寒いな。
昔はあんなに嬉しかった雪が、
今ではこんなにも重いなんて。
寒さと孤独が、こんなにも痛いなんて。
悲しくて辛いはずなのになぜか目は乾いていて、灰色の雲から舞い降りる、白いゴミを映すだけ。
泣き言を言っても、どうしようもない事が分かってしまったから、ヒリヒリとした痛みを耐えるだけ。
寒いなぁ。
何度目か分からないため息を吐いたその時、
「どうしたの?」
こちらを見下ろす大きな影。
優しそうな下がり眉。
何も言えずにいると、影はこちらに近づいて、春の太陽のような顔で微笑んだ。
「もう、大丈夫だよ」
自分の手を、
温かい手で、
そっと包み込んで。
辛くて眠れない夜、
消えてしまいたくなる夜、
悪夢をみた夜、
永遠に思える夜でも、
大丈夫
いつか、日は昇る
『空は炭酸水でできている』
と誰かが言った。
昼はソーダ、夕暮れはオレンジ、夜は原液に近いコーラの味がついており、とても美味。ただし、飲みすぎるとそのまま溶けて消えてしまう。
飛行機やヘリコプターは、溶けてしまわないようにプラスチックで出来ており、雲は炭酸水の泡らしい。
本当かどうか気になった男は、白い小さなヘリコプターを飛ばした。
やがて軽い駆動音と共に空へ入り、ヘリコプターが耐えれる限界まで登ると、その場に停止させた。
男はヘリコプターの運転席から離れ、扉を開ける。
視界には、息を呑むような一面の空色。
男はガラスのコップで空をすくい、一気に飲み干す。
濃厚な美味さが口の中に瞬時に広がり、そして後を引く間もなく喉の奥へ、爽やな喉越しと共に消える。
あっという間の出来事であった。
「なんて美味しいんだ!」
感動した男は、思わず身を乗り出した。
ズル、と足が滑る。
「あ」と言う間もなく男は空へ落下し、
そのまま空を身体いっぱいに受けた。
飲んでも飲んでも止まぬ満足感と共に、男は空へ溶けていった。
残ったのは、プルプルという音で存在を主張する、小さな白いヘリコプターのみであった。
「あなたのことが好きです!!」
真っ赤な顔で、君は叫んだ。
その瞬間、無慈悲にも列車のドアは閉められて、
ガラス越しにしか、君の姿を捉えることができなくなってしまった。
僕はここで叫びたくなった。
どうして!
どうしてこのタイミングなんだ!!
僕が隣の隣町へ引っ越す当日、君には大切な予定が入っていた。一生懸命に君が練習していた、ピアノのコンテスト。
「見送りに行きたかった」と泣く君の頭をそっと撫で、それでお別れだと思っていた。
…なのに!
電車の発車合図が響く中、君はホームへ飛び込んで、冒頭の台詞を叫んだのだ。
あまりの事で何もできなかったが、僕だって…僕だって…
列車の中、ひとり取り残された僕のスマホが鳴る。君からのLINEだ。
『ごめん。どうしても言いたくて…』
すぐ下にウサギが頭を下げているスタンプ。
僕はクスリと笑ってこう送信してやった。
『いいよ。
実は僕も、そう言いたかった』
記憶の海に潜って、
底に散らばる思い出のかけらを集めた。
色も形もバラバラで、どれも綺麗に輝いている。