るね

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4/29/2025, 12:05:12 PM

BLです。苦手な方ご注意ください。長いです。
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【好きになれない、嫌いになれない】




 男爵家の三男である僕、マール・ロヴェットと、侯爵家のご令息アレクシス・ランズデール様の魔力回路は繋がっている。

 それは魔力回路に突然障害を生じたアレクシス様の命を救うためには必要な措置だった。

 魔素を取り込み魔力に変換することは呼吸と同じくらい大事な、体の仕組みのひとつである。そのために必要なのが魔力回路だ。

 魔力の自然放出ができなくなってしまったアレクシス様は、放っておけば魔法を暴走させていた可能性が高く、どれだけの被害を出したかわからない。

 厳重な結界の中に幽閉すべきだという意見もあったらしい。けど、アレクシス様のご両親は彼を諦めることができなかった。そして選ばれた手段が、他人と魔力回路を接続すること。

 魔力回路を繋げれば、アレクシス様の過剰な魔力は繋がっている相手に流れ込む。そして、正常な魔力回路の持ち主であれば、過剰な魔力は自然と放出される。

 僕と魔力回路を接続することで、アレクシス様は幽閉されることなく、魔法の暴走も起こさずに済んだ。

 問題はアレクシス様が僕からあまり離れられなくなったこと。一日くらいならいいけれど、長い間遠くにいると魔力が受け取れなくなって危険なんだ。
 僕は侯爵家に部屋を用意されて、そこで暮らすことになってしまった。

 アレクシス様は僕にとても優しい。僕は彼を助けることができて嬉しかった。身分の差はあるものの、アレクシス様は同じ学院の同級生で、正直ずっと憧れていた相手なんだ。

 でも、僕からの好意なんて、アレクシス様には迷惑だろう。

 アレクシス様には元々婚約者がいた。その婚約はすでに解消されている。それでも……
 アレクシス様はいつか可愛らしい令嬢を伴侶に迎えるはず。そうなった後も近くに居なければいけないのが僕の立場だ。恨んで嫌うこともできない。気まずくなるのは辛いから。

 これ以上、アレクシス様を好きになれない、嫌いになれない。僕はもう、どうしたらいいのかわからない。

 ランズデール侯爵家の跡継ぎがアレクシス様ではなく弟君になることが正式に決定された。

 やはり、僕の補佐がなければ暮らしていけないアレクシス様が当主になるのは難しいのか。僕は僕なりにアレクシス様を支えようと、ランズデール家の執事長から色々と教わったりしていたのに。

 僕とアレクシス様の学院卒業が近付いてきた。アレクシス様は卒業後しばらくは侯爵家の仕事を手伝うらしい。僕も彼の側仕えとして住み込みで補佐する予定である。 

 ある日、僕は学院の庭園でアレクシス様が元婚約者のパトリシア嬢と話しているのを見かけてしまった。

「どうしよう、パティ。マールが今日もとても可愛い」
「はいはい、良かったわね」
「今朝はちょっと寝癖が残っていたんだ。寝坊したのかな。私が起こしてあげたい」
「……わたくし、あなたと婚約を解消できて、心の底から良かったと思ってるわ。本当に、本気で」

 聞き間違い……だよね。
 うん。きっとそう。確かに今朝はなかなか寝癖が落ち着かなくて苦戦したけど。

「あら。マールじゃないの」
 しまった。パトリシア嬢に気付かれた。目が合ってしまって、誤魔化せない。

「え。今の、聞いてた……?」
 アレクシス様の顔が真っ赤になって、僕も何故か釣られてしまって真っ赤になった。

「ちょうどいい機会だわ。よーく話し合いなさいな」
 なんて呆れたように言って、パトリシア嬢は立ち去ってしまった。

 離れることができない僕たちは、ようやくお互いの気持ちを確認し。僕は自分が最初からアレクシス様の伴侶候補として侯爵家に迎えられていたことを知った。

 そもそも接続する相手に僕を選んだのは、アレクシス様が僕を好ましいと思っていたからだとか。

「そういうことは早く言ってください」
「ごめん。卒業パーティーで婚約を申し込むつもりだった」

 そういえば、この学院の卒業パーティーで婚約を決めた二人は幸せになれるというジンクスがあるんだったな……



4/28/2025, 11:29:07 AM

またファンタジー。1,200字程です。
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【夜が明けた。】




 夜が明けた。そんな実感は全くないのだが。奮発して買った懐中時計が、今はもう朝だと告げている。

 実感がないのも当然だ。ここは迷宮の中で光なんて届かない。俺たちを照らすのは地面の焚き火と燈火の魔法で出した光の玉。周囲の深い闇と比べると心許ない明かりである。

 俺は今、遭難中だ。迷宮の地形はごく希に変わることがあると先輩冒険者から聞かされてはいた。けど、まさか新しい道を見つけた先に、転移罠があるなんて。

 罠を踏んだのは俺だけで、本当なら俺がひとりで遭難するはずだった。だけど。転移が発動する寸前、ポーターとして雇った少年が俺の腕を掴んでついて来てしまった。

 ポーターというのは荷物持ちだ。収納魔法が使えたり魔法鞄を持っていたりするやつが、他の冒険者の代わりに荷物を運ぶのだ。食料や予備の装備や、倒した魔獣の素材なんかを。

 ポーターがいれば他の冒険者たちは戦闘に専念できる。けど、優秀なポーターは雇うと高い。今回雇った少年は、彼を一切戦わせないという条件で安く雇われてくれたのだ。だから正直、何も期待していなかった。

 それなのに。わざわざ俺について来た少年は、実はとんでもない大容量の収納魔法が使えたらしい。

 新鮮な野菜を出してスープを作ってくれたり果物を切ってくれたり、しかもそれをテーブルと椅子を並べて食わせてくれたり。それだけでもかなりの規格外だ。

 休もうと言ったら、寝るならどうぞとベッドを出されて、俺はもう「は?」としか言えなかった。

 なんだそれ。迷宮の中だぞ。それも遭難中。

 普段の迷宮探索よりも数段快適な遭難生活。いくら収納魔法があるからって、家具がぽんぽん出てくるなんて。どういうことだよ。聞いたこともない。しかもこの少年、めちゃくちゃ強いのだ。

 本人いわく、冒険者ランクが上がったら専属にならないかという貴族からの話があって、それがどうしても嫌なので、昇級したくないし目立ちたくないのだと。
 だから昇級の条件を満たさないようにポーターとして活動しているらしい。

 それなのに、転移罠を踏んだ俺を見て、助けなきゃと思ってくれたという。ありがたい……

 俺が起きたことに気付いた少年が、ベッドを振り返って言う。
「おはようございます。食事、できてますよ」

 何なのこの子。何がしたいの。もしかして生還したら大金請求されるのか、俺。

「……どうしました?」
「いや。こんなに良くしてもらっても俺には何も払えないぞ?」
 いいんですよと少年が笑う。
「その代わり僕のことは黙っていてください。何も変わったことはなかった。いいですね?」

「あ、ああ」
 俺はこくこくと頷いた。
 頷かなければいけないと思った。下手をすれば命はないと。

 だって、燈火魔法で照らされた少年の目が。その瞳孔が。すうっと縦に細くなって剣呑に光ったのだ。それは爬虫類じみて恐ろしかった。まるで、気紛れに人間の近くに現れるという、伝説の竜の目。

 竜は気に入った人間を助けるというけれど。
 いや、まさか。まさか……ね。



4/27/2025, 1:56:34 PM

長いです。1,000字弱です。BLか……?
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【ふとした瞬間】




 僕がいきなり異世界に落ちてきた日から、まだ一年も経っていないと思う。とはいえ、いつまでも『この世界で最初に出会った人間だったから』なんて理由で、恩人の世話になり続けることはできなかった。

 自立するためにやれることはやると決めた。心配はされたけれど、部屋を借りて、ひとり暮らしを始めた。

 仕事は冒険者。ここは迷宮が近い冒険者の町だったから。戸籍がないなら他にできる仕事はあまりないと言われたから。ほぼ選択肢がなかったんだ。

 幸い魔法が使えて、どうにか暮らせている。日本にいた時よりも、毎日充実していると思う。それでもふとした瞬間、たまらなく寂しくなるのは仕方がないだろう。

 ここには家族がいない。親しい友人もいない。SNSやゲームの話なんてできる相手はいない。漫画もアニメもない。

 今更、帰ることは諦めている。でも、ここにいると自分の記憶が……日本という平和な国で生きていたこと自体が、現実だったのか信じられなくなってきて不安だった。







 ある日。迷宮から帰ってきた僕が冒険者ギルドで魔石を換金しようとしていた時。突然、男に腕を掴まれた。

「お前。もしかして日本人か!?」

 男の顔を見て『同類』だと確信し。僕は人目も憚らず泣いた。それくらい孤独だったんだ。

 その男は僕よりもずっとランクが上の冒険者だった。僕の話を熱心に聞いてくれて、この世界の人間には通じない懐かしい単語がたくさん口から溢れ出た。

「え、ここに来てまだ一年? ほとんど赤ちゃんじゃねぇか!」
 お前はよく頑張っていると思うと言われて、僕は更に泣いた。

 男は僕に魔法のコツや戦い方、効率がいい迷宮の歩き方を教えてくれた。代わりに僕が提供したのは料理だった。

「お前に会えて良かったよ。この国、米はあるのになんでか家畜の餌だろ。俺は料理なんて全然できないからさ、自分じゃ鍋でご飯炊くなんて無理だった」
 今度ハンバーグ作ってよ、と男が笑う。

 僕が急に、この町の冒険者の中でも稼ぎ頭と言っていい男の相棒になったことで、妬まれることも少なくない。彼が今まで誰とも組んでいなかったから尚更だ。

 でも、僕と相棒の間には、他の誰かとは共有できないものがある。そう簡単にこの場所を譲るつもりはない。彼と釣り合うように強くなりたい。なれるはずだ、今の僕なら。

 もちろん、ハンバーグは作ってやるとも。



4/26/2025, 11:56:50 AM

BLです。ご注意ください。
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【どんなに離れていても】





 初めて対峙したはずの勇者に、玉座の魔王が言った。
「ずっとお前を待っていた」
 魔王は鮮やかな赤色の目を細め、愛しい者を見るかのようにうっとりと微笑んでいた。

「今のお前は光。私は闇。我々の存在は互いに遠いところにある」
「……なんの話だ」
 勇者は聖剣を構えて青い目で魔王を睨んだ。

「我々は惹かれ合うという話だ」
 魔王がゆらりと玉座から立ち上がった。
「どんなに離れていても、私にはお前が、お前には私が、唯一無二なのだ。そうだろう?」

 魔王は笑って、腕を広げた。まるで抱擁を待つかのように。
「私を殺せるのはお前だけ。しかし、お前を殺せるのも私だけのはずだ。人の理を超えた哀れな者よ。女神も『愛し子』などと言いながら随分と残酷なことをする」

 勇者が何を考えたのか。聖剣の切先が微かに震えた。すぐに仲間から「魔王の話など聞いてはいけない!」と檄が飛ぶ。

「私を殺せ、勇者。もう生きるのも飽いた」
 勇者が聖剣を構え直す。
「いいだろう。その願い叶えてやる」
 聖剣が無抵抗な魔王の胸を刺し貫いた。腰に届くほどの長さがある魔王の銀髪が血に濡れる。

 虚ろな目をした魔王が呟いた。
「また会おう、半身よ……」

 勇者はその後二百年生きて、次の魔王となった。その魔王と相討ちになった新しい勇者は、銀髪に赤い目をしていた。








「……と、いう記憶があるのだが」
 幼馴染にとんでもないことを言われて、僕はぱちぱちと瞬きした。

 確かに僕は銀髪で目が赤いし、幼馴染の目はきれいな青だ。
「僕と君が、勇者と魔王を繰り返しているって言うの?」

「違う。繰り返して『いた』んだ。過去形だよ」
 意味がわからなくて、僕は首を傾げた。
「やっと同じ年代に、こんなに近くに転生できた。俺はお前が魔王になるなんて許さないし、お前が居てくれるなら魔王になんかならない」

 だから一緒に居てくれと幼馴染は言う。
 それはなんだかとても情熱的な愛の告白のように聞こえて、僕は真っ赤になって頷いた。



4/25/2025, 10:29:44 AM

私はいつも『お題の文言をできるだけそのまま本文に一度以上入れる』という縛りで書いておりまして、今回はどうしてもこれくらいしか思いつきませんでした……!
今日のお題難しいです。

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【「こっちに恋」「愛にきて」】





 待ち合わせの時間が迫っていた。私は寝坊した己を呪いながら、慌てて家を飛び出した。
 移動中、スマホから『ごめん、遅れる』と連絡を入れれば、友人からの返信は『早くこっちに恋』という……

 誤字は誰にでもある、仕方がないよな。そう思って一度は見逃した。目の前で電車のドアが閉まって、更に遅れることが確定し、もう一度詫びの連絡を入れると、今度の返信は『待ってるから愛にきて』だった。

『何それ。わざと?』
 新しい遊びかと尋ねれば、友人からは『あんまり急かしたくないから』『責められてる気がしなくていいでしょ』という返事。
『うん……確かに?』

 優しい友に感謝しつつ、でもまあ、イマイチ笑えないけどな、と思いながら。結局一時間近くも待たせてしまって。
「カフェで何か奢るから許して!」
 私はそう謝り倒したのだった。



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