【君と飛び立つ】
クロが、横で寝息をたてている。
世界は、この部屋の窓の外、
もっと遠くの、どこか。
でも、そのどこかには、
いま、行かなくていい。
庭のブルーベリーの木は、
今年も小さな実をつけた。
甘酸っぱい、
記憶のような味がする。
手のひらに数粒のせて、
ひとつ、口に入れる。
クロが静かに顔を上げて、私を見ている。
その、どこにも行かない時間が、
どこへでも行ける時間のように思える。
この命と、この命と。
いつか、そうして、私たちは、
この場所から、そっと、飛び立つ。
8/22/2025, 7:30:48 AM