愛を叫ぶ。
ずっと、ずっと前から君に届けたかった言葉だった。
何回も練習して何回も逃げて何回も何回も、何回だって紡げたことのなかった言葉を、叫んだ。
君は聞こえただろうか。届いただろうか。
手を伸ばす。
「なんで言えなかったんだろうな。」
これは一人言だろうか。君も聞こえてるんだろうか。
「人が自分と同じくらい生きる保証なんてないのに」
ひんやりとした墓石の温度がじわじわ手のひらに広がる。
「僕の方が先に死ぬってずっと思ってたんだけどな。」
君は優しかった。素敵な人だった。何故そんな君が殺されたのだろうか。
うーん…上手くいかないなぁ…後で……
刹那、銃声が鳴り響く。
「くそっ」
急いで近くの物陰に隠れる。
間に合わないな。後々書くことにしよう
「生きる意味……ですか。」
カウンセリング中にそんな質問をするとは。愚問なんじゃないか。
「そんなのないんじゃないですか?人には価値観の違いがある。誰かにとって価値のある人間しか必要がないんです。親もいない、頼れる親族もいない、いるのは面白がって精神科を進めるクソほど役に立たない教師。そんな僕に何かしらの必要性、利用価値、そんなものが到底あるとは思えないです。こんな奴がいた所で生産性が下がるだけでしょう?楽しいこともなければ人を楽しい気持ちにさせることもない。なんにしても意味が無いんです。」
そう。生きているだけで偉いだなんて絵空事だ。社会に洗脳された人間の戯言でしかない。命の重みは人それぞれ違うし、そうでなければ不公平だろうとおもう。当たり前じゃないか。人に楽しいや嬉しい、幸福を提供出来る人間は価値があって当然だ。逆に妬んだり恨まれたり、負の感情を人に植え付ける人間に価値があってたまるものか。普段善いことをしている人が1回悪いことをしたらそこだけを責めるくせして悪い人が1回善いことをしたらそれだけで褒められるんだもんな。そりゃあいい人が早く死ぬだろうよ。正当性が無いんだから。神も怒るさ。
先生が口を開く
「俺もそう思う」
「え?」
「俺も生きる理由なんてないと思う」
なんだよ先生。模範解答はないのか?あんたみたいな人を救う仕事をしている大人が僕なんかの言葉に賛同したらダメじゃないか。それらしい理由を押し付けてくれないと本当に意味なんてないことになってしまう。
「その人のままでいて、それだけで価値があるって考えは俺も間違っていると思う。それだと努力した人が報われないからね。存在価値という価値単位はやっぱり他人からの評価が大きいと思うんだ。…そんな考え方をしている君は随分色々あったんじゃないか?俺に君の過去は分からないけど、今目の前にいる君が君であることを知っている。これからを君がどう選択していくのか、俺が見守ってる…のじゃだめか?君の意見を聞くのは面白い。カウンセラー向いてるんじゃないか?」
先生がこっちを見て微笑んできた。
よく大人がやってくる可哀想な子を見る目で。
「……ありがとうございました」
「ん。また明日な!」
昼下がりの、いつもより少し涼しい風に吹かれながら僕はこれからの終わりを選択した。
流れ星に願い…ね……
そんなもので願いが叶うのなら、こんな所にはいないさ。頭のすぐ上を素通りしていく星々を見て思った。吐いた息が白い。全身が凍てつく程に冷えきった空気を僕が今生きるために吸う。
足場が悪い。視界がぐらつく。食料は昨日の夜で尽きてしまった。酸素すらも足りない。あと少しで奴のところにたどり着けるはずなのに。涙が出る。凍る。涙が出る。溶かす。凍る。何度繰り返したことだろう。ひたすらに目の前を続く山を、崖を登る。登るうちに目の前にでかい洞穴が現れた。中からは熱いと錯覚してしまうような冷たい風と異様なまでの存在を感じる。間違いない。ここに奴は、神は、いる。
飛び込む。そこにはおぞましいような、それでいて美しいような、異形のそれがいた。
「あれ?人間じゃないか!どうしてお前らみたいなのが一人ぽっちで俺のところまで?すごいねぇ!!何がそこまでお前を動かしたんだ?」
へぇ、人間の言葉を話してくれるのか神様は。随分話が早いじゃないか。
「せっかくひ弱な人間がこんな所まで来れたんだ。何かしらご褒美があったっていいと思わないか?」
気が遠くなる。
きっとこれが僕の最期なんだろう。
オーロラを眺めながら思う。この世界は綺麗だと。美しいと。だが君が居ないんだ。君が見たいと言っていた景色を僕だけが見ている。この世界を美しいと教えてくれたのは君だったのに。
飽きたな…いつか書くことにしよう
今日?今日の心模様か…曇り…かな。
生きているとどうでもいいことばかり見てしまう気がする。何故人に頼ろうとするんだ。その程度自分で行動すればいいじゃないか。なんて、別に僕に言っているんじゃないんだから、そんなこと無視すればいいのに。何故僕は考える?何故人の気持ちを勝手に自分のものかのように捉えている?意味がわからない。何故?どうして?わからない。だから閉じこもる。キャンバスを立てかけて、絵の具を溶く。筆につける。だんだん周りが溶けてキャンバス以外の場所は曇っていく。さぁ、ここからは僕の世界だ。ここにはどうでもいいことなんてない。全てが僕のもので間違いないから。わからない?わかるさ。僕が創ってる世界なんだから。
あれ、?ふと周りが晴れた。僕の世界が周りと同じになってく。夕日が紅く僕の世界を染める。嫌だ、やめろ、僕の世界はこんなんなんかじゃない、違う、
「違う!!!お前らなんかに分かるはずがないだろう!!!!どうだっていいんだこの世界は!僕にとって僕の価値があるのは、その世界なんだ!僕の世界!僕だけの世界だ!!!わからない?わからなくていいさ!!言ってるじゃないか!僕の世界だ!!」
僕の声が放課後の美術室に響く。周りには誰もいない。それはそうだろう。期待していた美術部は幽霊部員ばかりで、顧問もやる気をなくしていた。今では僕が細々と絵を描くだけの部室になっているんだ。誰もいるはずがない。…叫んだって、僕の世界は誰にも見つけて貰えない。
僕と同じだ。なら…
「なら、価値は、ない?どうだっていいのは、ぼく、のほう、?」
周りには誰もいない。
夕日がもう沈みおわる。
キャンバスの上のまだ紅に染まったままの僕の世界と空に飛んだ。
_相変わらずの曇り。
__やはり世界は、僕は、どうだっていいみたいだ。