スーパーで、
紙の束の山があると思ったら、
笹だった。
買い物客の短冊がびっしりとくくられて、
笹はもはや本体が見えず、
でも今日は七夕で、短冊がくくられるとしたら、
それは笹だろうから、
笹とわかった。
#七夕
仕事を終え、オフィスから出るとさすがに暗いのだけれど、ぬるい空気に浮かれた気持ちになる。
このまま帰るのはもったいない。友人に「飲み行こう」と連絡してみる。急な誘いにもかかわらずオッケーしてくれる人がいるラッキーな人生。
待ち合わせの時間まで繁華街の大型書店で時間をつぶす。目を合わせないようにしていた本と目が合ってしまいしばらく逡巡する。
呑兵衛の友人とは絶対二軒目に行く。なんだったら味変と称して三件目も行く。そしたら一万円くらいよくわからないうちになくなるのだ。ここで二千円ちょっとの本代をケチる意味があるだろうか、いやない、反語。
本を購入し約束の店まで歩く。アスファルトから熱はまだ放出されていて、空気が冷える気配はない。
きっとレモンサワーが美味しいだろう。
路地にある店のドアに手をかけたところで、室外機の熱風を浴びた。支度は万全。
#夏
彼女はおのおので傘をさすのを嫌がる。
ひとつの傘のほうが話しやすいじゃん、と。
ひとつの傘に2人だとどうしても小さい。肩が濡れる、カバンが濡れるし、中の本が心配だ。わたしは別々のほうがいい。
彼女は雨に濡れるのは苦じゃないし、持ってきてもすぐ忘れるから、と傘を持ってくることすらしなくなった。出会った頃は雨の日には自分の傘を持ってきていたはずだ。
濡れるのは苦じゃないと言われても傘をささない人が隣にいれば、自分だけ傘をさすのは憚られる。
傘は背の高い彼女の方が持つ。わたしは濡れたくないからぴったりと彼女の傘を持つ手に寄り添う。彼女もわたしの小さい身体にぴたり寄り添う。
彼女はひとりでは生きられない。傘ひとつ分の孤独に耐えられない。
#相合傘
疲れ目。かすかに頭痛。体調悪いってわけでもないけれど、何かやる気も湧かなくて、このまま起きてても特に良いことはできない。
今日はもう寝てしまおう。
睡眠で回復という今できる一番良いことをする。
眠気はなくてもハルシオン。
このまま一生眠っていてもいいと思う。いつもきちんと朝が来るんだけど。
#昨日へのさよなら、明日との出会い
子どもの頃、祖母に
「おばあちゃんは何でおじいちゃんと結婚したの?」
と聞いた。
「昔は親が決めた人と結婚するもんだったんだよ」
と祖母は答えた。
「お見合い結婚」でも「恋愛結婚」でもないのかーと思った。
子どもは分類したがるものである。分類していく中で分類できないものがあることを知り、項目を増やしたり、分類をやめたりする。子どもの成長の過程である。
今のわたしは、結婚にさまざまな状況があること、結婚しない形態もあることを知っている。
先日、祖母が亡くなった。長生きし、大往生だったと言えるだろう。
相続手続のために戸籍を調べた際、祖母が実は祖父とは二度目の結婚であったことを知った。家族誰も知らなかった。
戦後間も無く結婚し、数ヶ月後に死別したらしい。おそらく相手は結婚時すでに病を得ていただろう。
「その人のこと、きっとたぶんすごく好きだったんだよ」と母は言った。
#恋物語