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9/2/2024, 2:48:14 PM

俺の名前は厚壱シオン。何処にでもいる普通の高校生! だったのは去年までの話。二年になったこの春からは、爺ちゃんが長を務める『灯火機関』に、熱血ロボ『ボンヴァリオン』のパイロットとしてスカウトされ、悪の組織『ダウ・ナーフ』と日夜戦っているんだ!

「おい、シオン! いつまで寝ておるッ!」
「げっ、爺ちゃん……zzz」
「シオン!」
「昨日の特訓がハードで疲れてるんだ……あと5分」
「ったく……すまんなリナちゃん。せっかく迎えに来てくれたのに……」
「リナっ!?」
幼馴染であり、俺が密かに想いを寄せるリナ——廣井リナが迎えに!? 俺は慌てて飛び起きた!

「おお、起きたな。……やれやれ、我が孫ながら単純すぎて心配になるわい」
慌てて周りを見回すがリナの姿はない。
「爺ちゃん……騙したなっ!?」
「それだけ元気なのに学校をサボろうとするが悪い。ほれ、さっさと準備して行かんか」
くうぅ〜〜、今日こそ本当にリナが起こしに来たのかと思ったのに……! 男子高校生の純情を弄ぶ爺ちゃん許すまじ!
制服に着替えた俺は部屋を出ると、適当に冷蔵庫から食えそうなものを見繕って腹に入れると、
「父ちゃん、母ちゃん、行ってきます」
両親の仏壇に手を合わせ、玄関を出た。
そんなシオンの背中を見送った祖父は
「タギル、トウカさん……シオンは元気でやっとるよ」
そう呟くのだった。

学校に着いた俺は教室に入るや否や
「おっはよーーー!!」
元気よく挨拶をした。
「シオンうるせーぞ」
「相変わらず元気だねー」
「声でけーよ!」
「おーっす」
などと、様々な反応が返ってくる。そんなみんなの反応を受けながら席につくと
「厚壱くん、おはよう。相変わらず声大きいね」
「元気だけが取り柄ですから!」
隣の席のリナちゃんに声を掛けられ、そう返す。朝一からリナちゃんと話せるなんて、今日はいい日になりそうだぜ!

しかし、その期待は呆気無く裏切られることになる。
昼休み目前の学校に、けたたましく鳴り響く警報音。

『ダウ・ナーフ警報発令! ダウ・ナーフ警報発令! 生徒は速やかに体育館へ避難せよ。繰り返す……』

クソッ! もう少しで昼飯だってのに! しかし、そうも言っていられない。ダウ・ナーフ警報が発令されたということは、ボンヴァリオンのパイロットである俺は灯火機関に向わねばならない。

「先生! 避難前にトイレ行ってきます!」
恥も外聞もなく大声でそう言い、トイレへ……と見せかけて、屋外の駐車場へ向かう。機関の迎えの車が来ているはずなので、俺は誰にも知られぬよう、それに乗り込む。

車中で俺はパイロットスーツに着替えながら、作戦の概要を聞く。
「今回のダウナーロボは『モーエーワ』。人々の情熱を奪うべく、市内各地で破壊活動を行っているようです。シオンさん、相手のペースに巻き込まれないように注意してください」
「へっ、誰に向かって言ってやがる! この厚壱シオンがそうそうやられるかよ!」

などと言っている間に、車は灯火機関本部への直通地下通路へと入った。ここからは他の車はいない。全速力で機関本部のボンヴァリオン格納庫へと向かう。

「シオン! 行けるか!」
爺ちゃんは俺がボンヴァリオンに乗り込んだのとほぼ同時に問いかけてきた。
「当然!」
俺は即答する。
「では……」
爺ちゃんは大きく息を吸って、叫んだ。


「ボンヴァリオン、発進!!」


敵機、モーエーワは今まさにデパートを襲撃しようとしていた。
「辞めろッ!」
俺の叫びとともに、ボンヴァリオンはデパートとモーエーワの間に割って入る。
「現れたな、ボンヴァリオン!」
「これが仕事なんでな!」
軽口を叩きながら、モーエーワは一旦後退し、体制を立て直すと再びボンヴァリオンに襲いかかる!
「へっ、力比べでボンヴァリオンが負けるかよ!」
敵は何も考えていないのか、改めてボンヴァリオンに力勝負を挑んできた。
しかし、その瞬間……

「かかったな!」
「なにっ!?」
モーエーワの瞳が妖しく光った。
これは……なんだ!?

突如、俺の脳裏に流れ込んで来たのは、両親の死の瞬間の映像だった……。
両親は事故で死んだ。爺ちゃんはそう言っていたし、俺自身もそう、思っていた。
しかし、俺の脳裏に流れ込んで来た映像は、ダウ・ナーフの襲撃から俺を守って無惨に殺される両親の姿だった……。
パニクる俺の頭に、敵はさらなる映像を送り付けて来る。

「お前さえいなければ……」
「あなたさえ産まなければ……」

「「私たちは死ぬことはなかったのに……!」」

血塗れの姿でそう言い、俺の存在を否定する両親。
そう、かもな……。俺さえいなければ、父ちゃんも母ちゃんも死なずに済んだかもしれない。

「けどッ!」

今の俺はこの街のみんなを守ってるんだ! 俺がいなければ、街にもっと多くの血が流れてたかもしれないんだ! 父ちゃんと母ちゃんには悪いが、俺の存在を否定するならたとえ両親であろうと許さないッ!
俺は、俺が窮地に陥るたびに爺ちゃんが言っていた言葉を無意識に叫んでいた!

「燃えろッ! 厚壱シオン!! その身に流れる熱い血潮を滾らせ、心の灯火に火を灯せ!!!」

「うおおおぉぉぉっ! ボンヴァリオンボンバーッ!!!!」

俺の心の灯火が激しく燃え上がるほど威力の上がるボンヴァリオンの必殺技、ボンヴァリオンボンバーをモーエーワにぶちかます!

直後、爆発四散する敵機、モーエーワ。俺の勝ちだ! 俺はコックピット内でガッツポーズを決めた。

ボンヴァリオンを降りた俺は、爺ちゃんに戦闘の報告も兼ねてモーエーワに見せられた映像のことを尋ねた。爺ちゃんは
「そうか……とうとうバレてしまったか」
そう言って、観念したように両親の死の真相を俺に教えてくれた。その内容は概ね、俺の見た映像と同じだった。
「じゃがな、お前の両親は一度たりとてお前のことを悪く言ったことはないぞ。ましてや、お前さえいなければ、などとは間違っても言うものか! それだけは勘違いするでないぞ」
「分かってるよ」

ボンヴァリオンの地下格納庫を後にして地上に上がると、俺は普通の高校生、厚壱シオンに戻った。そして、夕日に染まる街を歩きながら、打倒ダウ・ナーフを改めて心に誓うのだった。

9/1/2024, 6:03:05 AM

ある日、我が家の郵便受けに入っていた一枚のチラシ——それが全ての始まりだった。



   【不完全な僕】売ります

【不完全な僕】をあなたの思いのままに育ててみませんか? 
興味がお有りの方は○○○(電話番号)まで、ぜひ一度ご連絡ください!



随分と達筆な文字で、たったこれだけの文章が書かれたチラシなのだけれど、私はひどく興味を惹かれてしまった。
子どもが独り立ちし、夫に先立たれた寂しさもあったのかもしれない。
普段なら絶対にこんな怪しい広告主に電話をすることはないのだけど、この時だけは何故か電話してみようと思ったの。
……買う買わないは後で判断すればいいわよね……?

コール音が三回ほど鳴った後、広告主は電話に出たわ。
「はい、お電話ありがとうございます! こちら【不完全な僕】の販売員、担当の□□と申します」

□□と名乗った男は電話越しでも好青年であることが伺えるような、ハキハキとした口調で電話に応じた。
「あの、【不完全な僕】のことでご相談が……」
「はい! 何なりとお尋ねください」

私は彼に色々と質問したわ。【不完全な僕】がどんな人物かは存じ上げないけれど、購入するのであれば予め分かっていることが多いに越したことはないから。
驚くことに、私の全ての質問に担当を名乗った彼は応えきったわ。……まるで、自分のことであるかのように。そこで、私は彼にこう尋ねたの。

「あの、【不完全な僕】って貴方のことよね? 貴方はとても不完全だなんて思えないわ。どうして自分を売るような真似を?」
「失礼ですがマダム、僕は完全な【不完全な僕(しもべ)】の販売員でございます。売っているのは僕(ぼく)ではありませんよ」
私の問いに彼はそう応えた。

「あら、やだわ。私ったら勘違いしちゃって……」
「確かに紛らわしいかもしれませんな。僕(ぼく)と僕(しもべ)、音読みか訓読みかで大違いですから」
それから少しだけ他愛もない話をして、最後に購入するか否かは後日改めて連絡する、ということで電話を切ったの。

『後日』なんて言ったけど、本当はこの時点で既に私の意志は固まっていた。……いえ、もっと前から、かもしれないわね。

私が電話をした担当者は【完全な販売員】。チラシをポスティングすべき相手を見抜く目も完全なら、営業成績も完全。
チラシをポスティングされた時点で、私には【不完全な僕】を『購入しない』という選択肢はなかったのよ。

8/31/2024, 8:37:49 AM

「大将、醤油ラーメン一つ。あと、餃子とビールも」
「はいよ!」
短いやり取りのあと、懐から煙草を……取り出しかけて、やめた。健康増進法だかなんだかの影響で何処もかしこも喫煙不可になったんだった。喫煙者である俺は肩身の狭い思いをしているのだが、これも世の流れか……。仕方ない、サービス品の漬物の力を借りて口寂しさを誤魔化すとしよう。

漬物をトングで小皿に取って程なく、ビールと餃子がカウンターの向こうから届いた。
この店に来たらやはりこの組み合わせは外せない。自然と顔が綻ぶ。
さて、メインのラーメンを迎え入れる準備も兼ねて、この三種の神器に舌鼓を打つとしようか。

あらかたラーメンを迎え入れる準備が整ったところで
「醤油ラーメンお待たせしました!」
と、メインディッシュの到着が告げられた。
これこれ、これですよ! ○○(店名はヒミツ)の醤油ラーメン! 新店開拓のために、最近は他店に出向くことも多かったが、やっぱりここの醤油ラーメンが一番でしょ!

「らっしゃい!」
ラーメンが着丼するのとほぼ同時に、大将の威勢のいい声が響く。なんとなく、入り口のほうに顔を向けると、ラーメン屋には似つかわしくない若い女性客が一人。まあ、そんなことはどうでもいい。今は目の前の丼を……

(くっっっさ!)

匂いの発生源は、店員の案内に従って俺の隣の隣に座った件の女性客だ。香水のことは詳しくないので分からないが、とにかく強烈な匂いだ。女は着席するとメニューも見ずに
「いつもの」
と注文した。俺ですらいつもの、なんて通用しないのに……。若干の敗北感と強烈な香水の匂いに、俺の頭はクラクラしていた。

「いつもありがとうございます」
と、応える大将の鼻の下も心なしか伸びているように見える。辞めなさいよ、そういうの。あんた頑固親父だって雑誌に書いてあったじゃないの。若い女にデレデレするんじゃないよ、全く。思わず心の中で悪態をつく。が、そんなことをしてる間にせっかくのラーメンが冷めてしまっては勿体無い。俺は意を決してラーメンに箸を付けた。

(香水の匂いのせいで台無しだ……)
分かってはいた。分かってはいたが、いつもと違ってラーメンの匂いがさっぱり分からない。そのせいだろうか、いつもより味が劣っているように感じた。こと飲食店においては香水は煙草よりはるかに有害なんじゃなかろうか? だのに、片やお咎め無し、片や迫害とはこれ如何に? とは思いつつも、嘆いてばかりもいられない。ラーメンが冷めてしまっては今以上に美味しくなくなってしまうのは明白だ。俺は心の中で台無しになったラーメンを悼みながら、注文した品を完食した。

勘定を済ませて外に出ると、俺はそそくさと店の脇にある喫煙所に向かい、煙草を咥えた。
やってらんねぇ……そんな思いを胸に、俺は紫煙をくゆらせるのだった。

8/30/2024, 9:02:03 AM

書く習慣の今日のお題『言葉はいらない、ただ・・・』。
見た瞬間、脳内で繰り広げられる二人の会話。

「言葉はいらない? 本当に?」
「どしたん?」
「いや、言葉がなかったらこのアプリ成立しなくない?」
「確かに……!」

言葉があるから、今日も俺は書いている。書くために、悩んでいる。
言葉というヤツは全く以てニクいヤツである。

8/29/2024, 10:00:08 AM

俺はずっと君の訪問を待っていた。
来る時はいつだって突然。こっちの都合なんてお構いなし。前触れなんかありゃしない。
けど、俺はかれこれ三日ほど、君の訪問を待ち続けている。待ってる時に限って来ないって、心のどこかでは分かっているのにね……。

『突然の君の訪問』ってお題に相応しいネタ、早くやって来ーい!

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