『意味がないこと』
枠を確保
「友達……友達ねぇ。友達なんて要るか?」
「いきなり何言ってんだよ」
俺の友人は例によって例のごとく、唐突にそう切り出した。昼休みの駄弁り開始の合図だ。
「いやな、リアルの友人は俺だって大切だよ? けどさ、ソシャゲの友達ってどうなん?」
「あー……」
確かに友達って言葉を最近一番聞くのってソシャゲかもしれない。
「あいつらに友情を感じることなんてある?」
「ゲーム内で助けてもらった時とか?」
「まぁ、うん。そっち方面はね。そうかもね。けどさ、助ける側もメリットあるから助けてるだけだよね? それって本当に友情って言える?」
嫌なところを突くなぁ。
「それってお互い様じゃね?」
「物は言いようだね。見返り前提の友情って、俺的には抵抗あるよ」
——友情は見返りを求めない、だっけか。コイツはそんな言葉が好きだった、気がする。
「ってか、ソシャゲごときに友情を語ってほしくないね」
コイツはまた問題発言を……そこで本当に友情を築いてる人もいるだろうに。
「あんなもん、俺から言わせれば友達じゃなくて人質だよ。プレイヤーを辞めさせないための、ね」
人質。それは確かに言い得て妙かもしれない。
「引退しようとしているプレイヤーを引き止めるには、人質に『お願い、見捨てないで』って言わせるのが一番手っ取り早い。それが——上辺だけでも、友達の言葉だったら尚更効果覿面だろうね」
「そうかなぁ……」
「それでも辞める人は辞めるだろうけどね。その場合は、もう誰にも止められなかった、ってだけの話さ」
「そんなもんかな?」
「そうとも」
などと、特に実りのない会話をダラダラとしていたら予鈴が鳴った。
「あ、予鈴。そろそろ席戻るわ」
「おー」
気のない返事をした友人は窓の外に目を向けながら、
「実際、俺も君に止められなかったらとっくに退学してたよ……こんなくだらない学校」
そう、小さく呟いた。
『やわらかな光』
枠を確保しておきます
『子供のように』
枠確保用
「あんた、あの人の葬式でよく泣いたね……ほとんど会った覚えもないだろうに」
親戚のおじさんの葬式を終えた帰り道、車の助手席から母が不思議そうに俺に尋ねた。
「あー……うん。葬式の雰囲気? に、やられた」
「そうかい。随分感受性豊かだったんだね」
おじさんの人となりは父曰く「悪い奴ではない」らしいんだが、その一方で趣味の人でもあり、「自分の世界」を大切に持っている人でもあったそうだ。
そういった人だからか親戚づきあいも希薄で、俺が会うのは実に二十年以上ぶり(両親も正確には覚えていなかった)だったようだ。
一応、俺が生まれた時には顔を見に来てくれたらしいが、当然俺がそんなことを覚えているはずもなく……。
そりゃそんな程度の面識しかない人の葬式で泣いたら感受性豊かだと思われるのも当然、か。
……けど、本当はそんな立派な理由じゃないんだ。
おじさんごめん! おじさんの葬式で泣いたのは昨日見たお笑い番組のネタを思い出したのが原因なんだ。
危うく思い出し笑いしそうになったから二の腕の内側を思いっきり抓ったんだけど、それが想像以上に痛くて……。
で、笑いはどうにか堪えられたけど代わりに涙が出ちゃったんだよね。
あ、あとあくび噛み殺してたのも見られたかも。流石に葬式の場で大口開けてあくびなんて出来ないからどうにか噛み殺してたけど、あれやると涙出るじゃん? それもあったかも。
おじさん、本当にしょーもない理由で泣いてごめん!
俺は俺なりに葬式の雰囲気ぶち壊さないように頑張ったことだけは認めて! 今度(1回忌だっけ?)はちゃんとするから! 許して! 化けて出ないで!
俺は心の中で何度も何度もおじさんに謝罪した。