【嵐がこようとも】
高校受験を控えた中学三年生のあの子はいつも見下されてばかりいて、教師にも助けて貰えず、クラスの片隅にぽつんと1人でいるような女の子だった。僕もずっとあのこと同じ状況にいる男子学生だから、親近感が勝手に湧いていた。
だから僕は話しかけにいつも同じ放課後にあのこに話しかけに行って、他愛のない話をするのだが、その話を聞いている彼女の顔は僕だけのものにしたいくらい可愛い顔をしている。その顔ばかり見ていると、自分は守りたくなって来てしまったんだ。別に見下されたままの彼女を観察し続けるだけでも良かったのだが、あんな彼女の可愛い顔なんて見てしまったら最後、好きになって行くばかりで見下されていくのを観察し続けるだなんて到底出来ないだろう。
そんなある日、放課後に僕は彼女のところにいつものように近づき彼女に他愛のない話をしてやるが、彼女は可愛い顔をして聞いている。
それが僕には耐えきれずについに『僕は君が好きなんだ、高校生になったら君と僕に危害を加えないところに逃げないか』と言ってしまった。
そして彼女は僕に『幸せになれるようにまずは君の彼女にならなきゃ』と返してくれたんだ。
その時に僕はこの子を嵐がこようとも幸せにさせるために守らなければならないと決心したんだ。
【お祭り】
7月、世間は完全な夏休みだが通信制に通い、単位取得のためにスクーリングをしなければならない私にとっては夏休みというより長期にも感じない夏休みに中学の友達数人が地元の大きい有名な祭りにいると言うので会いに行った。地元と地元の祭りは好きでもない中学の同級生に会うので好きではないが大事な友人がいるなら話は全くの別だろう。
着いたはいいものの、皆がどこにいるのか分からず通話を友人にかけるが人が大勢いるせいで通話の声があっちに伝わらず、私には伝わるのでそれを頼りに彼らのところに向かい『桜木、久しぶり』と言う挨拶から何気ない会話が始まるまでは良かったのだが、そんなところに運悪く苦手な教師が来てしまった。
『あら桜木さん、可愛くなったね。でもナンパされないようにね』と言われた。その言葉を言われた瞬間、私はなんだか嫌だった。
ナンパしてくる男や女も少し気持ち悪いと感じることはあるが、どうせ一時的なものなのでまだ忘れることは出来るが、昔の教師は違う。
小中で見た目を誹謗されてきた私に対して助けを差し伸べる手なんてひとつしかなくて、それ以外は無視と同調をして共犯は誹謗の主犯格と手を取りあったのにも関わらず、今更『可愛くなった』なんて何様だ?
私は主犯格と共犯に『可愛い』とか『ナンパされないようにね』と声をかけられたいがために化粧や可愛いお洋服を選んでいるのではなく、自分の好きな人に『可愛い』と言って欲しいから化粧や服を選んで着ていたり、自分の今後のためにしているのだ。主犯格と共犯なんて気持ち悪い何かにしか見えないのだから発言せずに消えて頂きたい。
その後もなんだか同級生に会ったは良いものの、平然とこちらに笑顔を向けてくるのが気味悪かったのと仕方ないのだが行列ばかりでご飯が食べれず花火だけ見たのが相まってしまい、嫌な夏祭りになった。
【遠い日の記憶】
この間は演劇の稽古の日で、いつもの場所で集まって仲良く稽古をして休憩していた時のこと。
「今の子って小さい頃何してたんだろうね?そういや千葉さんは小さい頃何してたの?」
話題は今の子、つまり私は17歳なのでそれくらいの年の子達。そんな話になっても仕方ないとは思う、今の大人と子供じゃ全然何もかもが違うのだから。
「そうですね〜」
続きを話そうとしたその時、遠い日の記憶が頭の中で再生されてしまった。
私が幼少期から住んでいるのは片田舎で、よく夕方になれば公園ではキジバトというフクロウのような声がする鳥が鳴いており、近所にはお寺とお墓とお地蔵さんと坂しか無くて、移動するには少し歩いてバスや電車に乗らなければ駅にも行けず、商業施設も駅に行かなければ無いくらいな土地であった。
そして小学生くらいの時からどこもかしこもグループができていて他所の住民は邪魔な存在。
そして私の事を好いている同級生なんていないのだからいつも1人で遊んでいたような気がした。
だから誰かと遊んだ記憶なんて私には残っていないが、聞かれてしまえば答えるしかない。
「そうですね友達と商業施設に出かけたり、ゲームとかしてたと思いますよ」
私はそんなことなどした事は無いのに嘘をついた。
嘘でも、大人たちが満たされればそれで構わない。
【空を見上げて心に浮かんだこと】
今日は学校が精神的に嫌になり「精神的に辛いので休みます」なんて言える訳がどこにもないので、自分でそれなりの理由を作り電話を掛けて休み、平日の誰もいない外に出た。そもそも通信制の生徒であったので学校があろうとなかろうと平日の誰もいない外にいるのは変わらなかった。
「今日も鬱陶しいほど晴れてるけど、どうせこういう時青春だのエモいだの意味わかんないことほざく馬鹿がいるんだよ」
青すぎる空を見上げて自分がそう呟くのは、中学生の頃に青すぎる空を見上げ、その下を歩いている自分に対して『青春だな、エモいな!』と言った変な教員がいたから。
当時はキツくて楽しいなんてなくて、誰に相談しても『青春だから』『最終的にはエモく感じるよ〜』の一言で片付けられる。だから青すぎる空も青春って言葉も馬鹿馬鹿しく感じるんだよ。
それは通信に入学した今も変わらなくて、青春とか青すぎる空とか全部馬鹿馬鹿しい。
でも通信にいってから青春だとかが消えて、別に苦痛じゃなくなった。キラキラな女子高生とかどうでも良かった。演劇して、バイトして、演劇見に行くためにバイト代出して名前しか知らない土地に夜行バスで行って演劇見て笑って泣いて。
これが1番青すぎる空見て青春とかエモいとか言われながら生きるより好きなんだよ多分。
【終わりにしよう】
『終わりにしよう』
そう言った姉に手を引っ張られ、私は地元の道を言われるがままに駆け抜けている最中だ。
「終わりにしようっていきなり何!?」
「そんなの後にして! 今はどこかに行かなきゃ!」
姉の口からハッキリ聞けず、私は姉について行くままだった。
「ねえ本当にどうしてなの!?」
すると姉は止まって私にこう言った。
「この村は明日ダムの底に沈む、そうなったら私達はそこで人生を終わらせなければならない事になる。 だから私達は村での生活を終わりにしようと逃げているの」
そんな風に言われて私は固まる、なぜそのことをなぜ先に知らせないのか。けれども覚悟は出来た。
「覚悟は決めたよ」
私はそう告げて、また姉と逃げるために走り続けた。