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3/7/2023, 9:19:34 AM

仕事の合間の昼休み。
「オマエは彼女とか好きな人とかいねえの?」
不意に、お前が訊いてきた。

俺個人のことをお前が尋ねてくるのは珍しい。
興味を示された喜びと、答えられない罪悪感、
そして予想外の問いへの戸惑いに、
返す言葉が見つからず沈黙でやり過ごす。

「……昔から、自分のこと話したがらないよな」

おれにも言いたくねえ?
ぽつりと淋しそうな声。

お前にだから言えないんだ。
長い時間をかけて紡いできたお前との絆を、
たった一言で失くしたくない。

「それならもう、聞かねえよ」

都合がいいはずなのに、なぜ苦しいんだろう。
誤魔化せるだけの器用さが欲しかった。
そうすればお前を傷つけなくて済んだのに。

顔を見ることも出来ないまま、
そうしてくれ、とだけやっと呟いた。

3/5/2023, 11:12:33 AM

『たまにはちゃんと自炊しようと思う!』

土曜の午後にそんなLINEが来たから。
キッチン爆発しねえか不安で仕方ない、と
つい返信したのが全ての過ち。

『ほんそれ。おれも自信ない。手伝って』
すぐに来た返事は案の定。
本当は嬉しい癖に、俺は隠して家に向かう。

玄関のドアが開いて、覗いた顔に
わざとらしく溜め息を吐きながら、
応援物資だと言ってお前の好物を差し入れて。

「……結局、作ったのほぼ俺じゃねえか」
全部完成して初めて我に返る。
ずっとくっつかれていたせいで、
動揺を悟られないよう集中したのが敗因だ。

うん、へへっ、と当の本人は御満悦。
へへじゃねえ、お前もやれ。蹴りを入れると
「だってオマエが作るメシ美味いんだもん」
屈託のない笑顔と言葉に、何も言えなくなる。

今まで付き合った子達も料理上手かったけど
オマエの料理はなんか安心するんだよなぁ。
勢いよく頬張りながら、人の気も知らず言う。

胃袋を掴む、なんて言葉があったな。
これだけのことでお前を掴んでおけるのなら、
毎食だって喜んで引き受けるのに。

「気が向けばまた作ってやってもいいけどな」
自炊は慣れてるし嫌いじゃない。
言い訳を足せば、本当?やった!と破顔して、
ちゃんと材料費とか出すから、と言い残し、
お代わりをよそいに席を立つ想い人。

金なんかいらない。
食いたきゃいつでも何でも作ってやる。
そのかわりに、
お前が誰かに渡す愛のほんの一欠片でいい、
俺に分け与えて、くれたら。

3/4/2023, 11:14:04 AM

お前に告白する夢を見た。

「好きだ」

本当に伝えられたらどんなにいいだろう。
伝えられる仲ならどんなに良かっただろう。

口にすればきっと全てが終わる言葉。
俺がお前を失うだけならまだいい。
口にすれば、幼馴染と悪友と親友とを
お前からも一度に奪ってしまう言葉。

代わりがきかない存在なのはお互い様だ。
だから言うのは、夢の中だけ。


すきだ

すきだ


大好きなお前に、心の中で叫ぶ。

3/3/2023, 8:25:36 AM

いつだったか、サークルの飲み会で
したたかに酔ったお前が言った。

「オマエとなら付き合うのもアリかも」

上機嫌な酔っ払いの放った、
到底本気とは思えぬ軽口。

けれどあの言葉だけがずっと、
俺の中に息づくたったひとつの希望。

2/28/2023, 10:59:05 AM

どこか遠い遠い街へ行ってしまおうか。
お前のいない、誰も知らない街へ。
そうしたら少しは楽になれるのだろうか。

……無理だろうな。

鳴り出すスマホ、
「置いてくなよ」と拗ねる声、
淋しげな表情。
全部、いとも簡単に想像できてしまう。

お前から与えられるものが
悲しみ苦しみだけだったなら、
俺は迷うことなく旅立てただろうに。

それより俺を満たすのは、
お前がくれる歓喜、悦楽、……幸福。
だから離れられない。

もしいつか本当にどうしようもなくなったら、
その時は遠くの街へ行って。
切り花のようにそっと、枯れる日を待つよ。

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