《七色》
「あっ、見て見て紅野くん! 虹! 虹出てるよ!!」
とある春の日の夕暮れ時。僕、紅野龍希が同じクラスの中川夏実さんと歩いていると、不意に夏実さんが空を見上げて言った。ちなみに僕らが一緒に歩いているのは、決して恋人同士だからというわけではなく(いつかそうなってほしいものだが)、単に家の方向が同じだったからである。
「あ、本当だ。久しぶりですねぇ」
「うん。綺麗だねぇ」
夏実さんが指差す先には、七色の虹が架かっていた。
「……そういえば虹は日本だと赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍、紫と言われてますが例えばドイツだと藍、紫以外の5色、アフリカだと黄緑をプラスして8色、とか世界的に見ると色々違うんですよね」
僕はふと思い出して呟く。
「あー、なんか聞いたことあるかもー! 確かロシアとかは4色なんだよね?」
「そう聞いてます。色の見え方も国や地域、民族によって違うんですねぇ」
「そうだねー。紅野くんは何色が1番好き?」
「僕ですか? そうですねぇ……、赤ですかね」
「やっぱりー! シャーペンとか赤っぽいの多いからそうじゃないかと思ってたんだー!」
「バレてましたか。夏実さんは?」
「あたし? あたしはねー、黄緑色が1番好き! あ、でもピンクとか水色とかも好きだよ!」
女の子らしいパステルカラー。やっぱり僕の予想通り。
「やはりですか。夏実さんのペン、そういう色が多いですもんね」
「そう! 好きな色の方がテンション上がるし!」
「ですね」
そこまで話して僕はふとこの前商店街の店先で見かけたパステルカラーのマグカップのことを思い出した。夏実さんの誕生日はまだまだ先だが、その時にでもプレゼントしようかな。
「あ、それじゃああたしこっちだから! また明日ね!」
「はい。また明日!」
ちょうど分かれ道に差し掛かってしまって、僕はそのまま直進し、夏実さんは左の脇道に入る。
もう少し一緒に虹を見ていたかったな、と思ってしまったのは僕だけの秘密だ。
(終わり)
2025.3.26《七色》
3/27/2025, 9:22:35 AM