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「あんた、あの人の葬式でよく泣いたね……ほとんど会った覚えもないだろうに」

親戚のおじさんの葬式を終えた帰り道、車の助手席から母が不思議そうに俺に尋ねた。

「あー……うん。葬式の雰囲気? に、やられた」
「そうかい。随分感受性豊かだったんだね」

おじさんの人となりは父曰く「悪い奴ではない」らしいんだが、その一方で趣味の人でもあり、「自分の世界」を大切に持っている人でもあったそうだ。
そういった人だからか親戚づきあいも希薄で、俺が会うのは実に二十年以上ぶり(両親も正確には覚えていなかった)だったようだ。
一応、俺が生まれた時には顔を見に来てくれたらしいが、当然俺がそんなことを覚えているはずもなく……。

そりゃそんな程度の面識しかない人の葬式で泣いたら感受性豊かだと思われるのも当然、か。
……けど、本当はそんな立派な理由じゃないんだ。

おじさんごめん! おじさんの葬式で泣いたのは昨日見たお笑い番組のネタを思い出したのが原因なんだ。
危うく思い出し笑いしそうになったから二の腕の内側を思いっきり抓ったんだけど、それが想像以上に痛くて……。
で、笑いはどうにか堪えられたけど代わりに涙が出ちゃったんだよね。
あ、あとあくび噛み殺してたのも見られたかも。流石に葬式の場で大口開けてあくびなんて出来ないからどうにか噛み殺してたけど、あれやると涙出るじゃん? それもあったかも。
おじさん、本当にしょーもない理由で泣いてごめん!
俺は俺なりに葬式の雰囲気ぶち壊さないように頑張ったことだけは認めて! 今度(1回忌だっけ?)はちゃんとするから! 許して! 化けて出ないで!

俺は心の中で何度も何度もおじさんに謝罪した。

10/11/2024, 8:31:57 AM