秘密の標本を持っている
その訳は実に単純でただひとつの憧れだった
研究材料に、ひとり。
実践用に、ふたり。
失敗したので、さんにん。
よにん、ごにん、ろくにん、
また、失敗
また
また
また。
なぜ上手くいかないのだろう
だがしかしここで諦めてしまっては私が生きている意味が無くなってしまう。私の追い求めていたものに価値が無くなってしまうなんてことはあってはならないのだ、だって、
若く、儚いその音吐はまさに至高そのもの!!紡がれる歌声のなんと素晴らしいことか!なんとしても未成熟のままの歌声を永遠に響かせられる完璧な少年をつくらねば。この世で最も究極な美を私がつくりあげるのだ!!不滅、未熟、なんて心揺さぶられるのだろう。
この大量の屍は大切に愛でようじゃないか、大切に、綺麗に、標本として。
秘密の箱を持ってきて中をニコニコと眺める。
これは3年前の。これは1年前の。沢山の大事なモノや作品、僕のあらゆる心をしまい込んである、いわゆる ”たからばこ” だ。
たまに覗こうとする他人もいるがそれらはだいたいこう言うのだ。
「なぁんだ、空っぽじゃないか。本当に君はつまらない人間だな」と。
それでいいのだ。間違えではない正しいことを言っている。それが ”他空箱” たる所以であるから。
僕は今日も一人で 宝箱 を埋める。
予感は的中する
きっと今までの違和感こそこれだったのだろう
これはこれはなんと不思議なことか
されど生き抜くために笑おうとした軌跡を振り返ればやはり、これこそ必然だったに違いがないのであるなどと思い宣うわたくしを尻目に眼前の黒は微動だにしない
しばらくの沈黙の後に暗闇は答えを応ずるがしかしどうにもこうにも聞き覚えがないのだ
そんなはずは無いだろう
だって予感がしていたのだ
当たる当たるそうだそうだ
そうでなければ可笑しいことだ
ぁ
なぜ泣くの?と聞かれたから、理由を言った。
言ったら笑って言い返された、「重いね」と。
友人から見ると物事を重く捉えすぎているのだそうだ。私は。
私はそんなつもりはなかったのだが。
友人は欠伸をしつつ続ける。
「そんなんじゃあ、いつまで経ってもそのままだよ」
そのまま。現状維持。停止。私の人生にとっての良い所であり悪い所だといつも思う。
私はかわらないものが良い。安心するから。
私は友人に言い返す。
「仕方ないじゃないか。私は私の過去を歩いてきてしまったんだから。」
隙ありというように言われる
「そういうところさ。君の良くないところは。まあでも、いい所でも、ある。」
優雅に頬杖をつきながらこちらを見てくる瞳の、なんと美しいことか。
「君はね、考えすぎるし思いやりすぎるし正直すぎる。素直な君は素敵だ。だがね、
この世界はそんなに綺麗に出来ていないんだよ。そろそろ気がついているとは思っているけれど。
」
縹色を揺らしながら友人は綴る。
「もっと、君らしいことがあるんじゃないかと思うのさ。やりたいことをやりなよ。君の綺麗さが侵されないように。させないように。声をあげろ。歌を歌え。よく寝て、食べて、最後にはいっぱい笑うんだ。己を十二分に謳歌して、結果的には大往生を!!」
にこ、と笑い白い毛並みを擦り付けてくる。
「君はひとりではないから。」
小さな手を頬に伸ばしてくる。ピンク色の肉球が頬の熱をいくらかマシにしてくれた。
そうして友人は満足したような笑みで目を閉じた。最後とはいえまったく壮大な話をしてくれたものだ。
もう泣かないよ。
記憶の地図を辿っても
綺麗な場所なんて到底見つかりようもなくて
白のペンキを無理に流し込んだ結果のヒビ割れやまだ乾いてない場所もある、味気なくて、何も無いようであるような。薄っぺらいものばかり。
色を探しても元々なかったのか、今の僕に認識する能力がないのか。分かりやしないのだ。
そして今覚えていると思っているこの地図、この記憶は果たして現実であっただろうか
夢か、幻覚か、記憶か。
どれかと判断するのは俺だがその核たる私は核たりえる存在なのか。
周りの誰か他人に存在を否定されはしないが俺の生きている世界が分かるのは僕だけというのならば僕が否定すれば俺は存在に値しないということで生きている価値のなさの自覚があってしまうことに間違いは無いと思う。
咎められる理由は無い。
君の見ているそれと僕の見ている俺は違うものだからさ。ね。というだけの話。