Open App

『たまにはちゃんと自炊しようと思う!』

土曜の午後にそんなLINEが来たから。
キッチン爆発しねえか不安で仕方ない、と
つい返信したのが全ての過ち。

『ほんそれ。おれも自信ない。手伝って』
すぐに来た返事は案の定。
本当は嬉しい癖に、俺は隠して家に向かう。

玄関のドアが開いて、覗いた顔に
わざとらしく溜め息を吐きながら、
応援物資だと言ってお前の好物を差し入れて。

「……結局、作ったのほぼ俺じゃねえか」
全部完成して初めて我に返る。
ずっとくっつかれていたせいで、
動揺を悟られないよう集中したのが敗因だ。

うん、へへっ、と当の本人は御満悦。
へへじゃねえ、お前もやれ。蹴りを入れると
「だってオマエが作るメシ美味いんだもん」
屈託のない笑顔と言葉に、何も言えなくなる。

今まで付き合った子達も料理上手かったけど
オマエの料理はなんか安心するんだよなぁ。
勢いよく頬張りながら、人の気も知らず言う。

胃袋を掴む、なんて言葉があったな。
これだけのことでお前を掴んでおけるのなら、
毎食だって喜んで引き受けるのに。

「気が向けばまた作ってやってもいいけどな」
自炊は慣れてるし嫌いじゃない。
言い訳を足せば、本当?やった!と破顔して、
ちゃんと材料費とか出すから、と言い残し、
お代わりをよそいに席を立つ想い人。

金なんかいらない。
食いたきゃいつでも何でも作ってやる。
そのかわりに、
お前が誰かに渡す愛のほんの一欠片でいい、
俺に分け与えて、くれたら。

3/5/2023, 11:12:33 AM