間のクマ

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《記憶》

「《記憶》、ねぇ……」
「何々ー? また放送委員会と演劇部のラジオドラマの話?」
 齋藤双子が《もう二度と》だの《謎》だののお題を引き当てた作文の課題が出された日。私、熊山明里はというと《記憶》というお題を引き当てていた。
 内容が思いつかなくて悩んでいると、親友のなつこと中川夏実が興味津々に声をかけてきた。
「違う違う、ほら今日の課題の作文」
「あー、テーマがくじ引きだったやつ」
「そうそれ。それの私のお題が《記憶》ってだけの話よ」
「ああ、なるほどねー。あたしのお題はねー、《ヒーロー》だったよー!」
「《ヒーロー》? 本当、あの先生何考えてお題決めてるんだか……」
 なんか異様に簡単な人と、異様に深いテーマの人と、異様に謎のテーマの人がいるような気がするのは私の気のせいだろうか。まあ、ラジオドラマの時の私のお題の決め方は『その時放送室に来た人が持ってたもの』だったし人のことは言えないが。
「なんか噂だとねー、『テレビ見てて目についたもの』とからしいよー」
「そんな雑な決め方ある……?」
「明里も人のこと言えないでしょ」
「まあねー」
「ちなみになつの《ヒーロー》は曲のタイトルか何か?」
 確かそういうタイトルの曲があったはず。
「違う違う。某ジャンプ漫画の方らしい」
「ああ、あれか。じゃあ私の方は……?」
「それはしーらない」
「だよねぇ……。そういえばなつは何書いたの?」
「あたし? あたしはねー、昔好きだったヒーローアニメの話!」
「自由だねぇ……」
 ま、サイトウは《謎》で心霊現象について書いたらしいしどっちもどっちか。
「明里は何書くのー?」
「それが決まれば苦労はしない」
「あはは、だよねー……。もういっそのこと今日の日記みたいな感じとかでもいーんじゃないのー?」
「確かに。んじゃ決まり! 今日の日記にしよう! そんじゃあこれは後回しでいいし、今度こそちゃんとしたラジオドラマのテーマ決めなきゃ」
「あれまだ動いてたんだ……」
「実は次に変なお題になったら没にしろと蒼戒に言われてる」
「さすがは男副……。辛辣だわー……」
「まあ《羅針盤》と《ココロ》で迷走しまくってるから当然っちゃ当然だけどね」
「方位磁針と夏目漱石だっけ。いっそのこと《ヒーロー》とかの方がおもしろいんじゃない?」
「かもねー」
 今日のところは作文の目処が立ったからよしとしよう、と私は机から立ち上がった。
(終わり)

2025.3.25《記憶》

3/26/2025, 9:12:47 AM