夏休み明けの教室はいつも以上に騒がしい。
「あ、○○、おは〜」
「おは〜……って、✕✕っちイメチェンした?」
カースト上位の女子同士の話が聞こえてくる。
イメチェンしたとかしないとかで盛り上がってるようだが、心底どうでもいい。
そ ん な こ と よ り !
俺は隣の席の伊藤さんをチラリと横目で見る。
カースト上位陣のようなやかましさはなく、清楚な印象の地味系眼鏡美少女、といった感じだった伊藤さんが何故、眼鏡をかけていないのか?
重大事件ですよ、これは……!
眼鏡美少女から眼鏡を取ったら美少女しか残らないじゃないか! 分かってないなぁ、本当にもう!
とは言え、いきなり本人に直接尋ねるのは——これまで交流がなかったこともあり、憚られるため、やるせない気持ちを抱えながらもしばらく観察してみることにした。
……昼休みを迎えたが、この時間まで伊藤さんは眼鏡を全くかけなかった。
なんてこった! まさか……まさか、あの伊藤さんがコンタクトレンズを普及する悪の組織(眼鏡はダサい、などと印象操作するのはまさに鬼畜の所業だろう)コンタク党の魔の手に落ちたのだろうか!
だとしたら、これは由々しき事態ですよ……! もはや交流が云々なんて言ってる場合じゃない!
俺は勇気を出して伊藤さんに尋ねた。
「あ、い、伊藤さん……眼鏡」
「眼鏡?」
「あ、いや、どうしたのかなぁって……デュフフ」
「夏休み始まってすぐくらいの頃に思い切ってコンタクト入れてみたんだ」
「そ、そうなんだ……」
なんて勿体無いことを!
「眼鏡、に、似合ってたのに……勿体無ぃ……」
「別に△△くんに関係なくない?」
「ま、ま、ま、前のほうが良かった、とおも……思う」
言ったー! 言ってやりましたよ! 全国の眼鏡萌え男子諸君! 俺の勇気を褒め称えてくれ!
「△△くんにどう思われるかなんて、興味ないし」
そう言い残して、伊藤さんは弁当を手に教室を出ていった。
俺に残されたのはより大きくなったコンタク党への怒りと、これまで経験したことのないようなやるせない気持ちだけだった……。
8/25/2024, 9:03:49 AM