「きっと忘れない」
人はなにかを得て、なにかを失って生きていくものだが、私はこの朝もまた、小さな幸せを得た。窓をあけると涼しい風が部屋に入り、青空がひろがっていた。庭の草むらが光に濡れて、露がきらきらと輝いていた。そのとき、クロが駆けよってきた。尾をふりふり、私の足もとにじゃれつく。黒くてつややかな毛並み。無邪気な瞳。私はクロの頭をそっと撫でる。「おはよう、クロ」、クロは嬉しそうに声をあげた。犬は人よりも素直だと思う。心が白いから、感情も真っすぐだ。私はクロと散歩に出る。道端の花を見つけて、二人で立ちどまる。風がやさしく吹いて、頬にあたる。私は思う。こうして過ごす日々を、私はきっと忘れないだろう。クロ、お前もそうだろうか。心にぽっと灯る、小さな感謝を私はそっと胸にしまった。
8/20/2025, 3:40:14 PM