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8/27/2024, 3:49:54 PM

雨の中で佇んでみたところで、この暗い気持ちは洗い落とせない。
ゲリラ豪雨級の雨であっても、心の澱は流れてなどいかない。

そこにあるのは、そうなったらいいのに……という願望と、そうはならない現実だけだ。

8/27/2024, 8:25:34 AM

私の日記帳は4つの要素によって構成されている。

最初、ということでやたら綺麗な字で書こうとした1日目。
その日あったささやかな出来事を大袈裟に綴った2日目。
書くことがなくなり、苦悩の末にネタに走った3日目。

そして、以降の真っ白なページたち。

8/26/2024, 9:32:44 AM

ついにこの日が来た。学年ナンバーワンを決める決戦の日が。

あたしは今日、この舞台に立つため、あらゆる手段を行使してきた。
相手の虚を突いたことだって、一度や二度じゃない。時にはペンの力で相手を攻め立てたこともあった。戦いに明け暮れる日々の中で培われたテーピング技術に救われたこともある。
制服を相手の体液で汚したことだって、あたしは後悔していない。勝利のためには仕方ない代償だったから……。

神仏ですら利用してやった。心を無にし、相手の攻撃の威力を和らげるために、念仏を唱えたことだってある。時としてこの念仏が攻撃手段として有効に働いたこともあったっけ……。
どれもこれも卑怯とは言わせない。相手だって条件は同じだったんだから。
そうした過去があって、あたしは今日、この舞台に立っている。

向かい合わせに決勝の相手が現れた。

「————ッ!」

……ひと目見ただけで分かる。こいつは只者じゃない。強者のオーラを全身でひしひしと感じるが、退くわけにはいかない。あたしにだって、ここまで戦い抜いてきた意地と誇りがあるんだからっ!

「……おいおい、本当に決勝の相手が女とはな」

ニヤニヤとした笑みと、粘着質な視線に不快感を覚える。が、過去に戦ってきた男たちは皆、同じような言葉を口にしていた。この期に及んで男だの女だのに囚われているのなら、勝機は十分に、ある——!

ジャッジのボディチェックを受け、最終準備を終えると、あたし達は所定の位置についた。
あとはジャッジの試合開始の合図を待つばかりだ。

「両者、準備はいいか?」

ジャッジの呼びかけに頷きながら、あたしは一度だけ深呼吸をした。今日で全てが、終わる。

「それでは、悔いのない戦いを——」

ジャッジがお互いの間の衝立の端を掴み、決勝戦開始のコールを告げる。

「にーらめっこしーましょ、わーらうとまーけよ、あっぷっぷ!」

8/25/2024, 9:03:49 AM

夏休み明けの教室はいつも以上に騒がしい。
「あ、○○、おは〜」
「おは〜……って、✕✕っちイメチェンした?」
カースト上位の女子同士の話が聞こえてくる。
イメチェンしたとかしないとかで盛り上がってるようだが、心底どうでもいい。

そ ん な こ と よ り !

俺は隣の席の伊藤さんをチラリと横目で見る。
カースト上位陣のようなやかましさはなく、清楚な印象の地味系眼鏡美少女、といった感じだった伊藤さんが何故、眼鏡をかけていないのか?
重大事件ですよ、これは……!
眼鏡美少女から眼鏡を取ったら美少女しか残らないじゃないか! 分かってないなぁ、本当にもう!
とは言え、いきなり本人に直接尋ねるのは——これまで交流がなかったこともあり、憚られるため、やるせない気持ちを抱えながらもしばらく観察してみることにした。

……昼休みを迎えたが、この時間まで伊藤さんは眼鏡を全くかけなかった。
なんてこった! まさか……まさか、あの伊藤さんがコンタクトレンズを普及する悪の組織(眼鏡はダサい、などと印象操作するのはまさに鬼畜の所業だろう)コンタク党の魔の手に落ちたのだろうか!
だとしたら、これは由々しき事態ですよ……! もはや交流が云々なんて言ってる場合じゃない!
俺は勇気を出して伊藤さんに尋ねた。

「あ、い、伊藤さん……眼鏡」
「眼鏡?」
「あ、いや、どうしたのかなぁって……デュフフ」
「夏休み始まってすぐくらいの頃に思い切ってコンタクト入れてみたんだ」
「そ、そうなんだ……」

なんて勿体無いことを!

「眼鏡、に、似合ってたのに……勿体無ぃ……」
「別に△△くんに関係なくない?」
「ま、ま、ま、前のほうが良かった、とおも……思う」
言ったー! 言ってやりましたよ! 全国の眼鏡萌え男子諸君! 俺の勇気を褒め称えてくれ!
「△△くんにどう思われるかなんて、興味ないし」

そう言い残して、伊藤さんは弁当を手に教室を出ていった。
俺に残されたのはより大きくなったコンタク党への怒りと、これまで経験したことのないようなやるせない気持ちだけだった……。

8/23/2024, 9:16:34 AM

「ただいまー」

誰も出迎えてくれる者などいないというのに、俺は今日も玄関を開けてそう言った。
今日の仕事も疲れた……さっさと風呂にでも入ろう。
給湯器のスイッチを入れ、エコバッグをテーブルに置く。冷たい水を飲んで一息ついたら、脱いだスーツをハンガーに掛ける。そうこうしているうちに、給湯器が風呂の用意が完了したことを告げるので、ワイシャツを裏返しになるように脱ぐ。こうして裏表に脱いでおけば、洗濯する際に裏返さなくて済む。畳んで洗濯ネットに入れればすぐに洗える。一人暮らしで培った生活の知恵だ。

風呂に入りながら、ふと子どもの頃のことを思い出す。あの頃はTシャツを脱ぐ時、洗ってすぐ着られるように、って思ってTシャツが裏返らないように脱いでたっけ。実際、次に着る時にそのまま着られて便利だったな……。

などと考えていて、ようやく気付く。もしかして、母さんは俺が脱いだTシャツを裏返して洗って、畳む時にまた裏返していたのだろうか……? だとしたら、二度手間だ。今の今まで全く気にしてなかったな。何も言わずそんな作業を影でしてくれていた母さんに、俺は心の中で感謝を伝えた。

風呂を上がったらお待ちかね! の弁当タイム! なんだが、今日は気が乗らないや。入浴中、俺のことを一番に考えていてくれた人の顔を思い出したからだろうか。……たまには自炊、しようかな。
エコバッグの中のコンビニ弁当を冷蔵庫の中にしまうと、俺はスーパーへと向かった。子どもの頃、俺が一番好きだった、オムライスの材料を買いに……。

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