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俺の名前は厚壱シオン。何処にでもいる普通の高校生! だったのは去年までの話。二年になったこの春からは、爺ちゃんが長を務める『灯火機関』に、熱血ロボ『ボンヴァリオン』のパイロットとしてスカウトされ、悪の組織『ダウ・ナーフ』と日夜戦っているんだ!

「おい、シオン! いつまで寝ておるッ!」
「げっ、爺ちゃん……zzz」
「シオン!」
「昨日の特訓がハードで疲れてるんだ……あと5分」
「ったく……すまんなリナちゃん。せっかく迎えに来てくれたのに……」
「リナっ!?」
幼馴染であり、俺が密かに想いを寄せるリナ——廣井リナが迎えに!? 俺は慌てて飛び起きた!

「おお、起きたな。……やれやれ、我が孫ながら単純すぎて心配になるわい」
慌てて周りを見回すがリナの姿はない。
「爺ちゃん……騙したなっ!?」
「それだけ元気なのに学校をサボろうとするが悪い。ほれ、さっさと準備して行かんか」
くうぅ〜〜、今日こそ本当にリナが起こしに来たのかと思ったのに……! 男子高校生の純情を弄ぶ爺ちゃん許すまじ!
制服に着替えた俺は部屋を出ると、適当に冷蔵庫から食えそうなものを見繕って腹に入れると、
「父ちゃん、母ちゃん、行ってきます」
両親の仏壇に手を合わせ、玄関を出た。
そんなシオンの背中を見送った祖父は
「タギル、トウカさん……シオンは元気でやっとるよ」
そう呟くのだった。

学校に着いた俺は教室に入るや否や
「おっはよーーー!!」
元気よく挨拶をした。
「シオンうるせーぞ」
「相変わらず元気だねー」
「声でけーよ!」
「おーっす」
などと、様々な反応が返ってくる。そんなみんなの反応を受けながら席につくと
「厚壱くん、おはよう。相変わらず声大きいね」
「元気だけが取り柄ですから!」
隣の席のリナちゃんに声を掛けられ、そう返す。朝一からリナちゃんと話せるなんて、今日はいい日になりそうだぜ!

しかし、その期待は呆気無く裏切られることになる。
昼休み目前の学校に、けたたましく鳴り響く警報音。

『ダウ・ナーフ警報発令! ダウ・ナーフ警報発令! 生徒は速やかに体育館へ避難せよ。繰り返す……』

クソッ! もう少しで昼飯だってのに! しかし、そうも言っていられない。ダウ・ナーフ警報が発令されたということは、ボンヴァリオンのパイロットである俺は灯火機関に向わねばならない。

「先生! 避難前にトイレ行ってきます!」
恥も外聞もなく大声でそう言い、トイレへ……と見せかけて、屋外の駐車場へ向かう。機関の迎えの車が来ているはずなので、俺は誰にも知られぬよう、それに乗り込む。

車中で俺はパイロットスーツに着替えながら、作戦の概要を聞く。
「今回のダウナーロボは『モーエーワ』。人々の情熱を奪うべく、市内各地で破壊活動を行っているようです。シオンさん、相手のペースに巻き込まれないように注意してください」
「へっ、誰に向かって言ってやがる! この厚壱シオンがそうそうやられるかよ!」

などと言っている間に、車は灯火機関本部への直通地下通路へと入った。ここからは他の車はいない。全速力で機関本部のボンヴァリオン格納庫へと向かう。

「シオン! 行けるか!」
爺ちゃんは俺がボンヴァリオンに乗り込んだのとほぼ同時に問いかけてきた。
「当然!」
俺は即答する。
「では……」
爺ちゃんは大きく息を吸って、叫んだ。


「ボンヴァリオン、発進!!」


敵機、モーエーワは今まさにデパートを襲撃しようとしていた。
「辞めろッ!」
俺の叫びとともに、ボンヴァリオンはデパートとモーエーワの間に割って入る。
「現れたな、ボンヴァリオン!」
「これが仕事なんでな!」
軽口を叩きながら、モーエーワは一旦後退し、体制を立て直すと再びボンヴァリオンに襲いかかる!
「へっ、力比べでボンヴァリオンが負けるかよ!」
敵は何も考えていないのか、改めてボンヴァリオンに力勝負を挑んできた。
しかし、その瞬間……

「かかったな!」
「なにっ!?」
モーエーワの瞳が妖しく光った。
これは……なんだ!?

突如、俺の脳裏に流れ込んで来たのは、両親の死の瞬間の映像だった……。
両親は事故で死んだ。爺ちゃんはそう言っていたし、俺自身もそう、思っていた。
しかし、俺の脳裏に流れ込んで来た映像は、ダウ・ナーフの襲撃から俺を守って無惨に殺される両親の姿だった……。
パニクる俺の頭に、敵はさらなる映像を送り付けて来る。

「お前さえいなければ……」
「あなたさえ産まなければ……」

「「私たちは死ぬことはなかったのに……!」」

血塗れの姿でそう言い、俺の存在を否定する両親。
そう、かもな……。俺さえいなければ、父ちゃんも母ちゃんも死なずに済んだかもしれない。

「けどッ!」

今の俺はこの街のみんなを守ってるんだ! 俺がいなければ、街にもっと多くの血が流れてたかもしれないんだ! 父ちゃんと母ちゃんには悪いが、俺の存在を否定するならたとえ両親であろうと許さないッ!
俺は、俺が窮地に陥るたびに爺ちゃんが言っていた言葉を無意識に叫んでいた!

「燃えろッ! 厚壱シオン!! その身に流れる熱い血潮を滾らせ、心の灯火に火を灯せ!!!」

「うおおおぉぉぉっ! ボンヴァリオンボンバーッ!!!!」

俺の心の灯火が激しく燃え上がるほど威力の上がるボンヴァリオンの必殺技、ボンヴァリオンボンバーをモーエーワにぶちかます!

直後、爆発四散する敵機、モーエーワ。俺の勝ちだ! 俺はコックピット内でガッツポーズを決めた。

ボンヴァリオンを降りた俺は、爺ちゃんに戦闘の報告も兼ねてモーエーワに見せられた映像のことを尋ねた。爺ちゃんは
「そうか……とうとうバレてしまったか」
そう言って、観念したように両親の死の真相を俺に教えてくれた。その内容は概ね、俺の見た映像と同じだった。
「じゃがな、お前の両親は一度たりとてお前のことを悪く言ったことはないぞ。ましてや、お前さえいなければ、などとは間違っても言うものか! それだけは勘違いするでないぞ」
「分かってるよ」

ボンヴァリオンの地下格納庫を後にして地上に上がると、俺は普通の高校生、厚壱シオンに戻った。そして、夕日に染まる街を歩きながら、打倒ダウ・ナーフを改めて心に誓うのだった。

9/2/2024, 2:48:14 PM