花とコトリ

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8/22/2025, 8:22:26 PM

Midnight Blue

夜が、どこまでも青い。
真っ黒になる一歩手前の、深い深い青。
この色が好きだ。
静かで、なにかに包まれているような気がするから。

足元には、愛犬のクロが丸くなって眠っている。
規則正しい寝息だけが聞こえる。
世界には、わたしたち二人だけ。
そう思っても、だれも笑わない。
この時間だけは、すべてのことが許されている。

飲み残しの、気の抜けた炭酸水を一口飲む。
窓の外には、街灯の光がぼんやりと滲んでいる。
青の中に溶けていく。
クロが、寝言を言った。
そんな夜だった。

8/22/2025, 7:30:48 AM

【君と飛び立つ】

クロが、横で寝息をたてている。

世界は、この部屋の窓の外、
もっと遠くの、どこか。
でも、そのどこかには、
いま、行かなくていい。

庭のブルーベリーの木は、
今年も小さな実をつけた。
甘酸っぱい、
記憶のような味がする。

手のひらに数粒のせて、
ひとつ、口に入れる。
クロが静かに顔を上げて、私を見ている。
その、どこにも行かない時間が、
どこへでも行ける時間のように思える。

この命と、この命と。
いつか、そうして、私たちは、
この場所から、そっと、飛び立つ。

8/20/2025, 3:40:14 PM

「きっと忘れない」

人はなにかを得て、なにかを失って生きていくものだが、私はこの朝もまた、小さな幸せを得た。窓をあけると涼しい風が部屋に入り、青空がひろがっていた。庭の草むらが光に濡れて、露がきらきらと輝いていた。そのとき、クロが駆けよってきた。尾をふりふり、私の足もとにじゃれつく。黒くてつややかな毛並み。無邪気な瞳。私はクロの頭をそっと撫でる。「おはよう、クロ」、クロは嬉しそうに声をあげた。犬は人よりも素直だと思う。心が白いから、感情も真っすぐだ。私はクロと散歩に出る。道端の花を見つけて、二人で立ちどまる。風がやさしく吹いて、頬にあたる。私は思う。こうして過ごす日々を、私はきっと忘れないだろう。クロ、お前もそうだろうか。心にぽっと灯る、小さな感謝を私はそっと胸にしまった。

8/16/2025, 11:45:32 PM

「遠くの空へ」

ラムネの瓶が陽に透けて、青い光を放っていた。私は縁側に腰を下ろし、その小さな瓶を指先で転がした。シュワシュワと微かな音が夏に似合っていた。私の脇には、愛犬のクロが静かに寝そべっている。クロの黒い毛並みは、この世のどんな墨よりも深く美しい。彼は私の気配に安心したのか、小さな鼻先だけが時折ひくつき、残りは夢の国だ。私は瓶の口に唇を寄せて、喉を冷たい泡で満たした。ああ、なんということであろう——この平穏な午後、遠い空の彼方へ思いが飛んでいく。ふと見上げると、雲が流れる。ひとつの雲は、まるで先ほど見たクロの寝姿のようだ。私は思わず笑った。空も地上も、今はやさしく、ひろがっている。人間は時に悩み、時に喜ぶ生きものだが、この瞬間ほどまっすぐに生きようと思うことはない。ラムネの瓶の中のビー玉がコトンと鳴る。その音を聞きながら、私はもう少し、この夏の夢に浸っていたくなった。

8/14/2025, 11:38:43 PM

「君が見た景色」

君が見た景色、それは私の知らぬものだった。私は、そのことにふと気づいて、思わず柔らかな日差しの窓辺に腰を下ろした。小太郎——私の愛犬が、こちらへと小さな足音を立ててやってきた。彼の眼差しには、何もかもが初めての驚きと、無邪気な好奇心が浮かんでいる。その瞳に映る世界はきっと、私のものとは違う色と形に満ちているのだろう。

私は手を伸ばし、小太郎の頭を優しく撫でた。彼はしきりに尻尾を振り、私に寄り添った。草の匂い、遠く鳴く雀の声、ガラス越しの光のまぶしさ——小太郎はそれらすべてを、新鮮な驚きで受け止めているらしい。

「コタ、おまえにはどんな景色が見えているのだろうね」私はそう小さく呟いた。答えぬ小太郎だが、その素直な表情に、私はふと心打たれるものを感じた。世の中のすべては、見る者の心により、一つ一つ違うものになるのだと、私は改めて思うのだった。

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